国内でバドワイザーやコロナビールを展開するアンハイザー・ブッシュ・インベブ ジャパン(東京・渋谷、以下ABIJ)が、2022年1月から、ハードセルツァー「ニュートラ」の販促活動を本格化する。メーカーの参入が続くこの分野で、原材料にクラフトウオッカを使用し、上質な酒を求める30代以降に訴求して他社との差別化を図る。
「ニュートラ」は、2021年10月に同社が発売した商品で、北米を中心に人気のハードセルツァー(アルコール入り炭酸水)から着想を得た。原材料はクラフトウオッカ由来のアルコール、炭酸水、フルーツフレーバーのみ。アルコール度数は5%、100ミリリットルあたり28キロカロリー、糖類・糖質は0と、気軽にお酒が楽しめるように仕上げた。味はレモン、ライム、グレープフルーツの3種類を用意。甘味料が一切入っていないにもかかわらず、ほんのりとしたウオッカ由来の甘さが感じられ、果実の香りも鼻から抜けていく。
グローバルブランドの知見を生かす
21年10月から販売している同商品の販促を22年から強化するのは、海外に比べてハードセルツァーが定着していない日本に可能性を感じているからだ。
ABIJ マーケティング担当の曽我厚太朗氏によれば、ハードセルツァーは18年ごろから、北米のZ世代やミレニアル世代を中心に愛飲されてきた。健康志向の高まりと商品のヘルシーさがマッチしたこと、炭酸水がすでに若い世代に売れていた土壌があったこと、缶のパッケージのデザイン性の高さなどが、主なヒットの要因だという。
日本でも、21年以降、複数の飲料メーカーがハードセルツァーを販売している。21年3月にはオリオンビールが「DOSEE(ドゥーシー)」を、同年8月はサッポロビールが「サッポロ WATER SOUR」を、同年9月には日本コカ・コーラが「トポチコ ハードセルツァー」を発売。だが、ビールテイスト飲料やサワーなどに比べて定着しているとは言い難い。ABIJは海外でブームとなった状況を踏まえ、グローバルブランドとしての知見を生かして、広く日本の消費者に訴求していく考えだ。
曽我氏は「ABIでは20年1月から、国外でバドワイザーブランドのハードセルツァーを販売しており、他国の市場状況や売り上げ、販売方法などの情報を共有できる。ハードセルツァーというカテゴリーが、海外に比べてまだ浸透していない日本で、新しい市場を開拓していく」と意気込む。
また、「国内外ではここ数年、RTD(レディー・トゥー・ドリンク)カテゴリーの成長率が著しいことも強い追い風」と曽我氏。ABIJにとって、ニュートラは日本で初めてのRTDカテゴリー商品でもある。
30代以降の男女から高評価
ただ、21年10月発売というのは、日本市場においても後発での参入。ハードセルツァーは原材料がシンプルなこともあり、味わいやテイストからは、他社商品との差別化を図りにくい印象だ。ハードセルツァー市場を盛り上げつつ、どう競合と勝負するのか。
これに対し、曽我氏は、原材料や商品の質にこだわったことで、他社とのすみ分けができたと語る。「(ハードセルツァーは)海外で若年層にウケたため、国内でもターゲット層をZ世代に設定しているメーカーは多い。一方で、ニュートラは30代以降の男女から支持が高い。上質なウオッカを使用しているため、健康を意識しつつも、お酒を楽しみたい層に満足してもらえた」
糖質・糖類をなくすと、商品の味やクオリティーはどうしても落ちる。そこでABIJは、健康を意識しながらおいしいお酒も楽しみたい、30代以降の声に応えたという。
原材料のウオッカには、19年に消費者が審査員としてブラインドテイストする国際スピリッツコンペティションで金賞を、17年にはスピリッツ業界から選ばれた専門家が選ぶスピリッツコンペティションで銀賞を獲得した「NUTRL Vodka(ニュートラウオッカ)」を使用。製造過程では、通常のウオッカよりも多い76ステップの蒸留工程で、雑味のないクリアなテイストに仕上がっている。
「上質さと健康さ、両方をかなえる商品は他社にはない」と曽我氏は胸を張る。販売前の市場テストでも、30代以降の男女から好反応を得られた。日本の缶チューハイでは、味の濃いものやアルコール度数の高い商品が多い中、ニュートラのスッキリした風味に新鮮さを感じるユーザーが多かったようだ。缶のデザインも、爽快感やスタイリッシュなイメージが伝わるよう意識した。
オフィス街でのサンプリングで定着図る
マーケティングの強化策としては、サンプリングによる認知向上を真っ先に挙げる。これまでニュートラは、取引先のスーパーやアマゾンに主に卸していた。22年からはこれらの販路に加え、飲食店やシェアオフィス、イベントでのサンプリングも検討中だ。
22年1月末現在は、新型コロナウイルス オミクロン株の影響を鑑み、SNSやバナーなどのデジタル広告をメインに販促を行っているが、感染拡大の状況次第で、感染拡大リスクの低いゴルフ場などを皮切りに、サンプリング活動を再開していくとのこと。
サンプリングによる認知向上を積極的に行う理由は大きく2つ。1つは、まだ日本でハードセルツァーのイメージが定着していないこと、もう1つは、ABIの認知度が日本では低いことだ。同社はベルギーに拠点を置き、ビールの世界シェア約25%を占める世界最大手のビールメーカーだ。日本でも「バドワイザー」や「コロナビール」「ヒューガルデン」などのビールを展開しているが、「(会社としての)ブランド名は日本でそこまで浸透していない」(曽我氏)。商品イメージが定着しておらず、ブランド力にも頼れないからこそ、商品自体の魅力で真っ向勝負するしかない。
「東京・有楽町など、感度の高そうな30代以降が集まるオフィス街を中心にサンプリングを行っていく。スッキリした味わいは食事のシーンにも合い、それでいて風味が豊か。缶で飲むよりも氷を入れたグラスで飲むと、よりおいしさが増す」と曽我氏。コロナ禍の状況も見ながら、飲食店などBtoBの販路も開拓していきたい考えだ。
(写真提供/アンハイザー・ブッシュ・インベブ ジャパン)