ヘアケアに始まり、スキンケア、ボディーメークと、複数のカテゴリーで月額制のパーソナライズD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドを展開するSparty(スパーティー、東京・渋谷)が好調だ。日経クロストレンドが2022年2月25日に開催する無料オンラインセミナー「“推し”が消費を動かす」に登壇するSparty代表取締役の深山陽介氏にビジネス戦略を聞いた。

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日本初のパーソナライズヘアケアブランドの「MEDULLA(メデュラ)」は、2021年9月時点の累計会員数は40万人を突破
日本初のパーソナライズヘアケアブランドの「MEDULLA(メデュラ)」は、2021年9月時点の累計会員数は40万人を突破

今後、すべての商品は“サービス化”する

――ネットで頭髪に関する10の質問に答えるだけで、成分や香りなど5万通りの組み合わせの中から一人ひとりに適した配合で作ったシャンプーを毎月届けてくれる、月額制パーソナライズヘアケアブランドの「MEDULLA(メデュラ)」がヒットしています。成功の要因は何でしょう。

深山陽介氏(以下、深山) 大きなポイントは、私たちと他社が考えるD2Cの前提が全く違うことです。D2Cはデジタル技術の発展によって可能になったビジネス形態ですが、現在、大手も含めて多くの企業が(1)SNSを駆使した顧客との関係性と、(2)ECサイトによる直接販売の2つをもってD2Cと言っているように思えます。

 しかし、D2Cの本質的な価値を発揮するにはそれだけでは不十分です。もっとデジタル技術を駆使すべきであり、さらにはオンラインにとどまらず、リアルにもデジタルが“染み出す”ことが重要だと考えています。店舗から工場、物流までバリューチェーンのすべてでデジタル化を図り、今までのメーカーの在り方そのものを変える必要があります。

 そうした広義のデジタル化を行うことこそが、D2Cビジネスの本質だと捉え、当社でも一歩ずつ取り組みを進めている最中です。

深山 陽介 氏
Sparty代表取締役
慶応義塾大学理工学部卒業後、博報堂に新卒入社。大手通信会社の営業職を経て、数多くのクライアントのデジタルマーケティング戦略策定に従事。2017年5月に退職し、Spartyを創業。“色気のある時代を創ろう”をミッションに掲げ、パーソナライズを基軸としたD2C事業を展開している

――その点、Spartyが展開するD2Cブランドでは、サイト上で行うWeb診断に基づく処方によって個々に最適な商品が自動選択される他、リアルでは、店舗で診断機器を使ったカウンセリングを行ったり、物流の一部を自動化したりするなど、リアルへの“染み出し”にも積極的です。

深山 もう一つ重要なのが、デジタル化にひも付いて、すべての商品が“サービス化”されるということです。デジタル時代の今は、購入後も商品を使った際のデータのフィードバックを受け、随時改善していくことが可能になっています。つまり、商品は買って終わりではなく、月額制のサブスクリプション契約などで、買った後もデジタル上で継続的にサービスを提供していくことが当たり前になっていきます。

 MEDULLAでいえば、利用者が使用後の要望をWeb上でフィードバックすることで、次回から配合する成分を再調整し、より顧客に適したシャンプーを送るサービスを提供しています。将来的な理想としては、顧客のヘアケア体験を常時デジタル上でサポートすることを目指しています。このように、すべての産業の商品をデジタル技術の活用でサービス化することが私たちにとっての大前提。この違いが分かってD2Cブランドを立ち上げているか否かが、成功の分かれ目だと感じています。

――MEDULLAに続き、同様の仕組みで提供するスキンケアブランド「HOTARU PERSONALIZED(ホタル パーソナライズド)」、ボディーメークブランドの「Waitless(ウェイトレス)」を投入しています。

深山 私たちのサービスのコンセプトは、「リアルなものをデジタルに置き換える」です。具体的に言うと、MEDULLAのコンセプトは「スマホの中の美容室」。すなわち、美容室で自分に合うシャンプーやリペアを美容師が選んでくれるような接客体験をデジタルに置き換えたらどうなるかを体現しているものです。

 また、HOTARU PERSONALIZEDは「スマホの中の美容部員」、Waitlessは「スマホの中のパーソナルトレーナー」というイメージでサービスを開発しています。3ブランドでは、決済とフィードバックの仕組み、物流が共通化できており、ヘアケアとスキンケアの商品に関しては配合の手法など工場の仕組みも一部共通化できています。こうして一定のプラットフォームを横展開できる点が強みです。

パーソナライズスキンケアブランドの「HOTARU PERSONALIZED(ホタル パーソナライズド)」も展開する
パーソナライズスキンケアブランドの「HOTARU PERSONALIZED(ホタル パーソナライズド)」も展開する

――そのコンセプトとプラットフォームがあれば、今後も他の領域でのパーソナライズD2Cブランドの展開が期待できますね。顧客体験を上げる工夫はありますか。

深山 サービスを作ったら終わりではなく、改善し続けている点です。通常、ヘアケア製品やスキンケア製品は、商品を出したら終わりで、改善できる点は広告のPDCAを回すことくらいかもしれません。

 しかし、私たちのD2Cブランドは、Web診断の結果や店舗に来店された顧客の意見、不満足率などのデータを基に、月1回は何らかのリニューアルをしています。現在、シャンプーで5万通りある組み合わせを顧客の悩みをよりカバーするために増やしたり、あるいは、診断結果から処方を選ぶロジックを変更したりするといった改善も必要に応じて手早く行っています。こうしたデジタル上の顧客体験のPDCAを素早く回せる点が、既存の化粧品メーカーにはない私たちの価値となっています。

 それができる理由は、社内にエンジニアや商品開発ができるメンバーが一通りそろい、作業の多くを内製化できることです。これらを外注に頼り、内製できるケーパビリティーがない企業では、私たちのように顧客体験のPDCAを日々回していくような試みは難しいでしょう。

小売店の棚を“ジャック”する斬新な構想とは?

――展開するD2Cブランドは、より大きく成長するフェーズに入っていると思います。どのような施策に取り組んでいますか。

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