エステーが冷蔵庫の野菜室に置いておくだけで野菜の鮮度を保てるフードケアアイテム「新鮮番」を2022年4月1日に発売する。新型コロナ禍で自炊をする層、野菜を食べる機会が増えた層に向けて、フードロス削減の観点からも訴求していく。
野菜の「呼吸作用」に着目
生活日用品メーカーのエステーは、冷蔵庫の野菜室に置いておくだけで野菜を新鮮に保つ鮮度保持剤「新鮮番」を22年4月1日に発売する。販路は全国のスーパー、ドラッグストア、ホームセンターおよびEC(電子商取引)サイトなどで、初年度50万個(金額にして約2億円)の販売を見込む。製品ターゲットは「野菜は鮮度重視」の人、「野菜は丸ごと購入」する人、「料理やサラダ好き」の人、「保管に工夫」をする人だという。03年の発売以来、着実に販売数を伸ばしてきた米びつ用防虫剤「米唐番」と合わせて、フードケアアイテム市場をけん引するトップブランドを目指す。
野菜を含む青果物は収穫後も生命活動を維持する性質があり、大きく分けて呼吸作用(糖分やビタミンCなどの栄養分を分解)、蒸散作用(呼吸しながら水分が蒸発)、微生物作用(エチレンガスを放出)の3つによって鮮度が低下していくとされる。
新鮮番はこのうちの呼吸作用に着目した。「(呼吸をする点では野菜と人間は共通しているが)野菜と人間の成長速度で言えば、比べものにならないほど野菜が速く、あっという間に老化し、最終的には腐敗してしまう。それが、フードロスの原因の一つである直接廃棄につながる」(エステー 事業統括部門 防虫・衛生事業部 製品担当の河内ともみ氏)。
野菜の鮮度を保つためには、「低温」と「低酸素、高二酸化炭素状態」がポイントとなる。同社では野菜が冷蔵庫の野菜室で保管されることを前提に、炭酸ガス(CO2)の力を使い、野菜の呼吸を緩やかにする商品の開発を目指した。
低酸素状態で野菜が眠ったような状態に
河内氏によれば、新鮮番のパッケージにセットされた不織布の中には薬剤が入っており、冷蔵庫の野菜室内に入れると野菜の水分と反応して、炭酸ガスを発生する。設置約2時間後には、鮮度保持に必要な有効濃度に達し、庫内に炭酸ガスが行き届き、低酸素状態になる。人間は睡眠時に代謝が落ちるが、野菜も低酸素状態になることで眠ったような状態になり、水分や栄養分の消費を抑えて鮮度を保てるようになるという仕組みだ。これは「一部の最新冷蔵庫の野菜室でも使われているメカニズム」(河内氏)と言う。
新鮮番は野菜の呼吸量に応じて効果を発揮する。そのため、呼吸量の多いブロッコリーやレタス、キャベツなどの葉茎菜類、サヤエンドウなどの未熟豆、キュウリなどの未熟果菜、トマトなどの完熟果菜など、一般的に傷みやすい野菜に効果が高いという。逆に「ニンジンやダイコン、ジャガイモなどの呼吸量が少ない根菜類の場合、新鮮番の効果はやや分かりにくい」と河内氏。
通常スーパーマーケットで購入するような野菜は袋に入ったものが多く、そのまま保管している、あるいは鮮度を保つ目的などで、チャック付きのポリ袋に入れて野菜を保管している人も多い。こうした袋に入った状態の野菜の場合も「炭酸ガスは袋の表面を透過して野菜まで浸透していく。(袋内でも)鮮度保持に必要な炭酸ガス濃度が確認できている」(河内氏)と言う。
家庭のフードロス解消にもつなげたい
エステー事業統括部門 防虫・衛生事業部 事業部長の笠井和彦氏は、新鮮番を開発した背景には新型コロナウイルスの感染拡大の影響があるという。飲食店の休業や時短営業、外食機会の減少、感染対策による内食の増加、自炊機会が増えていることなどがその理由だ(※1)。
同社がさらに掘り下げて調査したところ、コロナ禍で野菜を食べる機会が増えたと回答した人は42.4%。一方で、約8割の人が食べきれずに野菜を廃棄した経験を持つ。さらに使い切れずに廃棄したことが理由で、購入をためらったことのある野菜があると回答した人は50.4%にも上った(※2)。特に「レタスやキャベツなどの葉物野菜は、そうした傾向が出ていることが分かってきた」(笠井氏)。
家庭内の食品ロスの約半分を占めるのが野菜類であることも分かっている(※3)。「野菜を廃棄するシーンは様々だが、鮮度が落ち、傷んでしまって食べきれず、そのまま捨ててしまったという直接廃棄が10%を占めている。こうしたことも大きな課題と考えた」(笠井氏)
新鮮番の発売により「野菜の鮮度を保つことで、最後まで食べきることができるようになり、家庭内のフードロスが解消される」(笠井氏)と、社会課題の解決にもつなげていく考えだ。
※2:週1回以上野菜を使って自宅で料理をする20~69歳以上の男女609人を対象に調査
※3:農林水産省「平成26年度食品ロス統計調査報告(世帯調査)」
独自性の高い技術もポイント
鮮度を保つという視点で言えば、エチレンガスを吸着する商品や保存袋が既にあるとしたうえで、河内氏は「新鮮番のような、野菜の呼吸を緩やかにすることで鮮度を保つ商品はあまりないととらえている」と独自性を強調する。また笠井氏は独自技術については特許出願中としながらも、「炭酸ガスの力で野菜の呼吸を抑制して鮮度を保つ方式は、家電製品などでは採用されている技術。しかし日用品ではあまりない、新しい技術ではないかと考えている」と話す。
販売チャネルについては、野菜との関係が深いことから、スーパーマーケットでの展開に力を入れる。食品に関して感度が高い層はインターネットでの情報収集力が高いことから、EC業態でのチャンスも見込んでいるという。
認知拡大については「今後は野菜売り場でPOPなども活用し展開する。また動画も使い、TwitterなどSNSやキュレーションサイトで発信していく。Twitterでは発売を記念した消費者キャンペーンも併せて実施する予定」(笠井氏)と言う。
新鮮番のブランドビジョンは「新鮮番によって“食品を美味しく”保ち、食材の持つ本来の美味しさを楽しむ人を応援。食品の廃棄も減らし、食品ロス問題に貢献する」だ。同社の食品保存に関連するアイテムの21年の販売規模は、19年比で米びつ用防虫剤(米唐番シリーズ)が約10%、冷蔵庫用脱臭炭(脱臭炭 冷蔵庫用シリーズ)が約8%、食品用乾燥材(ドライペット 乾燥キーパー)が約19%それぞれ拡大しているといい、新鮮番の登場でフードケアアイテム市場でエステーが存在感を示すことになりそうだ。