丸亀製麺などを経営するトリドールホールディングス(HD)は、香港で展開する米粉麺チェーン「譚仔三哥米線(タムジャイサムゴーミーシェン)」を東京・新宿や恵比寿、吉祥寺に2022年春から順次開店すると発表した。ある意味「逆輸入」ともいえるが勝算はあるのか、同社の事業戦略について話を聞いた。
香港で人気の米粉麺チェーンが日本上陸
トリドールHDが香港で展開する「譚仔三哥米線」は、「米線(ミーシェン、現地語ではマイシン)」と呼ばれる米粉麺を提供するスープヌードルチェーン。東京都(2194平方キロメートル)の半分程度の面積しかない香港(1106平方キロメートル)で74店舗を運営しており、「ミシュランガイド 香港・マカオ版」では2011年から3年連続で「ビブグルマン(安くておいしい店)」に選ばれた実績もある。
つるつるでコシのある太麺と清湯(チンタン)スープ、トッピング1種類がセットになった基本メニューは30香港ドル(約440円)。1~2香港ドル(約15~30円)の追加料金を払えば「麻辣湯(マーラータン)」「番茄湯(ファンチェタン)」など5種類のスープに変更することもでき、さらに10段階の辛さを選べる。また、トッピングは牛肉、魚のつみれ、シイタケ、レタスなど25種類あり、2つ目、3つ目を追加して自分好みにカスタマイズしたスープヌードルを楽しむことも可能だ。トッピングの価格は日本円にして73~176円となっている。
客層は老若男女という言葉がしっくりくるほど幅広い。一度食べると病みつきになる人も多いようで、昼時には行列ができる店も少なくない。トリドールHD常務兼海外事業本部長の杉山孝史氏は「来店客のほとんどがリピーター。週1~3で通ってくる人もいる」と話す。
譚仔三哥米線は、もともと譚仔雲南米線(タムジャイウンナムミーシェン)と並ぶ香港で人気のスープヌードルチェーンだった。13年から香港で丸亀製麺を展開していたトリドールHDは、17年12月に譚仔雲南米線を、18年1月に譚仔三哥米線を傘下に収めた。買収総額は21億1000万香港ドル(約300億円)に上ったという。香港発祥の2大スープヌードルチェーンが日本の企業に買収されるというニュースが17年12月1日に流れたときは、筆者を含め香港中が仰天したものだ。
譚仔三哥米線は20年10月にシンガポール、21年4月に中国・深圳市への進出を果たしているが、日本に出店するのは初めてのこと。杉山常務は「もともと香港市場での成長を優先させ、めどがついたら順次、海外にステージを移す方針だった」と、日本に目を向けた理由を説明する。
日本初出店の勝算は?
日本での展開について杉山常務は「市場調査と消費者理解から『行ける』と確信している」と言う。「譚仔三哥米線のスープの基本は『麻辣』と呼ばれるスパイシー系。市場調査では20~50代の(日本人の)約8割から『辛いものが好き』という回答を得ている。さらに『どんな辛いものを食べているのか?』という質問では、1位がカップ麺、2位がラーメンと、麺類がトップ2になった。ここ数年、日本では麻辣ブームが続いており、ポテンシャルは高い」と杉山常務は自信を見せる。
海外の料理を日本で提供する場合、「味を日本人の好みに合わせる」「現地の味をそのまま提供する」という二者択一になるが、杉山常務は「本場の味で行く」と言い切る。店舗オープン前には現地メンバーを日本へ派遣して味の最終確認をする予定とのことだ。また接客についても「譚仔三哥米線には『姐姐(ジェジェ、実姉または仲のいい年上の女性のこと)』と呼ばれる接客係がいる。親しみある接客は譚仔三哥米線の良さでもあるので、これも日本で再現したい」と杉山常務。
ラーメン、そば、うどん、パスタなど麺類だけでもライバルが多いなかで新しい麺をどう広めていくのか。杉山常務は「マーケティング力の勝負になると思う。香港ナンバーワン、日本初上陸という話題性はあるので、それなりの投資をすれば認知向上は図れる。しかし、大事なのは米線を根付かせること。そのためには最初の体験で『おいしい』と思ってもらうことが非常に重要だ。丸亀製麺などで培った経験を生かし、『また行きたい』と思わせる店づくりをしていく」とした。
また丸亀製麺CMO(最高マーケティング責任者)兼トリドールHDマーケティング部長の南雲克明氏は「正直、体験しないと米線のおいしさや食感は分からない。できるだけ多くの消費者に食べてもらい、『好き』『自分に合う』『これもアリだな』という選択肢に含めてもらうのが目標」と語った。
トリドールHDでは22年春に第1号店を東京・新宿にオープンした後、数週間以内に恵比寿と吉祥寺にも出店する予定。出店場所を選んだ理由について杉山常務は「出店場所周辺と遠方からの集客をトリドール独自の来店予測モデルに基づいて試算し、高い確率で成功するであろうという場所を選んだ」と説明した。コロナ禍での出店ということになるが「香港で最も厳しいときは午後6時以降の店内飲食が禁止されたが、テークアウトが下支えになり、悪くない水準で推移した。日本でも持ち帰りに対応する」と杉山常務。
南雲部長は「丸亀製麺では持ち帰りの比率が約25%に達しており、ロードサイド店の売り上げは、ほぼコロナ禍前の水準に戻っている。そのノウハウを譚仔三哥米線にも生かしたい」と話す。
譚仔三哥米線はシンガポールに3店舗、中国本土に2店舗を出店しており、24年までに中国本土に71、シンガポールに24、オーストラリアに15、日本にも25の店舗を展開する計画とのことだ。計画通りに進めば、日本の麺文化がさらに広がりを見せることになる。
(写真/武田信晃、写真提供/トリドールホールディングス)