感覚共有デバイスを開発する東大発ベンチャー、H2L(東京・港)は、遠隔地のロボットをスマートフォンで操作し農業に参加するシステム「RaraaS(ララース)」を開発した。「農業従事者の減少」「都市一極集中による地方の過疎化」、「外出困難者の社会参画」という3つの社会課題の解決を狙うという。現在進めているのは、いちごを摘むロボットの開発だ。茨城県常陸大宮市でいちご農園を経営する「つづく農園」を拠点とし、実証実験を繰り返している。ロボット開発の現状と社会への実導入に向けた見通しについて、代表取締役の玉城絵美氏に話を聞いた。

遠隔地のロボットをスマホで操作していちごを摘める
遠隔地のロボットをスマホで操作していちごを摘める

 ちょっとした空き時間に、スマホゲームの感覚でいちごを摘み収入を得る。そんな未来が実現するかもしれない。

 今回、H2Lが開発したのは、スマートフォンを操作し、遠隔地からでもいちごを摘むことができるロボットだ。ロボットには目線のカメラと手元を横から映すカメラが設置されており、スマートフォン上だけでいちごの状況を把握できる。スマートフォン側にはロボットを操作するUI(ユーザーインターフェース)が並ぶ。腕を上下左右に動かすジョイスティック状のUIの他に、腕を前後に動かすボタン、ハサミを開閉するボタン、いちごのヘタをつかんだ際に手首を回して摘み取るボタンなどだ。筆者も操作を体験したが、慣れは必要なものの、意外と簡単にいちごを摘むことができた。「実証実験を繰り返す中で、摘む精度はどんどん上がっている。やはり現場での改良の積み重ねが大事だと実感している」と玉城氏は話す。

スマホのロボット操作画面。操作には多少の慣れが必要だ
スマホのロボット操作画面。操作には多少の慣れが必要だ

 その実証実験の場を提供するのが、茨城県常陸大宮市でいちご農園を経営する「つづく農園」だ。今回のプロジェクトは、「農業従事者の減少」「都市一極集中による地方の過疎化」「外出困難者の社会参画」という3つの社会課題の解決を目指すものだが、そのコンセプトに共鳴した。実際、常陸大宮市周辺のエリアは、2045年までに人口が44%減(15年比)という大幅な減少が予想されており、その対応は急務だ。こうした遠隔ロボットによる作業が可能となれば、離れた場所に住む人の力を借りることができるようになるだろう。つづく農園は、農場のすぐ横を通る国道123号線をストロベリーロードにしようという構想を持っており、地方活性化につながる技術として期待を寄せる。

 この遠隔地から農業に参加できるシステムRaraaSは、いちごだけでなく他の作物にも応用できる。ニーズがあると注目しているのが、ぶどうだ。例えば、このロボットをブルゴーニュなどワインの名産地に持ち込み、ワイン好きに遠隔からぶどう狩りを体験してもらうということも可能になるという。

感覚を共有する「ボディーシェアリング」

 H2Lは、もともと、感覚を共有するデバイスを作ることで知られる。それが「BodySharing(ボディーシェアリング)」と呼ばれる技術だ。人やロボット、キャラクターなどのさまざまな感覚を相互に共有できる。視覚や聴覚だけではなく、電気刺激を用いることで、体の位置や重量感、抵抗感なども共有できるというから驚きだ。例えば、今回のいちご摘みロボットであれば、遠隔地にいる人が腕を動かすことでアームを動かし、ロボットがいちごをつかんだ感触を、操作する人も実際に感じることができるというのだ。「実験室レベルでは、かなり開発は進んでいる。しかし、まだまだ実現へのハードルが高いのが現状だ。まずは、スマホゲーム感覚でいちご狩りを体験できるようなものを目指している」と玉城氏。

左手と右手で構造が違うのは、改良を重ねた結果だ。将来的には、ボディシェアリング技術によって重量感や抵抗感なども共有できるようになるという
左手と右手で構造が違うのは、改良を重ねた結果だ。将来的には、ボディシェアリング技術によって重量感や抵抗感なども共有できるようになるという

 いちごの熟成度をAI(人工知能)で識別する技術の開発も進める。「どのいちごが熟して採れごろなのか、AIが判断できるようになれば、知識がない人でも作業を手伝えるようになるだろう。ただ、いちごは品種が多くその判断はかなり複雑だ。AIに学習させるデータをどうやってためていくかが課題となる」と玉城氏は語る。また、まだ熟していないいちごに傷をつけずに、採れごろのいちごだけを摘むには高い技術が必要となる。これもAIに学ばせることができれば、より気軽に作業を手伝うことができるようになるだろう。

 しかし、他にも課題は多い。その一つが通信環境の問題だ。

 「5Gのような高速の通信環境が必要だ。4GやLTEでは、どうしてもタイムラグが出てしまう。5Gがこういった農村地域にどのくらいの早さで普及するかは大事なポイントだ」と玉城氏は説明する。

 ロボットの足回りをどうするかもまだ解決できていない。いちご農園のような狭く足元の悪い場所を、スムーズに移動できるようにする技術も必要だ。「そうすると、ロボット自体が高価になってしまい、実際に農園が導入するには高すぎるという話になってしまう。コストをどう下げられるかも、大きな課題だろう」(玉城氏)

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