バンダイナムコアミューズメントが展開するカプセルトイ専門店「ガシャポンのデパート」が、約1年5カ月で45店舗ほど出店した。急速な店舗拡大にもかかわらず、ユーザーへの供給が追いつかない状況だという。カプセルトイが人気の理由と、ユーザーの需要をくみ取る同社の戦略を聞いた。

日本最大級の設置台数を誇る、ガシャポンのデパート池袋総本店
日本最大級の設置台数を誇る、ガシャポンのデパート池袋総本店

隙間産業から専門店へ、女性客が増加

 「ガチャガチャ」「ガシャポン」などの通称で知られるカプセルトイ。日本では半世紀以上の歴史を持ち、どの世代にとってもなじみの深いカプセルトイは、今「第4次ブーム」に突入しているという。

 バンダイナムコ アミューズメント(東京・港)のベンダー営業部ゼネラルマネージャーの前田一也氏は、「カプセルトイは時代とともに、商品ラインアップや販促方法を変え、老若男女に親しまれるコンテンツに成長してきた」と語る。

 前田氏の説明によれば、カプセルトイの第1次ブームは1980年代。当時発売されていた「キン消し」(「キン肉マン」のキャラクター消しゴム)の大ヒットがきっかけだ。その後、90年代に、「ウルトラマン」や「ゴジラ」のフィギュアが入ったカプセルトイが流行し、第2次ブームを形成する。中年男性には、懐かしさを覚える人も多いはずだ。

 その後21世紀に入り、第3次ブームが訪れる。カプセルトイの中身をSNSでアップする動きが生まれ、女性客やファミリー層にも浸透した。2012年にはやった「コップのフチ子」(コップの縁に引っ掛かる、様々なポーズを取った女性のキャラクターフィギュア)をはじめ、デザイン性が高くユニークな商品が好まれた。

 そして19~20年ごろから現在に至るまでが第4次ブームだ。今回のブームの要因は「カプセルトイの専門店が増えたこと」だという。

 「カプセルトイは、従来ショッピングモールの共有通路や駅構内に設置され、そこを訪れた人が偶然回す『隙間ビジネス』として栄えてきた。しかし、路上の一角にある商品を物色することに抵抗感や恥ずかしさを覚える女性も多かった」(前田氏)

 「専門店の出現により、女性客など、店内で商品を吟味したいユーザーも取り込めた」と前田氏。今もガシャポンの人気は高く、近年では同社を含む複数企業が専門店を展開している状況だ。

店内の商品をじっくりと吟味できる
店内の商品をじっくりと吟味できる

コロナ禍に店舗数を一挙拡大

 日本初のカプセルトイ専門店は17年、ルルアーク(福岡市)が展開する「ガチャガチャの森」だった。21年12月時点で、パートナー店などを含め、全国に60店舗以上を構え、店舗数のシェアで国内最大を誇る。

 最古参かつ最大手の同社に、店舗数のシェアで猛追しているのが、バンダイナムコアミューズメントが展開する「ガシャポンのデパート」だ。同社は、新型コロナウイルス禍の20年8月に1店舗目「横浜ワールドポーターズ店」を開店。そこから約1年4カ月で、全国45店舗ほどに規模を拡大している(21年12月19日時点)。前田氏は「店舗数で業界ナンバーワンを目指し、出店を続けてきた」と語る。

 バンダイナムコアミューズメントは、専門店を展開するリソースが豊富だった。もともと展開していたアミューズメント施設(ゲームセンター)内のスペースや店舗スタッフに加え、グループ会社にベンディングサービスを手掛けるハピネットとメーカーのバンダイがある。コロナ禍などの影響で店を畳んだアパレル店舗跡など、商業施設にも出店を続けてきた。

 とはいえ、いくら店舗数を増やしても、専門店にユーザーが入らなければ元も子もない。前述のように、現在は各社が専門店を展開しており、カプセルトイに参入しているメーカーは50社近くにも及ぶそうだ。競争は激しい。だが、前田氏は「池袋総本店では月8万回ほどガシャポンが回され、人気の商品は1日で1万個完売する。カプセルトイ業界は、今なお需要が供給を上回っている状態」と語る。

 それではなぜ、専門店が立て続けに出てきても、カプセルトイの需要は尽きないのか。またバンダイナムコアミューズメントは、ユーザーの需要をどのようにくみ取っているのか。この2点を前田氏に聞いた。

バンダイナムコアミューズメントのベンダー営業部ゼネラルマネージャーの前田一也氏。手元にあるのはすべてバンダイのカプセルトイ商品だ
バンダイナムコアミューズメントのベンダー営業部ゼネラルマネージャーの前田一也氏。手元にあるのはすべてバンダイのカプセルトイ商品だ

競合が多いからこそのメリット

 まず、カプセルトイの需要が尽きない理由について、前田氏は、様々な場でのニーズが開拓しやすい点を挙げた。

 「(1号店のオープン時は)客数と客層の幅が想定を大きく上回った。カプセルトイは歴史が長く、アイテム数も多いので、ターゲット層が幅広い。そのうえ映画観賞や外食のついでにガシャポンを回す人も多いため、小回りが利きやすく、多種多様な業態にも適応する」(前田氏)

 「多種多様な業態」の一例として、21年12月17日にオープンした「本屋さんのガシャポンのデパートTSUTAYA鴻巣吹上店(埼玉県鴻巣市)」は、初となる書店内での出店となった。

 「書店とカプセルトイ専門店、それぞれの店舗を訪れるユーザーは、ともに数多(あまた)の商品群から自分が欲しいものを探すため、行動パターンに親和性がある。最近は、漫画やアニメなどとのメディアリミックスが当たり前なので、書店でも『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などヒット作のキャラクターコラボがやりやすい」(前田氏)

 アニメ映画の人気も様々な場でのニーズの開拓にプラスに作用した。ガシャポンのデパートとは別業態の「ガシャポン バンダイオフィシャルショップ」では、シネコンの隣に設立した店舗もある。

 「シネコンのロビーは、チケット、ポップコーン、物販売り場があるだけでスペースが余っている。最近のアニメ映画は『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』や『シン・エヴァンゲリオン劇場版』などのヒットで、興行収入が全体的に増えており、それに比例してカプセルトイの売り上げのアニメ構成比も年々高くなっている」(前田氏)

 前田氏によれば、カプセルトイは製作期間が比較的短く、低ロットで生産できる。そのためキャラクターIP(知的財産)の許諾を取得しやすく、商品化がしやすいのだそう。小回りが利きやすいカプセルトイ業界だからこそ、多彩な商品ラインアップでユーザーの需要を掘り起こしていくことは重要だ。商品が作りやすく、かつ売り上げが見込めるキャラクターコンテンツは、その急先鋒(せんぽう)としてカプセルトイ業界にうってつけの商材と言える。

 カプセルトイの需要が尽きない理由として、前田氏がもう一つ挙げたのが競合の多さだ。バンダイでは毎月約50〜100種類、他社も含めた業界全体では200~300の新商品をリリースしている。一見、こうした競合の多さは弊害に感じるが、前田氏は市場が活性化している状況は自社のビジネスにもプラスに働くと語る。

 「カプセルトイは最初にある程度のロット数を作り、めったに再生産はしない。基本的には新商品を次々と作るモデルで、消費サイクルが短い。様々な種類のカプセルトイが出ている状況により、客層や市場が保たれ、縮小することもない」(前田氏)

UGCを重視、偶然のバズりを増やす

 次は、バンダイナムコアミューズメントでは、ユーザーの需要をどうくみ取っているのかについてだ。毎月新商品を量産する同社にとって、何がヒットコンテンツになるのか見極めも難しい。だからこそ周知方法が重要になる。

 バンダイナムコアミューズメントが重視しているのが、SNSなどで広めたくなるような仕掛けだ。店舗ではディスプレーなどを工夫するほか、手に入れたカプセルトイを撮影するスポットも設ける。

 こうした取り組みで生まれるのが、UGC(ユーザー生成コンテンツ)だ。ユーザーが撮影したカプセルトイの写真をSNSなどから探し、公式サイト内の「みんなのガシャ活」ページで紹介している。ユーザー自身がSNSに挙げている写真なら、カプセルトイのキャラクターの版権も気にせずに済む。

公式サイト内の「みんなのガシャ活」ページ。個々のユーザーの投稿を紹介している
公式サイト内の「みんなのガシャ活」ページ。個々のユーザーの投稿を紹介している

 「今カプセルトイは、買って終わりでなく、買った後にSNSでアップする人も多い。それらのユーザー投稿がバズって拡散し、人気に火が付くケースがとても多い。弊社ではカプセルトイを回して楽しむことを『ガシャ活』と呼び、認知拡大を狙っている」(前田氏)

 カプセルトイ専門店では、直接ユーザーを接客する機会は少ない。そこで、ユーザーの体験や反応を把握して、ブームをつくり出すためにも、UGCが必要不可欠だ。

 近年では、ユーザーがTwitterに上げた、AED(自動体外式除細動器)をミニチュア化したトイに、いいねが1万件以上もついた。食品サンプルのような商品も、SNSでの反響から女性に人気が出やすいそうだ。こうした商品も、企画段階では必ずしも期待が大きいわけではなく、UGCによる後押しが大きい。

「Ringcolle! ほっこりんぐ(c)BANDAI」シリーズの第4弾。リングの上に、おでんの具の食品サンプルが乗っている
「Ringcolle! ほっこりんぐ(c)BANDAI」シリーズの第4弾。リングの上に、おでんの具の食品サンプルが乗っている

 UGCの効用を引き出すため、公式サイト内の動線にもこだわる。個々のユーザーの写真をクリックすると、「アイテムを探す」ボタンから、商品の検索ページに移動できるため、気になったカプセルトイがどこにあるのかをすぐ検索できる仕様になっている。個々の商品ページでは、店舗ごとの在庫の有無も確認できる。

 YouTuberをはじめとした、インフルエンサーの影響力も大きい。1号店を出店した際、人気YouTuberのHIKAKINから撮影依頼が入った。その際、バンダイが販売する非接触でガシャポンのハンドルを回せる「マイガシャポンハンドル」も取り上げられ、子供を中心に話題となった。

 「HIKAKINさんの動画は、現在1250万回ほど再生されている。今ではインフルエンサーの方から撮影依頼が舞い込むことが多い。池袋総本店だと店舗面積も広く、フォトスポットもあるので、撮影場所として選んでもらいやすい」(前田氏)

 池袋総本店には、博物館のように、カプセルトイを学んで楽しめるコンテンツもある。入り口にカプセルトイが作られる製造工程を写した大きいモニター、カプセルトイの歴史が記されたブース、空カプセルを入れるとおみくじが引けるコンテンツなど、ワクワク感とかエンタメ感を演出する仕掛けも施す。

池袋総本店に展示されているモニター
池袋総本店に展示されているモニター
池袋総本店に展示されているカプセルトイの歴史や、これまでのヒット商品が記載されているブース
池袋総本店に展示されているカプセルトイの歴史や、これまでのヒット商品が記載されているブース

 「弊社のゲームセンターの技術を活用し、体験の楽しさも含めて、ガシャポンのデパートを訴求していく。カプセルトイを日本のカルチャーとして発信しつつ、池袋がカプセルトイの聖地として認識されるようにしていきたい」(前田氏)

 リピーターを獲得するため、来店したり空カプセルを回収箱に入れたりするたびにポイントがたまるアプリも用意する。「空のカプセル回収機とアプリを連動しているのは弊社だけ」と、前田氏も語るように、リアル店舗とアプリをつないで、ユーザーの購買行動を促進させる。

 かつてのカプセルトイは、たまたま興味があるものを見つけて回すだけだった。それが、メーカーが設置場所などを発信することで、欲しいトイを目当てに、ユーザーが足を運ぶものになった。さらに今では、施設そのものを楽しんだり、入手したトイの写真をSNSにアップしたりと、幅広い楽しみ方が生まれている。バンダイナムコアミューズメントが取ったのは、こうした店舗体験や購買後のユーザーアクションに着目し、その力を借りて、需要を喚起させる訴求方法だ。こうした取り組みが、ガシャポンのデパートの人気を持続させている要因と言える。

(写真提供/バンダイナムコアミューズメント)

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