味の素冷凍食品(東京・中央)が2022年2月6日から、ギョーザ商品のブランド強化を図る。2種の新商品を発売し、既存の3商品をリニューアル。新型コロナウイルス禍で冷凍食品を手にする機会が増え、多様化するニーズに対応する。より幅広いユーザー層を獲得するため、味の素は何を意識したのか。

22年2月6日から新発売となる、「シャキシャキやさい餃子」と「黒胡椒ニンニク餃子」
2022年2月6日から新発売となる、「シャキシャキやさい餃子」と「黒胡椒(こしょう)にんにく餃子」

 「日本で最初の冷凍ギョーザを発売し、そこから市場を育てた企業として、なんとしても冷凍ギョーザを広げていきたい」

 強い思いを語るのは、味の素冷凍食品 マーケティング本部 製品戦略部長の大竹賢治氏だ。同社の主軸商品である「ギョーザ」は1972年に発売し、家庭を中心に広く親しまれ、2022年に50周年の節目を迎える。味の素冷凍食品の調査によると、ギョーザは03年から20年まで、市販用冷凍食品の単品の売り上げ金額でトップを記録し続けるロングセラー商品だ。

味の素冷凍商品 マーケティング本部 製品戦略部長の大竹賢治氏
味の素冷凍食品 マーケティング本部 製品戦略部長の大竹賢治氏

 近年は、商品ラインアップの拡充にも積極的だ。18年発売の「しょうがギョーザ」を皮切りに、レンジで温めるだけで完成する「レンジで焼ギョーザ」、小麦、卵、乳不使用の「米粉でつくったギョーザ」などを投入。コロナ禍で冷凍食品を手にする人が増え、ニーズの多様化に合わせて幅広い需要をくみ取っていく狙いだ。

 そして22年2月6日、味の素冷凍食品は、さらなる新商品の投入と既存商品の刷新を行う。新商品は「シャキシャキやさい餃子」「黒胡椒にんにく餃子」の2商品で、内容量はどちらも12個。価格はオープンだが、スタンダードな「ギョーザ」よりも、一段階高い価格帯を想定している。既存商品は「黒豚大餃子」「レンジで焼ギョーザ」「米粉でつくったギョーザ」の3種類を同日にリニューアルする。

 新商品のうちのシャキシャキやさい餃子には、同社のギョーザに含まれる1.6倍の野菜を使用。豚肉との相性を考慮して、野沢菜、大根、キャベツを採用した。味付けは昆布だしをベースに、アクセントとしてしょうがの香りを効かせたマイルドな味わいに。野菜のうまみや存在感を引き立たせるため、香りの強いニンニクやニラを避けて、キャベツを大きめにカットしてザクザク感を重視した。

具材の野菜を大きくカットし、野菜を食べている感覚を引き立たせる(画像は味の素が作成した資料)
具材の野菜を大きくカットし、野菜を食べている感覚を引き立たせる(画像は味の素が作成した資料)

 対照的に黒胡椒にんにく餃子は、パンチの効いたジューシーな仕上がりですみ分けを図った。黒胡椒とニンニクで辛味と塩味を演出し、豚肉の脂感もしっかり前面に出るよう調整。実際に食べてみると、タレが要らないほどしっかりした味付けで、口に広がったニンニクの風味を、後から餡(あん)のうまみと黒胡椒のピリッとしたパンチが追いかけてくる。ビールに合うおつまみとしてうってつけだ。

黒胡椒にんにく餃子は、ビールの爽快感とのペアリングを意識して開発した(画像は味の素が作成した資料)
黒胡椒にんにく餃子は、ビールの爽快感とのペアリングを意識して開発した(画像は味の素が作成した資料)

 リニューアルした3商品はそれぞれ、黒豚大餃子が水と油なしで調理できるように、レンジで焼ギョーザはより皮がもちっとした仕上がりに、米粉でつくったギョーザはきれいに焼き上がるように改良した。

冷凍食品を使うことへの罪悪感を軽減

 味の素が多彩な商品を送り出す背景には、冷凍ギョーザ市場に一層の伸びしろを感じているからだ。

 調査会社インテージが公表した、19年と21年の冷凍食品全体の購入額(4〜9月の100人当たりの平均)を比較したデータによると、「40代までの若年単身」では3.9万円増、「60代以降のシニア」では5.2万円増、「子供を持つ家庭」では5.5万円増と、世代や所帯の有無にかかわらず購入額が増加している。同社が21年4~9月に調査したデータでも、市場全体で冷凍調理系の商品が前年比104%と上向いている。20年度の冷凍餃子の市場規模は、全体で約600億円と、15年から20年の5年間で年平均約7%の成長を見せている。

冷凍食品にかける19年と21年の購入額を、100人あたりの平均で比較したグラフ(画像は味の素が作成した資料)
冷凍食品にかける19年と21年の4~9月購入額を、100人あたりの平均で比較したグラフ(画像は味の素が作成した資料)

 その600億円のうち、味の素冷凍食品のギョーザ単品のみで、21年度は年間200億円以上の売り上げを記録したそうだ。味の素の冷凍ギョーザが好調な一因として、食卓で冷凍食品を出すことへの抵抗感を払拭したことが挙げられる。「フライパンで調理する工程がある点」と「栄養バランスが良い点」を押し出し、手に取りやすい印象を広めたという。

 「冷凍食品の購入額が増加する一方、家庭で冷凍食品を出すことに後ろめたさを感じる人はまだまだ多い。そうした中、ギョーザは唯一『フライパンで焼く』という、自分で調理する工程がある。冷凍食品を使用することは、『手抜き』ではなく『手間抜き』であって、調理の手間の一部を我々が請け負っていると発信している」(大竹氏)

味の素公式Twitterアカウントが、20年8月に投稿したツイート。ある主婦が、冷食を夕飯に出した際に旦那から手抜きだと指摘されたツイートを投稿。そのつぶやきに対して、「冷凍食品を使うことは『手抜き』でなく『手間抜き』ですよ」と、擁護する内容をリプライしたところ、これがバズり、共感の声が多く寄せられた
味の素公式Twitterアカウントが、20年8月に投稿したツイート。ある主婦が、冷凍食品を夕飯に出した際に旦那から手抜きだと指摘されたツイートを投稿。そのつぶやきに対して、「冷凍餃子を使うことは『手抜き』でなく『手“間”抜き』ですよ」と、擁護する内容をリプライしたところ、これがバズり、共感の声が多く寄せられた

 またギョーザには、皮の炭水化物、豚肉のタンパク質、野菜のビタミンと、バランスよく栄養素が含まれている。主菜が一品だけでも、栄養価の高い食事を実現できる万能感も訴求した。「一汁三菜のように『品数をそろえなければいけない』強迫観念を取り払うことで、より冷凍ギョーザが便利であると感じてもらえる」と大竹氏。シャキシャキやさい餃子も、こうした需要をくみ取った商品と言える。

間口が広いからこそラインアップを拡充

 家庭の食卓以外でも、家飲み需要や健康志向の高まりから、ギョーザのニーズは広がっている。前出のインテージが、冷凍食品を購入するユーザーを対象に行った21年4~9月のアンケートでは、「初めて購入した冷凍食品」として「ギョーザ」と答えた回答者が一番多かった。2位以下には「チャーハン類」「パスタ」など主食が並んでおり、おかずではギョーザが圧倒的な人気となった。40代以下の単身者から子供のいる両親まで、ユーザー属性(世代や性別、所帯の有無)にかかわらず、冷凍食品を買うきっかけとしてギョーザが選ばれやすい傾向にある。

 間口の広い商品だからこそ、味の素はできるだけ幅広いニーズをカバーできるよう、商品ラインアップをそろえる。定番のギョーザに加え、晩酌のおつまみとしての黒胡椒にんにく餃子、健康志向の方に向けたシャキシャキやさい餃子、食物アレルギーの人のための米粉でつくったギョーザ、とにかく時短したいときにはレンジで焼ギョーザなど、ユーザーがその時々の気分に合わせて商品を選択できるようにした。

定番商品だけでは満たせないニーズを、新発売の商品ラインアップでくみ取る(画像は味の素が作成した資料)
定番商品だけでは満たせないニーズを、新発売の商品ラインアップでくみ取る(画像は味の素が作成した資料)

 「冷凍ギョーザ市場のターゲット層はまだまだ広がっていく。例えば毎年一定数、一人暮らしをすることで自炊を始める若いユーザーがいる。こうした初めて冷凍食品を買って調理するようなユーザーを、しっかり取り込むことを重視していく」(大竹氏)

 味の素の20年度の調査によれば、年間で冷凍ギョーザを買う人は43%。購入者は平均で年間6パックを購入している。これらの数字を伸ばすのが目標。「これまで冷凍ギョーザを購入していないユーザーが、毎週買うようになれば、年間52パックと大きく売り上げが伸びる」と大竹氏。発売50周年を迎える王道の冷凍ギョーザシリーズで、さらなる市場を開拓すべく布石を打つ。

(写真提供/味の素)

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