ほぼ日は2021年11月、千葉大学工学部発ベンチャーのBBSTONEデザイン心理学研究所(千葉市)と協力して開発した商品「ほぼ日ノオト」を発売した。目のストレスに着目し、独自のデザイン心理学に基づいて作った、新しいケイ線を備えたノートだ。

ほぼ日の「ほぼ日ノオト」のサイズは一般的な大学ノートと同じ「セミB5」(179×252ミリメートル)で、ブルーやグレー、イエロー、グリーン、レッドの5色で展開している
ほぼ日の「ほぼ日ノオト」のサイズは一般的な大学ノートと同じ「セミB5」(179×252ミリメートル)で、ブルーやグレー、イエロー、グリーン、レッドの5色で展開している

 一般的なケイ線と異なり横線がつながっておらず、6.3ミリメートルごとに0.7ミリメートルのすき間があり、その下には0.5ミリメートルの縦線がマス目のガイドとして入っている。人間の目の錯覚を利用し、「線がつながっていないのにケイ線に見える」ようにデザインをして、目の負担を和らげるようにした。

一般的なノートのケイ線とは異なり、横線がつながっておらず、すき間があり、その下には短い縦線がマス目のガイドとして入っている。デザインはBBSTONEデザイン心理学研究所が考案した
一般的なノートのケイ線とは異なり、横線がつながっておらず、すき間があり、その下には短い縦線がマス目のガイドとして入っている。デザインはBBSTONEデザイン心理学研究所が考案した

 「長い横線と短い縦線を組み合わせて設計した、方眼でもケイ線でもない新しいノートの紙面を、人間の錯視(さくし)を応用して開発した。ノートを開いたときの威圧感を軽減でき、長時間向き合っても視覚的ストレスが少ない。実際には存在しない縦線を感じ、表や図を書きやすく、文頭も自然とそろえることができる」(BBSTONEデザイン心理学研究所社長の日比野好恵氏)。奇をてらったデザインを打ち出すのではなく、さりげなく使いやすいようにした点が特徴だ。

 デザイン心理学は、千葉大学デザイン・リサーチ・インスティテュートデザイン心理学研究室の日比野治雄教授が提唱した学問領域。実験心理学や認知心理学、人間工学の知見をベースに数値化が難しい人間の感性(見やすさ、使いやすさ、印象など)を定量化。すでに多くのプロダクトやパッケージ、ユーザーインターフェースなどのデザインに活用されている。

 ほぼ日ノオトの開発においても、BBSTONEデザイン心理学研究所は116人の被験者に実際に使用してもらい、既存のケイ線のノートで作業する場合と比較した。集中度を調べたりアイカメラで目の動きを追ったりしたほか、脳血流分析による学習効果を検証したり目のストレスを空間周波数分析と呼ぶ手法で計測したりした。結果、単純計算するときの正答率や速度で既存のケイ線によるノートを上回るなど、大きな効果があったという。検証内容は16年の第31回国際心理学会議で発表。今回のケイ線で20年に特許を取得した(特許第6749109号)。

BBSTONEデザイン心理学研究所の実験結果から。新しいケイ線のノートと既存のケイ線のノートで作業を比較したところ、回答のスピードや正確性が高いことが分かった(画像提供/BBSTONEデザイン心理学研究所)
BBSTONEデザイン心理学研究所の実験結果から。新しいケイ線のノートと既存のケイ線のノートで作業を比較したところ、回答のスピードや正確性が高いことが分かった(画像提供/BBSTONEデザイン心理学研究所)
作業中の脳血流を分析したところ、新しいケイ線のほうが高かった(画像提供/BBSTONEデザイン心理学研究所)
作業中の脳血流を分析したところ、新しいケイ線のほうが高かった(画像提供/BBSTONEデザイン心理学研究所)
ケイ線を空間周波数分析という手法で測定したところ、新しいケイ線のほうが視覚的なストレスが低かった(画像提供/BBSTONEデザイン心理学研究所)
ケイ線を空間周波数分析という手法で測定したところ、新しいケイ線のほうが視覚的なストレスが低かった(画像提供/BBSTONEデザイン心理学研究所)

 「以前から視覚的ストレスに関心があり、新しいケイ線についても13年ごろから、さまざまな横線や縦線で実験してきた。そうしたエビデンスが特許につながった」(日比野治雄氏)

左から、千葉大学教授の日比野治雄氏とBBSTONEデザイン心理学研究所社長の日比野好恵氏
左から、千葉大学教授の日比野治雄氏とBBSTONEデザイン心理学研究所社長の日比野好恵氏

 ノートとして製品化するに当たり、BBSTONEデザイン心理学研究所はほぼ日にメールを送った。「書くことを大切にしている」「デザインを特に重視している」といった、ほぼ日の姿勢に共感していたからという。

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