長い間、キリンビバレッジ「午後の紅茶」一強だった「ペットボトル紅茶飲料市場(紅茶市場)」が、2019年から様変わりしている。複数の飲料メーカーから新ブランド発売や既存品のリニューアル発売が相次ぎ、いずれも好調に推移。大混戦の様相を呈しているのだ。そんな中「午後の紅茶」が次の一手として、新商品「キリン 午後の紅茶 ミルクティー 微糖」を22年4月5日に発売した。
甘さはあるがカロリーは半分
キリンビバレッジが2022年4月5日に発売した「キリン 午後の紅茶 ミルクティー 微糖」(以下「ミルクティー 微糖」)は、19年3月に発売した「午後の紅茶 ザ・マイスターズ ミルクティー」(以下「マイスターズ ミルクティー」)と同じ“微糖ミルクティー”カテゴリーの商品だ。最大の違いは甘さで、マイスターズ ミルクティーが健康志向の高まりを受けて「甘くない」ことを売りにしていたのに対し、ミルクティー 微糖は「甘さはしっかりありながらカロリーは半分(『キリン 午後の紅茶 ミルクティー』比)」にして「おいしさとカロリーオフの両立」を実現しているという。
ボトルの形状はマイスターズ ミルクティーを継承。ペットボトル紅茶が飲料市場の5%程度と限定的であるため、他カテゴリーの棚にも並べてもらえる形状にしているという。なお、ミルクティー 微糖の発売に伴い、これまでのマイスターズ ミルクティーは販売終了となる。
“ペットボトル紅茶バブル” 後の施策
実は従来、コンビニのペットボトル棚は、水・お茶・炭酸が主だった。17年の「クラフトボス」発売以降、ペットボトルコーヒーが定着したのに続き、19年春から紅茶飲料の新発売が相次ぎ、棚が変化した。
例えばサントリー食品インターナショナルが「クラフトボスTEA ノンシュガー」シリーズを同年3月に、伊藤園が「TEAs’ TEA NEW AUTHENTIC 生オレンジティー」を同年8月に発売、同年9月には日本コカ・コーラが「紅茶花伝 ロイヤルミルクティー」をリニューアル発売。いずれも堅調に数字を伸ばした。
紅茶市場でシェアトップの「午後の紅茶」ブランドも、この盛り上がりに貢献。特に甘くない微糖であるマイスターズ ミルクティーは発売約7カ月で5000万本を売り上げ、キリンの「無糖・微糖」紅茶市場をけん引するヒット商品となったという。その結果、19年はコンビニや自販機のドリンクの顔ぶれがガラリと変わり、“ペットボトル紅茶バブル”の様相を呈するようになった。
その後、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、市場が混乱する中、午後の紅茶ブランドは21年に35周年を迎え、3月にレギュラーシリーズをリニューアル。その後も35周年の施策として、9回にわたる商品投入、公式Instagramの開始などのブランド活動を実施した。
だが、21年は冬場のホット商品の不振が響き、通年で販売数量は前年比98%の4803万箱にとどまった(3~12月では前年102%、いずれも同社出荷実績)。これはコロナ禍で人流が減ったため、ホットドリンクの主な販売チャネルであるコンビニと自販機での購入機会が減ったことが大きな理由だ。
無糖・微糖紅茶販売18年比約7割増
こうした状況下で、キリンビバレッジが注力するのが、従来の飲料に健康という価値を加えた商品の充実だ。同社では22年のマーケティングの戦略スローガンを「ヘルスサイエンスをドライバーとする新たな価値創造への転換」としている。その両輪となるのが「プラズマ乳酸菌」を軸にしたヘルスサイエンス領域の拡大と、午後の紅茶や「生茶」などの基盤ブランドを「摂りすぎない健康(無糖・微糖)」を軸に再成長させることだ。
その背景には、成熟した清涼飲料市場全体、並びに紅茶飲料市場(紅茶市場)における、無糖・微糖カテゴリーの長期的な上昇基調がある。キリンビバレッジによると、「午後の紅茶」ブランドのうち、無糖・微糖紅茶の21年の販売数量は、18年比で約7割増と大きく伸長している(同社出荷実績)。
「19年に無糖・微糖の紅茶市場が大きく伸びたきっかけはマイスターズ ミルクティーの発売によるものと考えている。午後の紅茶としても当時、9年ぶりのヒット商品となった」(キリンビバレッジ マーケティング部 ブランド担当 担当部長 シニアブランドマネージャーの加藤麻里子氏)
ただ、発売当初はターゲットとしていた糖やカロリー摂取を気にする30~50代の女性消費者を獲得できたが、21年には売り上げが大幅に低下した。その要因は、競合商品が増えたことに加え、顧客層が広がらなかったこともある。加藤氏は「購入者当たりの購入規模は維持できており、高い支持は得られている(購入者層はリピート買いしている)ものの、この商品の“甘くない味わい“をちょうどよいと感じていただけるお客様の間口が意外に狭かった」と分析する。
同社が21年4月に実施した調査では、午後の紅茶ブランドのメインターゲットである30~50代女性の約4割が糖やカロリーの取りすぎを意識していること、男女ともに30代を境にカロリーや甘さを忌避する傾向が高まることが分かっており、無糖・低糖商品の需要が大きく変化したわけではない。
ただ、「甘いミルクティー」を選ぶ消費者が好む“甘さ”の指標はある程度はっきりしていても、“甘くない=微糖”の好みは幅広く、「もう少し甘さが欲しい」という消費者も少なからずいたということ。これを踏まえ、同社では、微糖ミルクティーの可能性を改めて分析した。
“健康とぜいたく”求める消費傾向
21年8月に同社が調べた「微糖」カテゴリーにおける飲用意向を見ると、ミルクティーは缶コーヒー、ペットボトルのコーヒーに次ぐ3位に入っており、“甘すぎないミルクティー”を求める消費者は多いことが分かった。

では、甘すぎないミルクティーを求める層が重視していることは何か。さらに分析すると、「糖やカロリーが抑えられている」ことよりも、「甘さがちょうどよい」「おいしい」「味や香りを楽しむ」といった、おいしさに関連する回答が上位を占めた。

こうした傾向は、コロナ禍における消費者の生活の変化により、4つの潮流が加速していることが関わっていると同社はみている。
- 感染予防・衛生意識の高まり(感染に対する不安と恐れによる変化)
- 公私ともに在宅時間の増加/つながりの希薄化(外出自粛/働き方による変化)
- 節約意識の高まりとぜいたく感を求める消費の2極化(経済的不安の増長による変化)
- 社会貢献意欲/社会連帯意識の高まり(情報量の拡大による変化)
この中で、同社では感染予防としての健康意識の高まりと、日常に刺激を与えてくれるぜいたく感を求める消費傾向の高まりに注目。どちらもかなえる商品開発に着手した。
健康については、微糖とカロリーオフがポイントとなる。そのためにはミルクや糖の使用量制限が不可欠だが、ただ抑えるだけでは飲み応えやおいしさが不足してしまう。この矛盾を解消すべく、同社は200以上もサンプルを試作したという。
完成したミルクティー 微糖は世界三大銘茶のスリランカ産ウバ茶葉を使用し、抽出時の湯量に対する茶葉量を通常よりも多くする「リーフリッチブリュー製法」を採用。さらにミルク分(乳固形分換算)と茶葉を「午後の紅茶 ミルクティー」比で1.2倍使用し、ほどよくすっきりした甘さが感じられる、バランスが取れた味わいに仕上げているという。「微糖でありながら有糖ミルクティーと遜色のないおいしさを実現できた。午後の紅茶ブランドスタートから35年間にわたり、お客様の求める紅茶のおいしさを追求し続けてきた知見を結集したからこそ開発できた、“奇跡の両立”だと考えている」と加藤氏は自信を示す。
22年は「『午後の紅茶』だからできる幸せなこと、もっと、もっと。」を年間のテーマに、21年を上回る12回の商品投入と、6つのブランド活動を予定している。加藤氏は「22年は21年発売の商品も含め、しっかりとお客様にお届けすることで、この2年苦戦している紅茶市場をいま一度盛り上げていけるのではないかと考えている」と意気込みを語った。
またキリンビバレッジ 執行役員 マーケティング部長の山田雄一氏も、「CSV(Creating Shared Value、共通価値の創造)を基軸としたパーパスブランディングを進化させながら、多くのニュースを提供して紅茶市場の活性化をけん引していきたい」と、午後の紅茶ブランドによる市場拡大への思いの強さを示した。
(写真提供/キリンビバレッジ)