商品の出荷数を追い求める「箱数主義」から脱却する――キリンビバレッジは2022年の事業方針をそう示した。新型コロナウイルス禍以降の消費者の意識や行動変容、さらには中長期的な人口減少まで見据えて舵(かじ)を切った。要となるのは、無糖や微糖、免疫アシストといった機能を備えたヘルスサイエンス領域だ。
21年は午後の紅茶、生茶がマイナス
キリンビバレッジは2022年1月1日付で社長が堀口英樹氏から吉村透留氏に交代。堀口氏はキリンビールの社長に就任している。
吉村氏は22年1月に開催した事業方針発表会で21年を振り返り、「CSV(Creating Shared Value『共通価値の創造』)を基軸としたポストコロナに向けた再成長」をテーマに取り組むも、販売実績は2億589万箱、前年比3%減となったことに言及。要因として新型コロナウイルス感染症拡大の影響が続いたこと、最盛期の天候不順が影響したことを挙げた。一方で、自動販売機ビジネスの収益は台数から質への転換や固定費削減、小型のペットボトル商品へのさらなる注力によって利益確保に努めたと説明した。
35周年施策を行った「午後の紅茶」と、R100ペットボトル(再生ペット樹脂を100%使用したペットボトル)の採用拡大など環境対応に取り組んだ「生茶」は、ともに前年比98%にとどまり、マイナスの結果になった。
執行役員マーケティング部長の山田雄一氏によると、「午後の紅茶は第1四半期、前年からの落ち幅があまりに大きかった。特に緊急事態宣言から始まった21年は人流が抑制され、同時期に販売数が大きいコンビニエンスストアと自販機のホットタイプがその影響を大きく受けたといえる」。ただし、「午後の紅茶 おいしい無糖」シリーズは10年連続で成長しており、21年は1000万箱を販売。全体でも第2四半期以降はプラスに転じていると言い、「かなり持ち直しの兆しは見えている。戦略を完遂して再成長を促進したい」(山田氏)とした。
生茶については「競合のリニューアル、プレゼンスが上がっており、生茶は存在感がやや弱まってしまったのではないかと反省している」と山田氏。一方で20年9月に発売した「生茶 ほうじ煎茶」が300万箱を超えるヒットとなったことを受け、22年は生茶の大幅リニューアルにより、存在感を高めたい考えを示した。
免疫アシストや無糖は伸長
21年は全体的に業績が振るわなかったものの、プラスに働いたカテゴリーもある。21年10月に発売された「キリン午後の紅茶ミルクティープラス」と「キリン 生茶 ライフプラス 免疫アシスト」、「iMUSE シリーズ」が好調だったプラズマ乳酸菌入り飲料だ。全体で534万箱を販売し、前年比66%増と大幅に伸長。プラズマ乳酸菌飲料を含む「プラスの健康」カテゴリーの商品群は18年比で35%増と伸びている。「午後の紅茶」「生茶」ブランドを中心とした無糖・低糖飲料を含む「摂りすぎない健康(無糖)」カテゴリーも同7%増となっており、ヘルスサイエンス領域が好調という。
ヘルスサイエンス領域が伸びたのは、コロナ禍以降の「健康」「免疫」への関心の高まりが大きいだろう。同社では、コロナ禍での経済活動の再開と需要の回復、サステナブルな社会を目指す意識や脱炭素化の流れ、原油や原材料価格の高騰、さらには中長期的に見た人口減による国内市場自体の縮小までを視野に入れ、出荷数を重視する従来の箱数主義からの脱却、質を重視する“ニューノーマル”への対応を進めるとしている。
100ミリ飲料で朝の習慣領域獲得へ
“ニューノーマル”への対応として強調するのが、CSV経営を一層進めること。既存飲料事業とヘルスサイエンス領域の両輪を回すことで、持続的成長を実現するという。
22年の戦略スローガンは「ヘルスサイエンスをドライバーとする新たな価値創造への転換」だ。具体的にはまず無糖、微糖商品への注力で、大きくは午後の紅茶ブランドと、生茶ブランドの2つを再成長させることがある。すでに3月1日に「キリン 午後の紅茶 おいしい無糖 香るレモン」をリニューアル発売すること、今春、生茶を2年ぶりに大型リニューアルすることが発表されている。また21年に伸長したヘルスサイエンス領域の強化も重要で、「免疫ケアと言えばキリン」と認識されるように、「健康に貢献する飲料企業」へと変革していくという。
キリンはグループ全体で「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」ことをCSVパーパスとして掲げており、ヘルスサイエンス領域、健康・未病領域など様々な素材やサービスを提供していく姿勢を示している。キリンビバレッジは同グループにおいて、顧客と最もタッチポイントが広い会社でもある。だからこそ「老若男女に訴求する、ユニークさを出していきたい」と吉村氏は意気込みを見せた。
特に「免疫ケア」の理解度向上による市場創出、拡大を目指し、キリングループの独自素材、プラズマ乳酸菌を活用した「手ごろな商品・サービス」の提供に力を入れる。免疫ケアは、効果・即効性を感じづらく、習慣化しづらい面があるが、日常的に取り入れられる商品の販売により、定着させたい考えだ。
その施策の1つが「朝の習慣領域の獲得」で、21年12月14日に首都圏のコンビニエンスストア限定で販売を開始した100ミリリットルペットボトル飲料「キリン iMUSE 朝の免疫ケア」を、22年3月29日から全国のコンビニエンスストア、量販、ドラッグストアでも展開していく。また「健康ワンショット市場」の拡大を狙い、23年春には湘南工場に約100億円を投資し100ミリリットルペットボトル飲料の供給能力を強化する計画だ。
ファンケルとの共同開発商品にも期待
22年のヘルスサイエンス領域における商品の販売数量目標は2億950万箱、前年比102%で、特にプラズマ乳酸菌入り飲料は760万箱で前年比142%と高い目標値を掲げる。「キリンビバレッジにおけるヘルスサイエンス領域商品は現状全体の1割強だが、27年くらいまでには少なくとも2割を狙いたい」と吉村氏。また、CSVの取り組みとして環境対応も推進する。
例えば、ペットボトルからペットボトルをつくる「ボトルtoボトル(水平リサイクル)」は、リサイクルの中でのシェアが30%(86万3000トン)にとどまっている(PETボトルリサイクル推進協議会「PETボトルリサイクル年次報告書2021」より)が、吉村氏は現状のままでは資源が限界に達すると指摘。「生茶を中心にボトルtoボトルを行っているように、使用後から再生までのプロセス構築による、『プラスチックが循環し続ける社会』の実現を目指す」という。
ヘルスサイエンス領域においては「ファンケルとの共同開発商品も含まれている」と山田氏。「(両社共同開発商品のうち)既に販売されている商品は女性を中心に体の調子を整えたいというお客様のニーズに応えているのではないかと思う。健康、ヘルスサイエンスという切り口で、新たな商品、サービスを含め、さらに検討していきたい」(山田氏)と抱負を語った。
(写真提供/キリン)