ホテルニューオータニ(東京・千代田)が、新しい連泊サービス「ホテルニューオータニ サービスアパートメント事業」を開業する。これまで展開してきた連泊プランを拡大する形で、1フロア分の50室を、連泊専用の部屋として提供。コロナ禍で苦戦する活路を見いだす。最高級のプランは30泊280万7100円と強気の料金設定だが、どのような客層を見込んでいるのか。
ホテルニューオータニ(東京・千代田)は2022年4月1日から、連泊サービスの「ホテルニューオータニ サービスアパートメント事業」を開業する(予約開始は22年3月3日から)。既にホテルニューオータニでは20年7月から連泊プランを展開してきたが、ホテル内の1フロア、約50部屋を連泊専用の客室として提供するのは初の試みとなる。宿泊中も日常生活と遜色ない暮らしが送れるよう、室内やフロア内の共用スペースに生活家電を取り入れた。
部屋のタイプは価格帯やサービス内容に応じて14種類、利用日数は6・12・30泊で、最長で360日まで予約可能だ。用途や予算、生活スタイルに応じて幅広く集客を図る。
19年から2泊以上のユーザーは5倍に
14種類のうち、最高級の部屋は「新江戸レジデンス(スイート)」で、利用料金は30泊280万7100円(税込み)。室内の広さは77平方メートルで、キッチンや洗濯脱水乾燥機、ヒノキ風呂、電子レンジ、トースターといった生活家電を完備。滞在中は無料で、運動のできるワークアウトルーム、屋外駐車場、パソコンやプリンターを完備した仕事部屋が利用可能だ。セカンドハウス、テレワーク、出張など、生活やビジネスの拠点となるよう企画された。
至り尽くせりの連泊プランだが、気になるのは30泊280万7100円という料金設定だ。一般人には手の出しにくい金額だが、ターゲット層をどこに定めているのか。ニュー・オータニ マネージメントサービス部の岩崎州彦氏は、これまで展開してきた連泊プランの実績から、新江戸レジデンス(スイート)で見込む客層をこう捉えている。
「20年7月から連泊プランを開始しており、当初はテレワークやワーケーションのニーズを狙っていた。ところが蓋を開けてみると、ビジネスパーソン以外からの利用もあった。21年10月からは30泊280万の『新江戸レジデンス』を3部屋提供しており、その際は引っ越しや自宅のリノベーション時の仮住まいとして利用される方や、会社をリタイアした高齢者の方が宿泊された」
他にも、海外旅行の代わりに訪れる夫婦、郊外に住みながら通院や出張など定期的に都内で用事がある人、子供の受験で滞在する親子などの利用者も目立ったという。値段や宿泊数は異なるものの、連泊の利用目的やニーズは想定以上に幅広く、21年に2泊以上したユーザーは19年から約5倍に増加。岩崎氏も「予想以上の反響だった」と振り返る。
「新型コロナウイルスの感染拡大前はインバウンド客が50%ほどを占めていたため、現在は残された国内客の50%で勝負している状態。そこで空いている客室を有効活用するため、思い切った価格のプランを提供し、滞在に特化した環境を広げて新しいニーズを満たしていく。サービスアパートメント事業は時代を映したビジネスモデルだ」と岩崎氏。
もちろん手ごろなプランも用意している。一番リーズナブルな部屋は30泊36万円の「モデレートフロア スタンダード」タイプ。こちらは通常の客室と同じつくりで、共用スペースで生活家電を使えるようにした。「連泊では掃除などのケアが手直し程度に済むことから、コストを抑えたプランが実現した」と岩崎氏。今後は新江戸レジデンスのように、客室を全面リノベーションして、室内だけで生活が完結するような部屋を増設することも視野に入れている。
今後は連泊用のサービスを主流に
部屋のランクを14種類用意したのは、過去の連泊プランで、ユーザーから寄せられた意見が幅広かったからだ。「衣服をホテル内で洗濯したい」「備え付けの冷蔵庫が小さい」「コンビニで買ったものを温めたい」といった家電の要望から、「朝食は毎日いらない」「アメニティーは自分のものを使いたい」といった細かいこだわりまで、長期で滞在するからこそユーザーの要望は多い。こうしたユーザーのインサイトを細かくくみ取り、利用目的や予算、要望に応じて、どのユーザー層にも最適なコストパフォーマンスを提供できるよう意識した。
また、同業他社との差別化として、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)を充実させた。マイクロモビリティーのシェアリングサービスを手掛けるLuup(東京・渋谷)と提携し、最高で時速15キロほどスピードが出る電動キックスケーターを無料で貸し出す。東京、銀座、六本木まで車で約15分、新宿まで約20分のアクセスを生かして、より出かけやすくなるサービスを導入した。
今後は、連泊用のサービスを主流にしていく方向性を目指し、ニーズに合わせてプランも調整していく。「現状では様々なニーズがあるので部屋のバリエーションを増やしているが、長期的に持続可能なビジネスモデルを考えつつ、ニーズに合わせて部屋のタイプやサービスを進化させていきたい」と岩崎氏。
サービスアパートメント事業の第1期は22年9月30日までを予定。コロナ禍で経営の苦戦が続く中、打開策として機能するか。
(写真提供/ニュー・オータニ)