ビジネスパーソンが自らのキャリア形成を考えるとき、「転職」は重要な選択肢になりつつある。転職を重ねながらファーストリテイリングやローソン、ハーツユナイテッドグループ(現デジタルハーツホールディングス)の社長を歴任し、2021年6月にロッテホールディングス社長に就いた玉塚元一氏と、エグゼクティブサーチ会社のハイドリック&ストラグルズジャパン(東京・港)でパートナーとして活躍する渡辺紀子氏が、前後編にわたって対談。前編では転職についての考え方、自分にとってのキーパーソンとの出会いなどをテーマに語り合った。

玉塚元一氏(写真左)と渡辺紀子氏(写真右)
玉塚元一氏(写真左)と渡辺紀子氏(写真右)

 2021年6月にロッテホールディングス社長に就いた玉塚元一氏といえば、プロ経営者の第一人者として、知らぬ者のいないスターだ。絶えず挑戦的なマインドを持つ、その人生観がどう築かれてきたかについては、既に多く記事にもなっている。ただ、決して偉ぶらない玉塚氏は自身のキャリア形成に関し、「あまり意識していない」と答える場面が多かった。そして、それよりも「たくさんの素晴らしい出会いに恵まれた」ことを強調するのだ。

 エグゼクティブサーチ会社のハイドリック&ストラグルズジャパン(東京・港)でパートナーとして活躍し、本誌でも連載「異能のキャリアを掘り起こす」を担当した渡辺紀子氏も、彼の人望は十分に承知している。玉塚氏がローソン在籍時代に渡辺氏が自ら筆を執り、手紙を送りアポイントを取ったことがきっかけで、二人は知り合った。どちらかと言えば、「哲学者タイプの経営者に引かれる」渡辺氏にとって、“唯二”の「突き抜けた明るさを持つ」例外が玉塚氏と、ワタミの創業者であり、21年10月に社長に復帰した渡邉美樹氏だという。「育ちのよさが全身から滲み出す、まったく嫌みのない人」というのが渡辺氏による玉塚評だ。ただ、経歴や人柄が優れているだけでは決してトップには立てない。そこで今回、玉塚氏に、まずは社会人となってからの自身の来歴を振り返るところから対談を始めてもらった。

マルチプル・クエスチョンを学ぶ

渡辺紀子氏(以下、渡辺) 大卒後に就職された旭硝子(現AGC)では当初、地味な工場勤務なんですね? しかも、2年と割と長く。

玉塚元一氏(以下、玉塚) 最初にAGCを選んだのが大事でしたね。千葉の化学製品工場で、タンクやパイプでプシュプシュと何やら造っているんです(笑)。化学なんてまったく勉強したこともないのに、そこに配属されました。しかも、周りの同期は理工系が大半で、事務系も東京大学や早稲田大学の出身などけっこう優秀なヤツばかり。最初の会議から専門用語が飛び交い、何を言っているのかさっぱり分からなかった。しかも、上司に対してきちんと意見を言えている。僕は一言も喋(しゃべ)れなくて……、そこでスイッチが入りました。

渡辺 中学からずっとラグビーを続け、大学の全国大会では準優勝もされているから、やはり負けず嫌いなんですね?

玉塚 ええ。そこで学んだ技がマルチプル・クエスチョン。分からないことだらけでしょ。それを絶対、明日に先延ばししないと決め、現場のいろんな人に聞くんです。そうすると、「大学まで出て、そんなことも知らないのか」と言われながらも、現場の皆が紙に書いてちゃんと系統立てて教えてくれるんですよ。なんであれとそれを混ぜるとこの製品になるのか、こちらはドラム缶なのになんであちらはプラスチック容器入りなのかとか。相手の顔色を見ながら機嫌が悪くなるまで聞いていくと、自然と対話になっていって、2年もたつと話の中身もけっこう分かってくるんです。2年目も後半に入ると、「その運搬法だとドラム缶が腐食する」なんて、僕も上司に意見していましたよ(笑)。

渡辺 何でも詳細を知るプロパーに聞くのが一番ですよね。その方法論は、後々勤められたアパレルでもコンビニでも、現在のお菓子メーカーでも通用しますよね?

玉塚 当時は経済の根幹はやはり製造業だと思っていたので、そこからキャリアをスタートできたのはよかったです。僕はとにかく海外に行きたくて、ずーっと上司に「行きたい」「行きたい」と吹き込んでいたんです。

 そうしたら強烈な常務がいて呼び出され、「お前、海外に行きたいのか? 英語は大丈夫なのか?」って。「まったく問題ありません」って嘘つきまして(笑)。前任者は脂乗りまくった40代後半の人でしたが、「これからアジアは伸びるし、お前みたいな若い馬力のあるのにやらせたほうがいいだろう」と。ただし、当時は「独身は海外に出してない。結婚しろ」と言うので、「分かりました!」って(笑)。

渡辺 で、ご結婚されたんですか?

玉塚 そんないきなりは無理ですよ(笑)。

渡辺 それが入社4年目? 相当お若いですよね。シンガポール営業所の化学品担当部門とはいえ、課長職というのも大抜てき。

玉塚 当時は本当にアジアが伸び盛りだったんです。それまで年商10億円ぐらいだったのが、いきなり100億円まで上がり、部下も2人から20人になったのかな。現地の会社を買収し、子会社の役員も務め、いろんなアライアンスの交渉をして、経営が本当に面白いと思えたんで、米国のビジネススクールに行かせてもらったんです。

玉塚元一氏 ロッテホールディングス代表取締役社長<br> 1962年東京都生まれ。高校・大学と慶應ラグビー部に所属し、フランカーとして活躍。大学卒業後、旭硝子に入社し、工場勤務・海外勤務を経て米国でMBAを取得。98年7月日本アイ・ビー・エム入社。同年12月ファーストリテイリング入社。2002年に同社代表取締役社長。05年に企業再生・経営支援を手がけるリヴァンプを設立し代表取締役。11年3月ローソン副社長執行役員COO。14年5月同社代表取締役社長。17年6月ハーツユナイテッドグループ(現デジタルハーツホールディングス)代表取締役社長CEO。21年6月現職。一般社団法人ジャパンラグビーリーグワン理事長も務める
玉塚元一氏 ロッテホールディングス代表取締役社長
1962年東京都生まれ。高校・大学と慶應ラグビー部に所属し、フランカーとして活躍。大学卒業後、旭硝子に入社し、工場勤務・海外勤務を経て米国でMBAを取得。98年7月日本アイ・ビー・エム入社。同年12月ファーストリテイリング入社。2002年に同社代表取締役社長。05年に企業再生・経営支援を手がけるリヴァンプを設立し代表取締役。11年3月ローソン副社長執行役員COO。14年5月同社代表取締役社長。17年6月ハーツユナイテッドグループ(現デジタルハーツホールディングス)代表取締役社長CEO。21年6月現職。一般社団法人ジャパンラグビーリーグワン理事長も務める

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