森永製菓は2022年2月のバレンタインデーに合わせ、バンダイナムコエンターテインメントのゲーム『アイドルマスター シャイニーカラーズ』とコラボレーション。ゲームに登場する「園田智代子」らアイドル5人を、同社のチョコレート「ダース」のブランドアンバサダーに起用した。
「『ダース』は2023年に発売から30周年を迎える。それに向け、より若い世代にアピールできる存在を起用したいと考えていた」――森永製菓マーケティング本部菓子マーケティング部チョコレートカテゴリー担当の吉積優氏は、今回の「アイドルマスター」(アイマス)とのコラボレーションの理由をこう語る。
ダースは1993年に発売された森永製菓のチョコレート菓子だ。独自の製法でチョコレートにミルクを配合したことによるコクや口溶けの良さ、あらかじめひと口サイズに分かれている食べやすさで発売当初から人気を集めた。チョコレートの購買層は一般に30~40代の女性がボリュームゾーンだが、「ダースは比較的若い世代にも人気が高かった」という。
そのダースも発売から30年。ブランドが定着するとともに、購買者の年齢層も徐々に上がりつつある。そんな中、改めて若い層からの注目を高めようと、取り組んでいるのが、若年層、特にZ世代に向けた訴求だ。森永製菓では、2021年にダースのターゲット消費者をZ世代と設定し、ブランドとのタッチポイント拡大を進めている。
そこで着目したのが、若い世代にも人気が高いアイマスだった。アイマスは、バンダイナムコエンターテインメントが運営するアイドルプロデュースゲームシリーズ。『アイドルマスター』『アイドルマスター シンデレラガールズ』(デレマス)、『アイドルマスター ミリオンライブ!』(ミリオン)、『アイドルマスター SideM』、『アイドルマスターシャイニーカラーズ』(シャニマス)といった複数のブランドで、スマートフォンゲームなどを展開している。プレーヤーは、プロデューサーとなって、ゲーム内に登場するキャラクターをトップアイドルとして育て上げる内容だ。
ゲームには個性豊かなアイドルが多数そろっているが、「中でも、今回のコラボの中心となった、シャニマスに登場する園田智代子さんは、自ら“チョコアイドル”と名乗るほどのチョコレート好き。ダースのアンバサダーとして、彼女を応援する幅広い方々に、ダースの魅力を伝えてほしいと思った」と吉積氏は話す。
ゲームと現実をどこまで融合させるのか
アンバサダー起用に当たっては、シャニマス内で園田らが所属する架空の芸能プロダクション「283プロダクション」に“打診”。同プロダクションがこれを“快諾”する形を取った。また、園田のほか、八宮めぐる、黛冬優子、大崎甘奈、樋口円香という4人のメンバーを選出。「ダースには、味わいの異なる商品が複数ある。親しみやすいキャラクターの園田を中心に、バランスを見て組んだ」(バンダイナムコエンターテインメント第3 IP事業ディビジョンライセンスプロダクションライセンスプロデュース課チーフの池田ななこ氏)
22年1月31日からは、バレンタインデー時期の施策として『DARSでHAPPYキャンペーン』を開始。特設サイトで公開する30秒の商品PR動画やそのメイキング動画の撮影、商品購入者がレシートで応募すると各メンバーのオリジナル商品が当たるプレゼント企画の実施などを展開した。連動して、シャニマスのゲーム内では、アイテムとして「DARS」がもらえる特典も用意した。
この過程で、運営サイドが考え抜いたのが、ゲーム内の世界観と現実をどこまで融合させるかだ。例えば、30秒の商品PR動画の場合、「動画を通じてメンバーがメッセージを送るのはファンの皆さん。一方で、この動画を楽しみにしているのは、日ごろ、彼女たちを応援し、ゲーム内で育てているプロデューサー(プレーヤー)だと思う」と池田氏。アイドルたちのどんな姿を見せれば、プロデューサーに喜ばれるのかは悩んだポイントだという。
駅構内の広告も同様だ。キャンペーン期間中には、森永製菓とバンダイナムコエンターテインメントがあるJR田町駅構内に、メンバーが移ったダースの広告を掲示した。ゲーム内の世界では、今回のキャンペーンは森永製菓と283プロダクションのコラボレーション。一方で、現実は、森永製菓とバンダイナムコエンターテインメントの取り組みとなる。田町駅に貼る駅内広告に、バンダイナムコエンターテインメントのロゴを入れるのかは議論があったと明かす。
そうした課題を、「まさに一つ一つ検討していった」と池田氏。商品PR動画では、メンバーが30秒間でダースの魅力やお薦めポイントを説明。カットが掛かった後、プロデューサーに向けて「大丈夫かな」「お疲れさまでした」「あとで一緒に食べようね」など、“本音”を明かすシーンをあえて残した。一方で、駅看板にはバンダイナムコエンターテインメントのロゴは入れず、ゲームの世界観そのままを実現したという。
プレゼント企画の応募数は2倍に
こうした工夫の成果か、吉積氏は「本キャンペーンにはかなりの手応えを感じた」と話す。森永チョコレートのTwitter公式アカウントが1月31日に投稿したキャンペーン告知ツイートには、1.2万件のリツイート、1.9万件の引用ツイート、1.6万件のいいねが付き、フォロー&リツイートプロモーションのために用意した「#DARSシャニマスコラボ」はTwitterトレンドの1位を獲得。
2月28日までのキャンペーン期間中の30秒商品PR動画の再生数は、5人のメンバー合わせて97万回を達成した。「圧倒的だったのが、プレゼント企画の応募数。商品購入レシートを使ってパソコンやスマホから応募する“マストバイ”タイプのキャンペーンはこれまでにもやったことがあるが、応募数は一般的なものに比べて2倍以上になった」(吉積氏)
こうした盛り上がりには、キャンペーン期間中の両社のSNSでの情報発信も後押しとなったようだ。シャニマスの公式Twitterアカウントは、JR田町駅構内に掲示されたキャンペーン広告を、ブランドアンバサダーの園田自身が見に行った様子を写真付きで投稿。5309件のリツイート、1.6万件のいいね、がついた。
また、キャンペーン期間中の2月24日が園田の誕生日だったことから、森永製菓が園田と283プロダクションにダースをプレゼント。それにシャニマス公式アカウントから園田がお礼を返すやりとりもTwitter上で生まれた。これに対しては、プロデューサーから「智代子おめでとう」「森永さんありがとう」「コラボを通じてダースを購入した」といったコメントも付き、盛り上がりを見せた。「タレントさんをCMに起用するときなどによくやること。プロデューサーの皆さんにも喜んでいただけてうれしかった」と吉積氏は笑顔を見せる。
今回のキャンペーンの成功について、森永製菓の吉積氏は「世の中にはいろいろなコラボがあふれているが、今回はチョコ好きのアイドルにチョコレート菓子のアンバサダーをしていただいた。起用の理由が自然に納得できるストーリーにできたことが一番大きかったと思う」と分析する。
一方のバンダイナムコエンターテインメントの池田氏は、「プロデューサーは、チョコレートのアンバサダーに選ばれるという智代子の念願がかなったことを祝福してくれた。それはゲームの世界観やストーリーとも合致していたから。(駅広告や動画などを通じ)実在感を一層高められたことは、シャニマスにとってもプラスだった」と語る。
プロデューサーであるプレーヤーがアイドルの背景や成長の過程を共有しているのは、アイマスならではの要素。ただ、アイドルを起用するのではなく、そのストーリーまでも生かしたことが、今回のコラボレーションの成功の秘訣と言えそうだ。
(写真提供/森永製菓、バンダイナムコエンターテインメント)