テレビ東京のプロデューサーとして「ゴッドタン」や「あちこちオードリー」など数々の人気番組を手掛けた佐久間宣行氏が、独立後、かつてない規模で挑んだ新作がNetflixのコメディーシリーズ「トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ~」だ。サスペンスドラマの合間に、芸人たちが台本なしで挑むトークパートを挿し込んだチャレンジングな構成。幅広い分野で活躍する佐久間氏とはいえ、グローバルプラットフォームで展開するバラエティー番組はクリエイター人生初の試みとなる。独自性を打ち出しながら、どのような狙いで企画し、日本発のお笑いカルチャーを世界へ発信しようとしたのか。

テレビ東京のプロデューサーとして数々の人気番組を手掛けた佐久間宣行氏は独立後、初のコンテンツ発表の場として、Netflixを選んだ
テレビ東京のプロデューサーとして数々の人気番組を手掛けた佐久間宣行氏は独立後、初のコンテンツ発表の場として、Netflixを選んだ

 佐久間宣行プロデューサーが企画・プロデュースしたNetflixコメディーシリーズ「トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ~」(以下、トークサバイバー!)は、笑いとシリアスなドラマを掛け合わせた新しいスタイルのバラエティー番組である。テレビ東京を独立して約1年、Netflixから「バラエティー番組として面白いものを作りたい」との依頼を受け、佐久間氏が提案した。

佐久間氏が手掛けるNetflixのコメディーシリーズ「トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ~」
佐久間氏が手掛けるNetflixのコメディーシリーズ「トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ~」

 世界190以上の国と地域で展開するNetflixでの配信。国内の視聴者向けに放送するテレビ番組とはまったく異なる依頼をどう受け取ったのか。佐久間氏は「オファーを受けた時、一瞬、世界配信も意識したが、まずは自分が面白いと思うものを作ろうと考えて企画した、そのうちの1つがトークサバイバー!。(ヒットの保証がある)安全な企画ではないが、むしろ、それを選んでもらったことが素直にうれしかった」と明かす。

千鳥を起用、理想の笑いを追求した

 番組の中心人物としてまず浮かんだのが、人気お笑いコンビの千鳥だったという。過去に佐久間氏が千鳥を起用した番組には「NEO決戦バラエティ キングちゃん」がある。既に信頼関係を築いていたことが大きい。それは、「千鳥の面白さを認めていない芸人はいない。大悟もノブも捨て身で面白みを出す力がある。不得意な現場はないことを知っていた」と話す佐久間氏の言葉からも伝わってくる。普段から仕事の合間を縫って舞台などの現場にも積極的に足を運ぶ佐久間氏は、千鳥が単独ライブでやっていたツッコミ入りの長編芝居「大悟魂」などからもヒントを得て、今回の企画を練り上げた。

 トークサバイバー!では、大悟を中心に若手からベテランまで話芸を極める芸人たちが参戦する大喜利形式のトークパートと、間宮祥太朗や東出昌大ら俳優陣が脇を固める本格ドラマパートで構成する。この構造は、佐久間氏にとって「理想的な笑い」を追求したものでもあるという。

ドラマパートとトークパートが融合した本編をけん引するのは、俳優としての実績もある千鳥の大悟
ドラマパートとトークパートが融合した本編をけん引するのは、俳優としての実績もある千鳥の大悟
千鳥のノブは、本編を見ながらツッコミを入れる
千鳥のノブは、本編を見ながらツッコミを入れる

 「Netflixじゃないとできないチャレンジ感は出そうと思った。バラエティー好きの人も単純に謎を匂わせるドラマに驚いたり、ドラマ好きの人があるあるにクスッと笑ったりできる。学園ドラマの中に続きが見たくなるような仕掛けが入れば、予想外の展開に驚く。そういうコンテンツって、実はあまりない」(佐久間氏)

 つまり、あえてお笑いファンに迎合しない企画にすることで、「想定していない面白さが生まれる」――それが佐久間氏が考える理想の笑いだった。

 それは、視聴者にも受け入れられ、配信翌日にはNetflix公式人気作品リスト「今日の総合TOP10」入りを果たし、2日後には1位を獲得。配信開始から約1カ月間にわたりリスト入りした。

トークとドラマの予算配分が面白さの鍵に

 撮影現場においては出演者自身にとっても想定していなかった驚きが生まれたという。Netflix基準の制作体制では、トークパートもドラマパート同様、映画並みのカメラで撮影された。しかも、カメラの数とセットの規模も大きかった。それに「出演した芸人みんながびっくりした」というのだ。通常、地上波テレビのバラエティー番組は数台のカメラで撮影されるが、今回はトークパートにも十数台のカメラが用意され、セットの移動短縮を考慮して、本格的なセットも4つ同時に作られた。

Netflix基準の制作体制では、トークパートもドラマパート同様、映画並みのカメラで撮影された
Netflix基準の制作体制では、トークパートもドラマパート同様、映画並みのカメラ数で撮影された

 ただ、面白さと予算は比例しないものだ。テレビ東京で二十数年のキャリアを積んできた佐久間氏にとって、「低予算でもいかに面白いアイデアを生み出すか」という考え方が当たり前。Netflixの制作規模は、それとある意味、真逆の方向性である。

 そこで、佐久間氏はトークとドラマの予算配分に意識的に差を付けた。「お笑いは予算をかけたからって面白くなるわけじゃない。だから、トークパートは芸人がやりやすいように、余計なことをせずに、できるだけシンプルにした。一方、ドラマパートは笑いになる部分に予算をかけて作った」と説明する。

ドラマパートには間宮祥太朗や東出昌大ら俳優陣が出演
ドラマパートには間宮祥太朗や東出昌大ら俳優陣が出演

 論理的に作った要素はほかにもある。それは、フォーマット化の可能性を企画段階から考えていたことだ。フォーマット化とは、正式な手順を踏んだ上で、各国の視聴者に合わせてローカライズし、各国版の番組を作る方式。日本の配信番組からも事例が生まれ始めている。例えば、Amazonプライム・ビデオの「ドキュメンタル」がそうである。現地のタレントが出演し、話芸を繰り広げることによって、それぞれの国の視聴者がより楽しめる番組になる。トークサバイバー!も「ドラマとトークを積み重ねる構造がほかにはないので、(海外の方にも)面白がってもらえる可能性があると思った。フォーマット化して海外に展開することも期待はしていた」と佐久間氏は話す。

人間性が先に立つ時代がクリエイターを後押しする

 Netflixとの第1弾の取り組みとなった今回、独立系クリエイターとしての可能性についても感じるところがあったようだ。「ドラマもバラエティーも経験がある僕しかできない企画になった」と自負をのぞかせる。

 「とにかく楽しかった。誰もやっていないことをやらせてもらっているという意味でも、楽しかった。誰もやっていないことをやらせてもらう立場にはなかなかなれない。だから、それはすごいことで、とてもうれしいという思いが常にあった。『あれやってよ』と、言われることはたくさんある。そこにもいけずに、やらせてもらえないこともたくさんある。その中で『今までやったことのないことをやってください』と言われてできる。それって、うれしくないですか?」

 これは、番組制作に限らず、ものづくりにたずさわる人なら誰もが抱える正直な思いだろう。一方で、今の時代は現在の佐久間氏のようなクリエイターに味方しているとも言える。「時代がより、“クリエイター・ファースト”になっている。個人が発信できる時代になり、個人の人間性が先に立つ時代になった。だから、クリエイターは組織に所属するだけではなく、組織から離れた活動でも、自分の人生を開けるようになったのではないか」と、佐久間氏自身も分析する。

 しかも佐久間氏はあくまでも気負いなく取り組んでいる様子だ。「(ラジオパーソナリティーとしての)『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』をやって、バラエティーを作って……自分が面白いと思うことしかやっていない。自分にとって全部思い出作りだと思っている」という言葉にもそれが集約されている。

 半面、独立後の1年は「いただいた仕事を一生懸命こなすのに精いっぱい。あっという間に終わったという感じ」という率直な感想も。そして、今後の計画について語る言葉も佐久間流だ。

 「Netflixで新たに作りたいバラエティーがある。これまでのバラエティーの文法を生かしながら、バラエティーで視聴者は何をやったら驚くかを体感として学んできたから、今度は自分にしかできないストーリーを作りたい。あくまでもディレクター、プロデューサーに徹して作品を作っていきたいと考えています。そう言いながら、もしかしたら数年後はラジオをたくさんやっているおじさんになっている可能性もあるんですけどね」

 これまでは佐久間氏でさえも、既存の枠にとらわれがちだったわけだが、今は才能があり、アイデアがあれば、個としてコンテンツを発信していくことができる時代になった。メディアもそれを後押ししている。Netflixに場所を移した佐久間氏のチャレンジはそのことの表れと言えるだろう。

(写真提供/Netflix)

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