「よなよなエール」「水曜日のネコ」などのクラフトビールを展開するヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)が、全国展開を視野に入れた通年商品「裏通りのドンダバダ」を発売した。同社では約10年ぶりの基軸商品。20代半ば~後半の男性をターゲットとし、クラフトビールのさらなる定着を図る。
嗜好性が高い20代の男性に訴求
クラフトビール製造会社のヤッホーブルーイングが、約10年ぶりとなるレギュラー商品「裏通りのドンダバダ」を発売した。同社は1997年創業で、クラフトビールブームのけん引役となった「よなよなエール」、水色の背景色に猫が描かれた缶のデザインが特徴的な「水曜日のネコ」、強烈な苦味が特徴的な「インドの青鬼」、レモンやマスカットの香りが漂う「僕ビール君ビール」など、個性的な商品を常時10種類以上展開している。
そこに今回、「裏通りのドンダバダ」を新たに追加した。ドライな味わいにワインのシャルドネをほうふつとさせる香りで、軽快さを出しながら、アルコール度数6.0%と飲みごたえも持たせたという。販売価格は294円(税込み)。2022年3月14日から樽(たる)製品をよなよなエール公式ビアレストラン「YONA YONA BEER WORKS」で、3月22日から缶製品を全国のローソン、ナチュラルローソン、ポプラの酒類取扱店舗と公式通販サイトで数量限定で先行発売している。
まず目がいくのはユニークなパッケージと商品名だ。もちろんこれらには意味があり、商品コンセプトに基づいて決められた。
ヤッホーブルーイング社長の井手直行氏は、「裏通りのドンダバダ」の商品イメージをこう語る。
「今後のビール市場のことも考え、世間的にビール離れが進んでいるといわれる若い世代を対象に『なぜビールを飲まないのか』『どういう嗜好性を持っているのか』を念頭に市場調査した。すると自分の好きな物事に夢中な人、他人の目を気にせず自分らしくありたいと感じている人には、こだわりや個性のある商品が届くと分かった」
上記の発言の通り、ターゲット層は嗜好性の高い商品を好む20代半ば~後半の男性だ。商品名の「裏通り」には「ツウでこだわりのある大人が集まる場所」という意味を込め、「ドンダバダ」は自由に即興演奏するジャズの響きから着想を得た。パッケージに描かれたプロレスラーは、実際の選手をモデルにしている。自身の必殺技で勝つ美学を持つ選手を取り入れることで、こだわりのある商品だとアピールする。
「市場の底上げのきっかけになれば」
さらに裏通りのドンダバダは、ヤッホーブルーイングにとって約10年ぶりの全国展開を視野に入れた新商品である。このタイミングでレギュラー商品を発売した背景には、ヤッホーブルーイングとクラフトビール業界の好調がある。
ヤッホーブルーイングでは、「よなよなエール」の21年の出荷数が前年比で3割増に。同社の商品群全体でみると、通販は販売量が4割増、定期宅配サービスでは出荷量が5割増となった。これを受け、ヤッホーブルーイングの業績は19期連続で増収となり、21年は過去最高益を更新した。クラフトビール業界全体もここ数年で上り調子だ。その好調の理由を井手氏は「コロナ禍で家飲み需要が増え、普段飲めないようなぜいたくで自分の嗜好に合ったおいしいビールを飲みたい人が増えている」と分析する。
「今はクラフトビールの市場が盛り上がっているので、レギュラー商品を追加する絶好のタイミングだ。世間的にクラフトビールの認知は上がっているが、まだまだ日常的に飲んでいる人は少ない。クラフトビールメーカーの中で、全国各地に展開できる生産能力を持っている企業が少ない中、当社が全国展開を予定するレギュラー商品を加えることは、市場の底上げのきっかけになる」(井手氏)と語った。
ヤッホーブルーイングが現在、全国向けに展開する主要ブランドは5種類。裏通りのドンダバダで6種類目となる。既存商品と風味がかぶらないよう、裏通りのドンダバダは製造過程で4つの点にこだわった。
1点目は、酵母添加量を「水曜日のネコ」の3倍に増やし、バナナやりんごを思わせる香りをつけたこと。2点目は、最高26度の温度帯で発酵させ、シャルドネに近い爽やかな香りを加えたこと。3点目は、ブドウ糖を加えてドライな味わいに仕上げたこと。4点目は、ドライホップ(発酵中のビールにホップを添加して香りづけをする手法)にすることで、ウッディーな香りを加えたことだ。「IPA」や「スタウト」といった一般的なビアスタイルを念頭に置かず、試験醸造を繰り返して商品化にこぎ着けた。
今後は、売れ行きを見て生産量や販売エリアを拡大していく。自社で展開するレギュラー商品のバリエーションを増やし、さらなるクラフトビールの浸透を狙う。
(写真提供/ヤッホーブルーイング)