シンガポールに本社を置くコーヒーチェーン「Flash Coffee(フラッシュコーヒー)」が日本に進出した。2021年12月4日に1号店「フラッシュコーヒー 表参道店」をオープン。22年内に日本国内で最大70店舗の出店を計画しているという。
年内に日本国内70店舗の出店計画
新型コロナウイルス禍でモバイルオーダーが広く浸透したように思えるが、決済までできるコーヒーチェーンは、スターバックス コーヒー ジャパンや、横浜を中心に神奈川県で展開する「UNI COFFEE ROASTERY」などまだ一部だ。
そんな中、シンガポールに本社を置くコーヒーチェーン「Flash Coffee(フラッシュコーヒー)」が日本に進出。2021年12月4日に「フラッシュコーヒー 表参道店」をオープンした。
フラッシュコーヒーはシンガポールに拠点を置き、20年1月にインドネシアのジャカルタに1号店をオープンしたコーヒーチェーンで、特徴は専用アプリで注文し、並ぶことなく手に取ってすぐに店を出ることができる「グラブ・アンド・ゴー(grab-and-go)」スタイルだ。
すでにアジア諸国では若い層に人気で、21年には毎週3店舗のペースで出店。現在は日本を含む7つの国と地域(インドネシア、タイ、シンガポール、台湾、香港、韓国)で合計200店舗以上を展開する。22年にはマレーシア、ベトナム、フィリピンにも進出し、店舗数を300店以上に増やす見通しで、日本国内は22年内に最大70店舗の出店を計画しているという。
骨董通りにほど近い、青山通りに1号店を出店したのは、「メインターゲットであり、グローバルにおいて人気の火付け役となったミレニアル世代が多く働き、彼らに人気の店も多いから」と、日本のマネージング・ディレクター兼取締役社長の松尾ポスト脩平氏は話す。
コロナ禍で急成長した3大要因
フラッシュコーヒーの創業者であるデイビット・ブルニエ氏は、ドイツに本社を置くデリバリーヒーロー傘下のフードデリバリーサービス、「foodora(フードラ)」でCMO(最高マーケティング責任者)やCEO(最高経営責任者)を務めた人物だ。18年から約1年は、同社傘下の「foodpanda(フードパンダ)」サービスおよびfoodoraの運営業務のためシンガポールで勤務。その際、「料理だけでなく、コーヒーにもデリバリーのニーズがあるのでは」と考えたという。
また当時、ブルニエ氏はアジア市場でのスペシャリティーコーヒーの割高感に疑問を感じていた。そこでテークアウトとデリバリーを主体に、スマートフォンなどのデジタルツールを活用することで価格を抑える、新たなビジネスモデルとしてフラッシュコーヒーをスタートしたのだという。
スタート直後、グローバルでコロナ禍が広がったことは、フラッシュコーヒーにとってマイナス要素にならなかった。専用アプリで注文・決済し、店舗では受け取るだけのグラブ・アンド・ゴースタイルは、スピード感や行列による密を避けられることから歓迎された。
成功の要因の1つに、アプリを使ったキャンペーンに注力したことがある。すでに日本でも体験できるが、アプリをダウンロードすると、最初の5杯は最大で50%オフになるほか、アプリを使って購入するごとにポイントが加算され、「ブロンズ」「シルバー」「ゴールド」とランクが上がっていき、ポイントの付与率が高くなる。他にも特定の条件を満たすとポイントが多く加算されるチャレンジ企画など、ゲーム感覚でできるインセンティブも用意しており、これが海外でのファン獲得につながった。
また、テークアウトとデリバリー中心の業態のため、店舗運営を最小限にできることも大きい。店舗オープン時にかかる初期費用はもちろん、賃料やスタッフの人件費といったランニングコストも抑えられ、スピード感のある大量出店が可能になった。
さらに、価格設定とコーヒーのクオリティーのバランスも成功の要因だろう。東南アジア諸国でもスターバックスなどのコーヒーチェーンは人気だが、現地のミドルクラスの若者にとっては同店のコーヒーは高価格帯商品。そこで、各国のフラッシュコーヒー全体がターゲットとみているミレニアル世代が利用しやすい価格設定にした。
100%アラビカ種豆で270円~
フラッシュコーヒーのコーヒードリンクには全て、スターバックス同様100%アラビカ種のコーヒー豆を使用している。基本となるコーヒーメニューは、ラテアート世界チャンピオンであるアーノン・ティティプラサート氏が監修。日本のコーヒーは本国のスタンダードを基本に、日本人の好みに精通したチームが日本向けにインドネシア・ブラジル・グアテマラをブレンドして使用している。また日本ではワールド ラテアート チャンピオンシップ優勝歴がある吉川寿子氏が、日本限定メニューを監修している。
日本での価格は基本(エッセンシャル)のコーヒーメニュー(8種類)が270~390円(税込み、以下同)。スターバックスコーヒーのメニュー一覧を見ると、一番小さいショートサイズの限定以外のコーヒーメニューで300~500円台が多く、店舗限定メニューになると500~600円台も多数ある。単純比較はできないが、フラッシュコーヒーは全体的に抑えた価格であることが分かる。
最もシンプルな「アメリカーノ」(290円)を飲んでみたところ、浅煎りで苦みが少なく、フルーティーな酸味があり、香りもよく飲みやすかった。
「みたらしラテ」で日本の独自性
現在、表参道店でよく売れているのは、同店でしか味わえない個性的な「シグネチャーメニュー」(5種)だ。
一番人気は、監修の吉川氏が「日本らしさを感じられるコーヒーメニュー」を目指したという「みたらしラテ」。みたらし団子のたれに使用されるしょうゆは味が強くコーヒーと合わせるのに苦労したが、試行錯誤を重ねた結果、黒糖ときな粉を加えてまとめることに成功したという。
飲み始めは予想していたようなダイレクトなしょうゆだれの味ではなく、ほのかな塩味が塩キャラメルのようなコクとして感じられる程度。しかし、飲み干すときに、濃厚な“みたらし感”が来る。
ちなみに海外では、ダブルリストレット(通常の量のコーヒー豆を通常の半分の量の水で抽出するショートショットのエスプレッソ)とアボカドパウダー、ケーンシュガー(上質な天然サトウキビ)シロップという独特な組み合わせの、「アボカドラテ」が人気だという。
なお期間限定のメニューとして、2月1日には2種類の「アップルパイラテ」を発売する。ダークチョコレートタイプとホワイトチョコレートタイプがあり、アップルパイを食べながらコーヒーを飲んでいるような味わいを追求したとのこと。バレンタインを意識したメニューとなっている。
海外は「500メートルごと」目指す
松尾ポスト脩平氏は、米国のファッションブランド「Abercrombie & Fitch」(アバクロンビー&フィッチ)の日本進出や、世界38カ国151都市で800カ所以上のフレキシブルオフィスを提供・運営する「WeWork(ウィーワーク)」の日本展開に携わった経歴を持つ。
フラッシュコーヒーが掲げる22年内の大量出店計画に対しては、「他のブランドで国内の多くのエリアでのローンチを経験してきたが、焦りすぎても難しいところがある。長期的視点でやっていく必要がある」と慎重な姿勢を見せつつも、意気込みを隠さない。
その理由は、他のコーヒーチェーンとは異なり、コロナ禍でもその長所が生きるグラブ・アンド・ゴースタイルというビジネスモデルに、大きな可能性を感じているからだ。「日本はアジア諸国の中でも飛び抜けてコーヒー消費量が多く、コンビニエンスストアでもクオリティーの高いコーヒーが飲める特殊な環境にある。逆に言えばクオリティーが高く求めやすい価格のコーヒーへのニーズが高いということ。今後のブランドポジショニングによってはビッグチャンスをつくれるのではないかと考えている」(松尾ポスト氏)
ブルニエ氏は、「私たちの夢は、アジアの主要都市で500メートルごとにフラッシュコーヒーの店舗がある状態をつくり出すこと」と語っている。松尾ポスト氏は「他のコーヒーチェーン店にない目立つテーマカラーはSNSでの注目度が高いため、インフルエンサーマーケティングを中心に認知を高めていきたい」と直近の施策を語った。テーマカラーがグリーンのスターバックス、ブルーのブルーボトルコーヒーに続き、イエローのフラッシュコーヒーが日本国内で存在感を示せるか、22年前半の展開に期待がかかる。
(写真撮影/桑原恵美子)