巨大プラットフォームYouTube上でどう話題を集めるか。それはクリエイターにとって共通のテーマだ。フジテレビで「逃走中」などの人気番組を手掛け、独立後は自身のYouTubeチャンネルでオリジナル企画「ADEL33」を展開している高瀬敦也氏に、バズるための動画戦略を聞いた。キーワードは「当たらない可能性を下げること」、そして「5年は続けること」。
原動力はクリエイティブドリブン
テレビ界でいくつもの人気番組を生み出したトップクリエイターの1人、高瀬敦也氏がYouTubeに自身のオリジナルチャンネルを立ち上げたのは2021年7月のこと。約20年在職したフジテレビを18年に退社して独立。自身の会社で、多岐にわたるコンテンツをプロデュースしてきたが、ゼロから生み出したオリジナル作品としてゲームバラエティーショー「ADEL33」を企画した。その公開の場として選んだのがYouTubeだった。
その理由は、属人的なコンテンツに支持が集まる時代、オリジナルのクリエイティブ(作品)に挑戦することを選んだからだ。
「『逃走中』を含めて、自らの思いを100%反映したクリエイティブはこれまで手掛けたことがなかった。テレビの世界は、編成やスポンサーなどさまざまな要因がからまる。それ自体に異論はないが、そうしたビジネスとして作り出すクリエイティブではなく、ある意味、自己満足で作り出す“クリエイティブドリブン”な企画をYouTubeで進めたら、今、どんなことが起こるのか。『作り手も今後は絶対にYouTubeに入ってくる。良いタイミング』という中田敦彦さんからのエールにも背中を押され、社会的実験としてやってみる価値があると思った」
そうして企画した「ADEL33」の出演者は、お笑い界を中心に豪華メンバーが集まった。物語を掘り下げる“謎の声”として出演するのは、真っ先に相談した相手である中田。異世界を舞台に物語を進行していくプレーヤーには、スピードワゴン・井戸田潤、狩野英孝、さらば青春の光の森田哲矢と東ブクロ、三四郎・小宮浩信、SKE48・須田亜香里。さらにネットの世界からはYouTuberの渋谷ジャパン(記事公開時点のチャンネル登録者数2.19万人)、Web漫画家のやしろあずき(同時点のTwitterフォロワー数54.3万人)が出演する。これらプレーヤーたちに寄りそう謎の美少女「アデル」役には、今Z世代を中心に注目が高まっているシンガーソングライターの心悠(みゆ、同時期TikTokフォロワー4万8900人)と、モデルの大峰ユリホ(同時期Instagramフォロワー5.7万人)を起用した。
「ADEL33」は“ゲームショー”と銘打っているように、実写版PRGのような世界観だ。それを映し出すカメラの数は110台に上る。全8話、約4時間分に及ぶ制作に掛かった費用は、「キー局が制作するゴールデンタイムの2時間特番に匹敵する」(高瀬氏)というから、数千万規模だろう。資金は、クラウドファンディングのほか、インターネットコンテンツ制作などを手掛けるviviON(東京・千代田)など、3社のスポンサーを獲得して調達。22年2月の公開に至った。
個人が企画したYouTubeコンテンツとしては破格の規模だが、これは高瀬氏自身のクリエイターとしてのキャリアを最大限に生かした「クリエイティブドリブン」が軸にあったからこそ実現したという。
「敵がいるわけでもないけれど(笑)、1人で勝手に何かと戦っているように見えたんでしょうね。その自分に、出演者や制作プロダクション、出資者も決まっていないうちから懸けてくれた人たちがいた。そうして取り組むうちに、支援してくれる人が増えていった。(従来のコンテンツビジネスにはない)未来的な組織体制だと思います。それを築くことができたのは、この“プロセスエコノミー”(プロセスを共有することを収益につなげるビジネス手法)に感情移入してもらったから。今はもう、丁寧に企画書を作り上げ、アポを取ってプレゼンし、実際に作る前から(さまざまな関係者に)練り回されてコンテンツを作る時代ではない」
つまり、企画を立ち上げ具体化するうちに“仲間”が集まり、そのことが企画の発展につながっていったということだ。「YouTube創世記は企画先行型コンテンツの再生数が急激に伸びたけれど、それらは入れ替わりも早かった。実は企画先行のものは打たれ弱いんです。強いのは、人にひも付いたもの。これからの時代は間違いなく“人”が資産になっていく」と高瀬氏は話す。
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