ワタミが宅食サービスの新ブランド「PAKU MOGU(パクモグ)」を立ち上げた。食育のサポートをコンセプトに、3~10歳の子供を持つ家庭をターゲットに据える。参入の少ない新たな領域で、着実にパイを取っていく戦略だ。1食600円弱の子供向けミールキットを、どう浸透させていくのか。

ワタミの宅食新ブランド「PAKU MOGU」の記者発表会での一枚(写真中央がワタミ会長兼社長の渡邊美樹氏、撮影日は2022年2月1日)
ワタミの宅食新ブランド「PAKU MOGU」の記者発表会での一枚(写真中央がワタミ会長兼社長の渡邊美樹氏、撮影日は2022年2月1日)

 新型コロナウイルス オミクロン株の感染拡大に伴い、2022年1月21日から、全国各地に発令された「まん延防止等重点措置」。22年2月1日時点では、34都道府県にまで適用が広がっている。居酒屋大手チェーンのワタミも、政府や各自治体の要請に従い、30都道府県に展開する228店舗のうち132店舗を休業、96店舗を時短営業に切り替えている(2月1日時点)。

 ワタミ会長兼社長の渡邊美樹氏は、20年から続く政府の感染症対策に、外食企業の経営者として苦言を呈した。

 「第5波が収束したときに、対策の効果や検証をすることなく、『まん延防止等重点措置』を繰り返すことには明確に反対だ。政府は飲食店の痛みを全く分かっていない。お酒を規制して、時短をすることは、本当に効果があったのか」と語った。

ワタミの渡邊氏、政府の対応に疑問を投げかけた
ワタミの渡邊氏、政府の対応に疑問を投げかけた

 ワタミの外食産業における21年の売上高は、コロナ禍前の19年と比べると厳しい状況が続いている。時短や休業要請が続いた21年1~10月は、全体的に4割前後に停滞。第5波が収束した11~12月は6割弱までに回復したものの、22年1月には5割ほどまでに再び落ち込んだ。先が見えない状況に「22年いっぱいはユーザーが6割戻るか戻らないか。23年以降にコロナ禍が収束しても、居酒屋の市場は7割程度にしか戻らないという仮説に対して、強い確信を持っている」と渡邊氏。空中階(ビルの2階以上)の居酒屋業態に関しては、可能な範囲で撤退していく方針を示した。

苦境支える宅食事業を強化

 苦境に立たされているワタミを、現状支えているのが、宅食事業「ワタミの宅食」だ。同サービスは健康に配慮した日替わりの弁当・総菜を、業務委託した配達スタッフが、基本的に手渡しで届けるもの。08年のローンチから、高齢者を中心に毎日約25万食を配達している。19年上期の売上構成比が「外食51%、宅食38%」だったのに対し、21年上期は「外食20%、宅食73%」と、宅食が主力事業として機能している。

 こうした状況を受け、2月1日から41の都府県で販売を開始したのが、宅食サービスの新ブランド「PAKU MOGU」だ。同ブランドは子供向けのミールキットで、子供においしいと感じてもらえる栄養価の高いメニューを届ける。メインターゲットは3~10歳の子供を持つファミリー層だ。ワタミの宅食では主婦目線で調理の負担軽減を打ち出しているのに対し、PAKU MOGUでは親目線で子供の食育をサポートしていく。高齢者がメインだったワタミの宅食との差別化を図った。

 PAKU MOGUのミールキットは、カットと下ごしらえが済んだ主菜・副菜2品分の食材、調味料、レシピの3点セット。約15分の調理で、主菜・副菜の2品を作ることができる。メニューは日替わりで、定番の親子丼やオムライスから、ハッシュドビーフ、タコライス、ナシゴレンなどを用意。同社広報室によれば、1食分の量は10歳前後の子供に合わせて作られており、成人男性が食べても足りるとのことだ。

 消費税と宅配料を含めた2人前の値段は、週1日分の注文で、1回あたり1198円(1食あたり599円)、週2~3日分で1158円(同579円)、週4~5日分で1118円(同559円)。同業で先行しているオイシックスなどの価格設定に沿いつつ、居酒屋業態と同じように単価を抑えて、一人でも多くのユーザーに利用してもらうことを意識した。

メニューのタコライス。PAKU MOGUは41の都府県に展開
メニューのタコライス。PAKU MOGUは41の都府県に展開
メニューの照り焼きハンバーグ。中にはチーズが入っている。どのメニューも子供が好むような味付けだ
メニューの照り焼きハンバーグ。中にはチーズが入っている。どのメニューも子供が好むような味付けだ

競合少ない子供向けにフォーカス

 渡邊氏はPAKU MOGUを始めた経緯をこう語る。

 「現在、外食が非常に厳しい状況の中、会社全体の事情を見て、攻められる宅食の領域で攻めていく。これまで冷蔵・冷凍弁当の宅配サービスを行ってきた中で、ミールキットが伸びている状況を鑑みて、お子様に焦点を当てたミールキットを始めることにした。マーケットをリサーチして、我々の強みを生かしていく」

 渡邊氏が言う「マーケット」とは、子供がいる家庭のことだ。親目線で作られたミールキットは、競合の参入も比較的少なく、自社の他の宅食サービスとのカニバリゼーションも起こらない。しかも子供の食育をウリにすることで、将来的にコロナ禍が明けても、一定の需要が見込めるとみる。

 「テレワークをしている方は、出前館やUber Eatsなどをメインに利用しているため、我々は違うマーケットを開拓していく。ワタミの宅食は高齢者からの利用が多く、コロナ禍と関係ないところでユーザーが増えている。PAKU MOGUも同じように、新しいターゲット層に浸透させていく」

 コロナ禍で売り上げが左右されるビジネスモデルを避け、安定した柱を築く狙いだ。とはいえ、未知のターゲット層への展開となるため、最初は地道に基盤を固めていく考えだ。22年の販売目標を1日3万食とし、大々的には宣伝を打たず、着実にリピーターを獲得していく。

強みは宅配スタッフ

 そこで同社が期待を寄せるのが、渡邊氏が「我々の強み」と語った宅配スタッフだ。PAKU MOGUを含め、ワタミの宅食サービスは、8000人を超える宅配スタッフが自宅まで商品を届ける。置き配にも対応しているが、基本的には手渡しで直接ユーザーに渡す。各営業部署に配属されたスタッフは管轄が決まっており、毎回同じユーザーに配送することが多いため、自然とユーザーとの関係を深められる環境にある。そこからユーザーのフィードバックを得て、商品をブラッシュアップしていく。

 「PAKU MOGUはマーケットイン(ユーザーの意見やニーズを基に商品開発を行うこと)の業態。一例として、保育園や幼稚園での試食会などを繰り返し、宅配スタッフがじっくりと入り込んでいって周知していく」(渡邊氏)

 PAKU MOGUの立ち上げにおいて、ワタミが宅配スタッフとユーザーのコミュニケーションを重視する背景には、母親でもあるスタッフが多いこともあるだろう。ワタミによれば、宅配事業部の社員の6割が女性であり、宅配スタッフのうちの1500人ほどが20~30代の母親であるとのこと。PAKU MOGUのプロジェクトチームが立ち上がったのも、働くスタッフの「子育てと仕事の両立をしたい」という意見が発端だったという。近しい立場のユーザーと宅配スタッフが、直接交流を図ることで、つながりも強くなる。

 なお、提供するミールキットは、栄養バランスのいい食事である前に、子供がおいしく食べてくれることを第一に考えた。ワタミが1501人に行ったウェブアンケートでも、母親は子供と食事をする際に、「味」や「子供の好み」を最優先に考え、「量」や「時短」は二の次だったためだ。

記者発表会で提供されたPAKU MOGUの実物。どの献立にも野菜が用いられ、癖のない味付けになっている(写真は試食用に提供されたもので、実際は主菜と副菜の2品、量は写真のものより多いとのこと)
記者発表会で提供されたPAKU MOGUの実物。どの献立にも野菜が用いられ、癖のない味付けになっている(写真は試食用に提供されたもので、実際は主菜と副菜の2品、量は写真のものより多いとのこと)

 また、事前に全メニューを子供にモニターしてもらい、80%以上から「おいしい」とのお墨付きを得た商品だけを販売。評価の低かったメニューは、子供好みの味に合うように改良した。例えば、黄金カレイをムニエルしたメニューは、当初67%の評価にとどまった。そこで、カレイにホワイトソースをかけ、付け合わせのキノコをホワイトソースの中に混ぜるアレンジを施して改良。80%以上という基準をクリアし、販売にこぎ着けた。

 コロナ禍で外食業界には今後も厳しい状況が続く。新業態の立ち上げで、ワタミは業績を立て直すことができるか。

(写真提供/ワタミ)

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