海外での日本酒ブームに乗り、国内外で不動の地位を築いた銘酒「獺祭(だっさい)」。蔵元の旭酒造(山口県岩国市)は2022年秋、米国で建設中の酒蔵を完成させ、本格稼働する。全米の食文化に変革をもたらすことで、世界に獺祭ブランドを広める戦略だ。その布石として2008年に、ユダヤ教の教義にのっとった食品に付与されるコーシャ認証を取得。ユダヤ教徒のみならず、安全や健康意識の高い層の支持を得て、コロナ禍でも売り上げを大きく伸ばしている。
ユダヤ教と茶の湯を融合した「ラビ茶」で親交深める
2021年12月6日、東京・大田区にあるユダヤ教の指導者「ラビ」の私邸で、日本の茶の湯にユダヤ教の要素を取り入れたユニークな茶会が開かれた。その名も「わび茶」ならぬ「ラビ茶」。この日は、ユダヤ教の祭り「ハヌカ」の最終日(ユダヤ暦)。室内にはユダヤ教式祭壇が飾られ、厳かな雰囲気のなか、茶会が始まった。
ホストを務めるのは、ハバッド京都の代表でラビの一人、モルデハイ・グルマハ氏。黒いスーツにハットというユダヤ教特有の衣装をまとい、ゆっくりとした所作で茶器を清め、お茶をたてていく。安息日(労働をやめて礼拝する日)に飲むワインカップを茶道具のなつめの代用品として使うなど、ユダヤ教の安息日の風習も取り入れ、新しい茶の湯のスタイルを披露した。また、作法は裏千家に所属する師匠に指導を受け、ユダヤ教の要素を加えた新しい作法を考案したた。
「茶の湯の本質はお客様をもてなして平和な時間を過ごすことにある。おもてなしの大切さはユダヤ教の聖書にもあり、日本の茶の湯の精神と共通している。細部にこだわる点も似ている」と、グルマハ氏は話す。
実は、ラビ茶会にはユダヤ教と日本文化の交流という表向きの関係づくりにとどまらない大きな目的がある。それは、担い手が減りつつある日本の伝統文化を茶の湯を通じて守ることにある。ラビ茶の発案者でイスラエル国立ヘブライ大学大学院に留学経験がある徳永勇樹氏は「茶道には、物を本来のあるべき姿ではなく、別の物として見る習慣は『見立て』という和歌や漢詩由来の考え方がある。今回は、ユダヤ教という異質のものを、いかに日本の伝統文化である茶の湯に組み込むかを考えた。最近は、同じような志を持つ若手で「茶柳会」という団体を結成し、ユダヤ教に限らずお茶を通じた宗教観の対話や、日本と世界各国の茶文化の相互交流を進めている」と説明する。
茶道では茶器や茶筅(ちゃせん)をはじめ、さまざまな伝統工芸品を使う。それらを外国人にアピールすることで、茶の湯の場が伝統工芸品の展示の場という位置づけになればというわけだ。ラビ茶では、外国人でもお茶をたてやすいように楕円形に設計された特注の京焼き茶わんを用意。茶筅は室町時代から続く奈良・高山町の職人家系の作品を使用している。
今回使用したお茶には秘密がある。ユダヤ教における食の厳格な戒律「コーシャ認証」を取得している点だ。「ユダヤ教において食べたものはエネルギーとなり、血となるという考え方がある。神様に許されたものか許されないものかが判断基準。そのうえで清められたものだけを製造の全工程でチェックしていく」(グルマハ氏)。例えば、イカやエビなどウロコのない魚介類や豚は食べてはいけない。これらを調理した厨房を使うのも禁止。肉と乳製品を一緒に使わないなど食べ合わせについても細かく規定されている。
そこで、茶会で使用する京都・宇治の高級茶葉は、すべてコーシャ認証を取得。ラビが自ら茶園と工場に足を運び、虫が混入していないか、衛生管理は十分か確認したという。
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