「アラビックヤマト」で知られるヤマトが、中身の液状のりとキャップを透明にした新商品を発売した。事務用品としての需要が停滞する中、色味にこだわり新しい活路を見いだすのが狙いだ。こはく色をした液状のりから、ガラリとイメージを変えて商品を訴求する背景には、3つの要因があった。

2022年1月20日に発売された「アラビックヤマト クリアカラー」
2022年1月20日に発売された「アラビックヤマト クリアカラー」
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 ボトルから透けて見えるこはく色の液状のりに、目を引くオレンジ色のキャップ。液状のりといえば「アラビックヤマト」を思い浮かべる人が多いのではないか。1975年の発売以来、スポンジからムラなく出てくる粘着力の強いのりは、学校、家庭、オフィスにDIYなど、シーンや世代を問わず重宝されてきた。

 開発元のヤマトによると、事務用の液状のり(一般的な文房具として発売されているカテゴリー)で、アラビックヤマトは業界全体の売上ベースでシェア7割を超えるという。そんな圧倒的人気を誇るヤマトの看板シリーズから、2022年1月20日、見た目を大胆にリニューアルした「アラビックヤマト クリアカラー」が数量限定で発売された。

内容量(50ミリリットル)、価格(税込み187円)、のりの機能性は、スタンダードな商品と同じだ
内容量(50ミリリットル)、価格(税込み187円)、のりの機能性は、スタンダードな商品と同じだ
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インスタ公式に過去最多の「いいね」

 商品名の通り、クリアカラーは液状のりとキャップが透明になっている。アラビックヤマトの商品群では、のりを透明にするのは初の試みだ。

 目を引く透明感を引き立たせるため、スポンジキャップを蛍光色にして差し色を効かせ、ラベルは透明にして中身の透け感を強調。スポンジキャップは「パープル」「ピンク」「レモンイエロー」「ライトブルー」「アラビックオレンジ」の5色、ラベルは「クリアグレー」「クリアレッド」「クリアグリーン」「クリアネイビー」「クリアイエロー」の5色を用意した。あえてラベルとスポンジキャップを別の色にすることで、映え感を演出した。

クリアカラーのキャップを外すと、スポンジキャップが蛍光色になっている。のりとパッケージのクリアさを損なわないよう、さりげない色付けを施した
クリアカラーのキャップを外すと、スポンジキャップが蛍光色になっている。のりとパッケージのクリアさを損なわないよう、さりげない色付けを施した
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 ユーザーや取引先からは、販売前から大きな反響があった。ヤマトの公式インスタグラムでは、クリアカラーを告知する投稿に過去最多の「いいね」が付けられた。取引先からも好評で、かなりのスピードで受注が増えているという。

 ヤマト開発室兼社長室 マネージャーの宿谷尚代氏は「販売店や卸からは、見た目のインパクトもありすぐに発注が取れ、他商品と比べてもかなり動きは速い。企画段階では、社内でも半信半疑の手応えだったが、蓋を開けてみたら反応がよく、期待できるのでは」と明るい見通しを語る。

 ユーザーから見たら大きな変化だからこそ、ヤマトにとっても、クリアカラーの発売は挑戦的な試みだった。実は、なじみの深いこはく色の液状のりは本来透明で、着色して作られたものだ。

 わざわざ作業工程を増やしてまで着色したのは、開発のヒントとなった「アラビアのり(アラビアゴムの樹液を主成分としていた液状のり)」がこはく色をしていたからだ。昭和30年代までヤマトでは、アラビアゴムの樹液を主成分としていた液状のりを、「アラビアのり」と呼んでいた。手を汚さずに使えて便利だったアラビアのりのイメージもあって、こはく色のほうが「くっつきやすい」というイメージが浸透し、アラビックヤマトにそのまま踏襲された。

 それから半世紀弱がたち、従来のイメージを覆す形でクリアカラーを商品化した背景には、大きく3つの要因がある。

事務用品から生活用品へ方向転換

 1つ目は、液状のりの需要が徐々に減少していることだ。液状のりは発売以来、事務用品として重宝されてきたが、リモートワークの普及によりオフィスでの活躍の場が減少。ヤマト調べでは、01年には社内ののり全体の売り上げの79%が液状のりで占められていたものの、21年には全体の75%に微減。代わりに固形のりの割合が増えているそうだ。

 ヤマトRTL営業企画部 商品企画室の前田はるか氏は、こうした液状のりのニーズの変化を受け、クリアカラーの開発経緯をこう語る。

 「事務用品としての需要が減っているからこそ、パーソナルな生活用品として使ってもらえるよう、デザイン性を重視した。クリアカラーも、日常のシーンで馴染みやすく、かつ持っていると気分が上がるような色味を持たせた」(前田氏)

 色が5種類あることで、気分で色を使い分けたり、収集癖のあるユーザーが何色か購入したりするケースも考えられる。ヤマトは21年に、パッケージの色を5種類用意した「アラビックヤマト パステルカラー」を発売しており、女性を中心に「複数買い」をする傾向もかなり見られたそうだ。

21年に発売されたアラビックヤマト パステルカラー。10~40代の女性を中心に支持を集めた
21年に発売されたアラビックヤマト パステルカラー。10~40代の女性を中心に支持を集めた
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 このパステルカラーのヒットが、クリアカラーの発売に踏みきった2つ目の理由だ。

 アラビックヤマトの商品群で、キャップやラベルのカラーバリエーションをそろえた商品は、21年発売のパステルカラーが初めてだ。それまでヤマトでは、倒れても転がらない平たいパッケージや、両側に塗り口がついているツインタイプ、補充用の大きいサイズなど、様々な形状やサイズのものを発売してきたが、パッケージで多色をそろえたものはなかった。

こはく色のアラビックヤマトの商品群でも、様々な種類があるのが見て取れる
こはく色のアラビックヤマトの商品群でも、様々な種類があるのが見て取れる
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 前田氏いわく、もともと業界では、パステルカラーの文房具が女性の間で根強く人気だった。そこに、17年に始まった「文具女子博」といったイベントや、推し活のブームが加わり、色にこだわった文具需要が高まった。ヤマトのパステルカラーも、数量限定という希少性から色を複数種類そろえるユーザーは多く、クリアカラーの発売も後押しした。

 しかし、ここで1つの疑問が浮かぶ。文房具業界ではパステルカラーが人気なのに、あえてイメージが離れたクリアカラーを発売するのはなぜか。この回答が、3つ目の要因につながる。

 「パステルカラーの人気は長年安定して高い。業界全体でも、パステルカラーの商品は継続的に出続けており、最近では『くすみカラー』といったトレンドもある。新鮮さや差別化を図るうえでも、クリアカラーにヴィヴィッドなアクセントを入れたものを作ろうと考えた」(前田氏)

 文房具業界のトレンドに逆張りすることで、ユーザー層の拡大も期待できると見る。21年にパステルカラーを発売した際は、購買層が女性メインだったが、今回発売のクリアカラーには、男女関係なく手に取りやすくするという狙いを込めた。

 液状のりとしての機能は同じだが、ユーザーの趣向や時勢の変化にともない、見た目を変化していくアラビックヤマト。1975年発売のロングセラー商品が、文房具業界に新たなトレンドを開こうとしている。

(写真提供/ヤマト)