2022年4月、パナソニックは持株会社制として新たなスタートを切った。事業会社の1つが、樋口泰行氏が率いるパナソニック コネクトだ。25年ぶりに古巣に出戻った樋口氏は、「変わらなかった」パナソニックでマーケティング体制を作り直した。その取り組みや狙いを2回にわたって、樋口氏が語る。初回はマーケティング組織のあり方について。
※新刊『パナソニック覚醒 愛着心と危機感が生む変革のマネジメント』(日経BP)の第3章の一部を抜粋・再構成したものです
パナソニック コネクト 代表取締役 執行役員 社長・CEO
パナソニックに再入社して、真っ先に手を打たなければいけないと感じた部門横断的な機能が、マーケティングでした。パナソニックの中でマーケティングというと、イコール家電のマーケティング。つまりはBtoCマーケティングでした。
しかし、BtoBマーケティング、エンタープライズマーケティングに関しては、その概念自体がない、という印象を持ちました。そもそも、組織が存在していなかった。
デジタルへの対応も遅れていました。結果的に広告代理店に頼った、オールドスタイルのマーケティングでした。
BtoBマーケティングの概念がなかった
ソリューションを手がけていた営業部門にはマーケティング機能はありましたが、どちらかというとセールスに近いマーケティングでした。しかも、事業部と十分に連携しておらず、二分されていたのです。
これを統合し、しかもデジタル思考を入れ、新しい考え方もキャッチアップするという意味で、新しいマーケティング組織の立ち上げは必要不可欠だと早いタイミングで判断しました。
しかも、BtoBマーケティングの概念がないわけですから、そのスキルを持っている人材は社内にいません。いくら勉強したとしても、実際に実務で経験していないと、特にリーダー的な存在だと難しい。そこで、スキルを持っている外部人材を採用することにしたのです。
その中で、「あ、こんなふうにやればいいんだ」という形で背中を見て勉強をしてもらおうと思いました。リアルな姿でキャッチアップすることができるわけです。実際に、そういう形になっていきました。
ヘッドハンターを通じて見つけてきてもらったのが、パナソニック コネクトの執行役員 常務CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)兼マーケティング本部長の山口有希子でした。シスコシステムズ、ヤフー、日本IBMなどでマーケティングのキャリアを積んできたマーケティングのプロフェッショナルです。特にデジタル領域に強い。私が期待したのは、当社のマーケティングを近代化することでした。
外資系企業で活躍してきた山口ですから、パナソニックからの誘いには驚きもあったようです。しかし、私たちの改革にかける本気度に加え、外資系企業では当たり前になっている最先端のマーケティング機能を日本企業の中でもぜひ実現したいということで、2017年12月にCMOとしてジョインしてくれました。
ひとまず即席で数人のチームを用意していたのですが、最初から驚きがあったようです。ブランドキャンペーンが計画されていたのですが、デジタルメディアがプランの中にまったく入っていなかったからです。
広告代理店から言われるままに、テレビや新聞でのキャンペーンが組まれていたのです。急ぎ、山口によってデジタルプロモーションが組み入れられていきました。
その後も、いろいろシビアな報告を受けました。特にデジタルマーケティングのためのシステムやプラットフォームが整っていなかった。分析ツールもなく、データアナリストもいなかった。SNS(交流サイト)のアカウントもなかった。これも社内にスキルセットや知見がありませんから、山口が外部から必要な専門家を採用していくことになります。
さらに、これは私も感じていたことでしたが、それぞれの事業がバラバラで動いていて、面のコミュニケーションができていませんでした。Webサイトでもうまく表現できていませんでした。
近代化の遅れは致命傷になる
カンパニーとして、どういうことを目指し、どうしたいのかが社内にも社外にも、コミュニケーションできていなかった。ここでも、山口が取り組みを進めてくれることになります。
この記事は会員限定(無料)です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー