ハンドルを回すと、玩具が入った丸いカプセルが出てくる――そんなカプセルトイのイメージを覆す機種を、バンダイが打ち出した。「フラットガシャポン」と呼ばれる新機種で、販売する商材はクリアファイルや下敷き、色紙など、薄い平面のもの。担当者に開発の経緯を聞いた。

バンダイが2022年2月3週目から発売した「フラットガシャポン」
バンダイが2022年2月3週目から発売した「フラットガシャポン」

 人気のアニメキャラクターが描かれた下敷きやクリアファイル、色紙、台紙付きのポスターなど。一見、キャラクターグッズ専門店やおもちゃ屋、映画館の売店で販売されていそうな商品だが、これらはガシャポンの商材だ。バンダイが2022年2月の3週目にローンチした「フラットガシャポン」という新筐体(きょうたい)から入手できる。

「鬼滅の刃」「東京リベンジャーズ」「ポケットモンスター」など、人気のアニメキャラクターが描かれた台紙やクリアファイルが並ぶ
「鬼滅の刃」「東京リベンジャーズ」「ポケットモンスター」など、人気のアニメキャラクターが描かれた台紙やクリアファイルが並ぶ

 カプセルトイといえば一般的に、硬貨を入れて回転式のハンドルを回すと、玩具の入ったカプセルが筐体下部のポケットから出てくる。これに対し、下敷きや色紙などを商材にしたフラットガシャポンは、ハンドルを回すと筐体上部の細長い隙間から徐々に商材が出てくる。最後に筐体から商材を抜き取る仕組みだ。カプセルに代わるケースなどは付いていない。

強みのキャラものをそろえる

 バンダイはフラットガシャポンを売り上げが好調なカプセルトイの専門店「ガシャポンのデパート」をはじめ、全国約1500店舗に設置した。順次、設置店舗数や商材を拡大していく。

 現在は「鬼滅の刃」「東京リベンジャーズ」「ポケットモンスター」「しまじろう」「五等分の花嫁」などのグッズを展開(3月15日時点)。価格帯は、クリアファイルと下敷きが300円(税込み、以下同)、色紙や台紙付きのポスターが500円など。小学生やファミリー層、アニメ好きの女性など、幅広いユーザー層にまんべんなく気に入ってもらえるよう、キャラクターものと掛け合わせてラインアップを強化していく。

「ポケットモンスター」のクリアファイル
「ポケットモンスター」のクリアファイル

 バンダイ ベンダー事業部 事業開発チームの五十嵐達志氏は、フラットガシャポンを開発した経緯をこう語る。

 「カプセルトイは近年、各社が専門店を展開しておりブームになっている。業界全体でアイテムが豊富になる中、カプセルでは販売できない商材にもチャレンジして差別化を図る。(フラットガシャポンは)カプセルトイのトップシェアとして、ユーザーに驚きやわくわく感を提供し、面白いと感じてもらえるよう開発した」

バンダイ ベンダー事業部 事業開発チームの五十嵐達志氏
バンダイ ベンダー事業部 事業開発チームの五十嵐達志氏

 開発期間は約2年。ハンドルを回して平面商材が出てくる仕組みは単純そうに見えるが、五十嵐氏は「テストセールスを重ねてようやく商品化が実現した」と明かす。

 「格納する商品が多すぎると本体が重くなって商材が出づらくなったり、商材が1度に2枚出てきたりする。電力を使わずハンドルを回す小さな力だけで、平たい商材をどのようにうまく出すかに苦労した。コーティング剤一つとっても、素材によって機械の動きにムラがあり、サイズや厚さの違う商材を同じ筐体から出すために試行錯誤した」

 フラットガシャポンの筐体の内部をのぞいてみると、プリンターのように、サイズや厚みを調整できる仕切り板のようなものがある。内部の画像は企業秘密で公開できないが、この仕切り板のおかげで、扱える商材に幅が出せた。サイズはA5からA4まで、厚みはクリアファイルのような薄い商材から1センチほどのものまで、自在に収納、搬出できるという。

ハンドルを回すと、徐々に商材が出てきて、最終的に抜き取れるようになっている
ハンドルを回すと、徐々に商材が出てきて、最終的に抜き取れるようになっている

発売直後で約1500店舗展開できた理由

 ユーザーに驚きやわくわく感を提供することに加え、五十嵐氏が開発段階で意識したのが展開のしやすさだ。

 既存のカプセルトイの筐体は、大きく2つの部分に分かれる。筐体上部の商材を格納するケース部分と、ハンドルや硬貨の投入部分を備えた土台となる本体部分だ。今回、フラットガシャポンを販売するにあたり、本体部分から専用の筐体を作るとなると、製造コストや設置場所を探す手間がかかる。

 そこでバンダイは、フラットガシャポンのケース部分を、既存のカプセルトイの本体部分に付け替えられるよう設計した。カプセルトイと商材が異なるためケース部分は新しく製造する必要があったが、本体部分は既に設置されているカプセルトイの筐体を有効活用するモデルにした。

 「ガシャポンの本体部分は生かしつつ、ケース部分だけ変えて設置できるのがストロングポイント。発売時から約1500店舗一気に展開できたのも、既存の台に付け替えるだけで済むのが大きい」と五十嵐氏。バンダイは2月末時点で、複数の代理店を通して3万台ほどのカプセルトイを展開しており、それらの一部をフラットガシャポンに置き換えたわけだ。

 また、発売時には、鬼滅の刃、東京リベンジャーズ、ポケットモンスターという人気コンテンツ3種類のグッズを、同時に販売した。仮に1種類だけフラットガシャポンを設置しても、既存のカプセルトイに埋もれてしまう懸念があったからだ。これまでとはコンセプトの異なるガシャポンだからこそ、ユーザーの目を引くために、ある程度まとまった売り場を確保する必要があった。

 「フラットガシャポンは販売して間もないので、カプセルトイを買いに来たユーザーが、偶然見つけて認知が広がっていく。現時点では、売り上げの好調なカプセルトイ専門店に置くケースが多いが、売り場でフラットガシャポンが埋もれないよう、コーナーを作って展開している」と五十嵐氏。まずは、カプセルトイを定期的に買っているユーザーに、新しい商材を認識してもらうための接点づくりにもこだわる。

 今後も、アニメや映画の公開時期に合わせ、キャラクター商品を投入していく。22年で誕生から45周年を迎えるバンダイのガシャポン。長年、カプセルトイ市場でトップシェアを誇る同社が、次世代のカプセルトイ市場でも先陣を切る。

(写真提供/バンダイ)

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