新型コロナウイルス感染症の拡大で、衛生意識が高まり、「寝具を自分で手軽に洗いたい」というニーズが増加。これに応えるべく、大手寝具メーカーの西川(東京・中央)は、中国の白物家電メーカー、ハイアール傘下のアクア(東京・中央)と協業し、コインランドリーでの洗濯・乾燥に対応する羽毛布団「ランドリエ」を開発。2021年9月下旬より販売を開始している。

大手寝具メーカーの西川と、コインランドリー機器を手掛ける白物家電メーカーのアクアが共同開発したコインランドリーでの洗濯に対応する羽毛布団「ランドリエ」が2021年9月下旬に販売開始となった(写真提供/西川)
大手寝具メーカーの西川と、コインランドリー機器を手掛ける白物家電メーカーのアクアが共同開発したコインランドリーでの洗濯に対応する羽毛布団「ランドリエ」が2021年9月下旬に販売開始となった(写真提供/西川)
[画像のクリックで拡大表示]

羽毛布団は洗っていいのか?

 コインランドリーの利用率が伸びている。コインランドリービジネスのコンサルティング事業を展開するダイワコーポレーション(横浜市)が発表した2021年の調査によれば、コインランドリーをこれまでに1度でも利用したことがある人の割合は68.3%で、同社が16年から行っている6回の調査の中で、過去最高だった(※1)。同調査によれば、背景には家事時間短縮や負担軽減を目的とした層の増加があるようだ。また、コインランドリーの1回の利用単価も20年と比べて高くなり、1100円以上の高額利用者が4%増加しているという。

※1:ダイワコーポレーション「全国男女2000人のコインランドリー利用実態および意識調査(第6回)」

 その要因の一つと考えられるのが、パワーのある大型洗濯機の利用率の増加だ。家で洗いにくいカーテンや敷物、寝具などの洗濯に利用する人が増えている。

 特に布団の洗濯は、コロナ禍の衛生意識の高まりもあって需要が高い。その中で難物なのが羽毛布団だ。「羽毛布団は洗っていいのか」は長年、メーカーと消費者双方を悩ませてきた問題だという。

 寝具業界大手、西川の商品第1部第1課 仲野恵章氏は、「コロナ禍以前から、お客様に『羽毛布団はコインランドリーで洗えるのか』という問い合わせをいただくことがあった。しかし、コインランドリーでの羽毛布団の洗濯・乾燥は、羽毛の吹き出しの原因になったり、キルトの破損で中身が片寄ったり、キルトの構造によっては乾きにくかったりする恐れがあった。このため一貫して、『洗えない』と回答してきた」と話す。

西川の商品第1部第1課の仲野恵章氏
西川の商品第1部第1課の仲野恵章氏
[画像のクリックで拡大表示]

 一方のアクアは20年ほど前から布団を洗えるコインランドリー用機器を開発している。

 20年4月には同社の大型洗濯乾燥機に搭載できる「羽毛布団専用コース」をリリース(特許出願中。対象機器はコイン式全自動洗濯乾燥機「HWD-7277GC」「HWD-7277GCO」「HWD-7177GC」「HWD-7177GCO」の4機種)。「ドラム式の洗濯機はたたき洗い方式だが、羽毛布団は中に空気が入ってドラムの中で浮いてしまうため、たたき洗いしづらいという問題があった。そこで洗濯前に予洗いを行い、布団の中までたっぷり水を染み込ませて羽毛に重量を持たせて浮きにくくし、標準よりもドラムの回転数を上げることでこの問題を解決した」(アクア 業務用洗濯機事業本部 事業戦略グループの結城武成氏)

アクア 業務用洗濯機事業部 事業戦略グループの結城武成氏(写真提供/アクア)
アクア 業務用洗濯機事業本部 事業戦略グループの結城武成氏(写真提供/アクア)
[画像のクリックで拡大表示]

 ただ、ほとんどの羽毛布団には「水洗いできない」と表示されている。このため、「お客様には不安を抱いたまま利用していただいていたのが実情だった」と結城氏は明かす。

 その両社が出合ったとき、「顧客の満足度を高めたいという双方の意向がマッチした」(仲野氏)。まずは、アクアのコインランドリー機器の「羽毛ふとん専用コース」で洗った羽毛布団を西川に見せ、西川が状態を確認することからスタート。その段階では、「確かに一般消費者の目で見ればきれいに洗えているし、しっかり乾いているという状態だったが、われわれ寝具メーカーから見ると、中の羽毛が片寄っていて、元の状態になったとは決して言えなかった」と仲野氏。そこから「コインランドリーで洗える羽毛布団」の共同開発を始めることになった。

キルトの形を六角形にし片寄り防止

 羽毛布団は羽根の片寄りを防ぐために、キルトのように分断する形に縫い合わされている。西川とアクアが検証したところ、羽毛布団によく使われているのは四角形のキルトだが、洗濯すると四隅に羽毛がたまりやすく、固まって動かなくなるので、乾きにくくなることが分かった。乾燥時間を延長すれば乾くが、コインランドリーでは追加料金も時間もかかってしまう。

 顧客の負担を軽減するため、まず目標に掲げたのは、「1回の操作で洗濯から乾燥まですべてを終わらせる」ことだった。西川が様々な素材(ポリエステル100%や綿100%、ポリエステルと綿の混合)やキルトの形でサンプルを作り、アクアがそれぞれ洗濯機に10回かけて状態をチェックするということを繰り返した。

 その結果、「六角形のキルトにすると、羽毛が中で動きにくいので片寄りにくく、乾燥しやすい。また四角形のキルトであっても、1マスを大きくすれば中で動きやすく、ふんわり仕上がることも分かった」(仲野氏)。

キルトの1マスを六角形にすることで、マスの角度を鈍角にし、バランスよく乾きやすい設計にした「ランドリエ ヘキサシールドキルト」4万4000円(税込み、以下同)。布団の側生地は綿70%、ポリエステル30%。詰め物はフランス産ホワイトダックダウン90%、フェザー10%。シングルロングサイズ(150×210センチメートル)は詰めもの重量1.2キログラム(写真提供/西川)
キルトの1マスを六角形にすることで、マスの角度を鈍角にし、バランスよく乾きやすい設計にした「ランドリエ ヘキサシールドキルト」4万4000円(税込み、以下同)。布団の側生地は綿70%、ポリエステル30%。詰め物はフランス産ホワイトダックダウン90%、フェザー10%。シングルロングサイズ(150×210センチメートル)は詰めもの重量1.2キログラム(写真提供/西川)
[画像のクリックで拡大表示]
中の羽毛を乾きやすくするため、キルトの1マスを大きく設計した「ランドリエ テトラシールドキルト」3万3000円。布団の側生地はポリエステル85%、綿15%の混合。詰め物はホワイトダックダウン85%、フェザー15%。シングルロングサイズ(150×210センチメートル)の詰めもの重量は1.2キログラム(写真提供/西川)
中の羽毛を乾きやすくするため、キルトの1マスを大きく設計した「ランドリエ テトラシールドキルト」3万3000円。布団の側生地はポリエステル85%、綿15%の混合。詰め物はホワイトダックダウン85%、フェザー15%。シングルロングサイズ(150×210センチメートル)の詰めもの重量は1.2キログラム(写真提供/西川)
[画像のクリックで拡大表示]
キルトとキルトの交差部分は密閉し、キルトからキルトへの羽毛の移動や片寄りを防止。さらにキルトの1マスを大きく設計することで、布団の内部が乾きやすい仕様になっている(写真提供/西川)
キルトとキルトの交差部分は密閉し、キルトからキルトへの羽毛の移動や片寄りを防止。さらにキルトの1マスを大きく設計することで、布団の内部が乾きやすい仕様になっている(写真提供/西川)
[画像のクリックで拡大表示]

 布団の側生地には、ポリエステルと綿の交織生地を採用した。ポリエステルは水を含みにくいが、羽毛が突き出しやすい。綿100%は肌触りがいいが、水分を含むと縮んでしまう。両者の混合糸を使用することで羽毛も吹き出しにくく、軽さも出せたという。

 完成した羽毛布団「ランドリエ」の2商品については、アクアもコインランドリーでの洗濯・乾燥後の違いを高く評価している。「乾燥時のタンブリングの回転で中の羽毛がうまく分散される構造になっているので、中の羽毛が片寄らず、かさや高さも出て、きれいに仕上がる印象だ」(結城氏)

接触防ぐ衛生的な密封パッケージ

 商品として販売する際の梱包にも工夫を施した。寝具は購入時、店頭で触れて弾力や柔らかさを確認するのが一般的。だがコロナ禍での衛生意識の高まりや、店頭での接触に対する不安を考慮し、ランドリエは工場直送で中身に触れられない特殊な密閉パッケージを採用したのだ。

 「この密封パッケージは、食品保存用の包装材料などに使われる、気体が透過しにくい素材を使用し、衛生的な環境の工場内で空気を抜いて圧縮・梱包して店舗に配送している。きれいなまま持ち帰り、きれいに洗濯して使っていただきたい」(仲野氏)

衛生的な工場内で密封されたまま販売され、開封まで密封される「フレッシュパック」
衛生的な工場内で密封されたまま販売され、開封まで密封される「フレッシュパック」
[画像のクリックで拡大表示]

「売り場に出せば売れる」状況

 これまで寝具は特徴のある商品や、生活スタイルに合わせた商品を出しにくい傾向があった。そのため羽毛布団は羽毛の種類やグレード、クオリティーなどが訴求材料だったが、「洗える羽毛布団」は今までにないアプローチが可能だ。実際に発売後はホームセンターなどの量販店で反響が大きく、店頭に並べるとすぐに売れていく状況だという。

 「“洗える”というのは、明らかに今までと異なる利点であり、その意味でも手応えを感じている」(仲野氏)。現状、テレビなどを使った大々的なプロモーションは行っていないが、今後はWeb広告を中心に、商品の認知を広げていきたい考えだ。

羽毛布団とコインランドリー需要増

 「毎日使うものだからこまめに洗いたい」という潜在需要がありながら、羽毛布団は高価なため、失敗を恐れて踏み出せない人は多い。「コインランドリーで安心して洗える羽毛布団」があれば、寝具メーカーも羽毛布団の需要を拡大できるし、コインランドリー側も利用拡大につながる。つまり、双方が新たな需要を創出できることになる。

 西川とアクアが共同でランドリエを開発した狙いはまさにそこにある。今後、“洗える”というキーワードが羽毛布団を選ぶキーワードになるかもしれない。