拓殖大学内の空きスペースに、無人かつレジもない古着販売店がオープンした。衣類の廃棄を減らすため、アパレルと不動産会社が提携した。基本的に商品は1着500円均一で、販売対象者は拓殖大学の学生と職員のみ。収益を出しつつ、衣料品ロスを減らすため、どのようなノウハウがあるのか。

10月15日、拓殖大学の学生寮内のコンビニにオープンした無人の古着店「FCLC 拓殖大学 by spinns」
10月15日、拓殖大学の学生寮内のコンビニにオープンした無人の古着店「FCLC 拓殖大学 by spinns」
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「アパレルは環境負荷が大きい」と聞いて

 拓殖大学八王子国際キャンパス構内にある学生寮のコンビニ空きスペースに、2021年10月15日にオープンしたのは、無人の古着販売店「FCLC 拓殖大学 by spinns」。拓殖大学の学生や職員を対象に、基本的に1着500円均一で販売する。

 スタッフもいなければレジもないため、商品を購入する場合は、店内のポストに自分でお金を入れる。また、洋服の陳列や店内の掃除など店舗管理に協力してくれた場合は、無料で商品を持ち帰ってもいいそうだ。ビジネスの形態的にはBtoC(企業と個人間の取引)だが、感覚的にはボランティアやフリーマーケットに近い。

 拓殖大学への出店は、アパレル会社のヒューマンフォーラム(京都市)内のブランド「スピンズ」が主体となって実施。渋谷109や原宿・竹下通りなどに店舗を展開し、10~20代のZ世代を中心に人気の同ブランドが、衣類の廃棄ロスを減らす活動の一環として店舗を構えた。

スピンズ原宿竹下通り店の様子
スピンズ原宿竹下通り店の様子
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 スピンズに協力したのは、学生マンションの運営から管理までを行うジェイ・エス・ビー(京都市)。両社の共通の知人による紹介で、協業が実現した。同社が所有していた学生寮内のコンビニにある約20坪の空きスペースをスピンズが低額で借り受け、今回のプロジェクトが実現した。

 協業の背景には、スピンズの仕入れ先が、コロナ禍の影響で、衣服を海外に輸出できずに余った経緯がある。ヒューマンフォーラム スピンズ事業部長の岩月臣人氏は「廃棄される衣類を少しでも減らしたい」と、プロジェクトに懸ける思いをこう語る。

 「5年くらい前に『アパレルは地球で2番目に環境負荷がかかる産業だ』と聞き、長年業界で働いている自分からしたら、とてもショックだった。昨今のSDGs(持続可能な開発目標)の流れも踏まえて、少しずつでも自分たちができる環境に優しい活動を広げていきたい」(岩月氏)

ヒューマンフォーラム スピンズ事業部長の岩月臣人氏
ヒューマンフォーラム スピンズ事業部長の岩月臣人氏
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 21年4月に公開された環境省のサイトによると、原材料調達を含め、一着の服を完成させるまでに、約25.5キログラムの二酸化炭素(CO2)が排出され、2300リットルの水が必要とされる。衣類の廃棄にも環境負荷がかかるが、日本では年間約48万トンの衣服が廃棄されている。

 こうしたアパレル業界の負の側面を、無人店舗をはじめとした活動で変えていきたいと、岩月氏は意気込む。スピンズではこれまで、FCLC 拓殖大学 by spinns店以外にも、高齢者施設のコミュニティースペースや、香川県の商店街の空きテナントなどに無人店舗を出店してきた。

FCLC 拓殖大学 by spinnsの外観。コンビニの空きスペースを活用している
FCLC 拓殖大学 by spinnsの外観。コンビニの空きスペースを活用している
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1着500円でも赤字にならない理由

 気になるのはビジネスモデルだ。1着500円と安価で提供して、販売対象者は拓殖大学の学生と職員のみ。そのうえレジも通さない。かなり大胆な経営に思えるが、利益は出ているのか。

 岩月氏に聞くと、FCLC 拓殖大学 by spinns店は「経営コストがかからないためリスクが少ない」と答えた。

 「仕入れ先からは、衣服を購入するわけではなく借りている状態。売れた分だけ仕入れ先に納め、売れ残った衣類は返却する。ジェイ・エス・ビーに支払う賃料も、売り上げに対する歩合で、その割合も低いので、そこまで負担にはならない」(岩月氏)

 無人店舗なので、当然、人件費も発生しない。仕入れ先とジェイ・エス・ビーに支払う歩合は非公開とのことだが、小規模なビジネスモデルでも収益は出ているそうだ。また、地方へ出店する場合は、家賃もかからず、競合も少ないため、広告費もかからない。出店地域の客層に合わせて品ぞろえを変えることで、売り上げの増加につながる。

 仕入れ先からすれば廃棄予定の衣類がお金に換わり、ジェイ・エス・ビーは空きスペースから賃料が得られる。3者がそれぞれのリソースやノウハウを持ち寄ることで、収益を得つつ、衣類ロスを削減する循環を実現した。

 「商品に代金を載せなくても、欲しいものが手に入って、経済が回っていくのは、良い社会の仕組み。お金や人間性、環境に優しい社会や循環が、洋服を通して実現できたらというのがコンセプト」と岩月氏。

 店名のFCLC 拓殖大学 by spinnsにも、その思いが反映されている。「F」はファッション、「C」はコンパッション(思いやり)、「L」はローカル(地元)、「C」はサイクルを意味する。店舗での売り場づくりの経験を生かして、場所を問わずに、今後も出店を増やしていく方針だ。

FCLC 拓殖大学 by spinnsの店内の様子。画面左下の立て看板には、スピンズのロゴが入っている
FCLC 拓殖大学 by spinnsの店内の様子。画面左下の立て看板には、スピンズのロゴが入っている
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SDGsが流行るとトレンドカラーは緑に

 無人販売店の他にも、スピンズはジェイ・エス・ビーが運営する学生マンションで、不用になった衣類の回収ボックスを設置する活動も行う。スピンズはこうしたサステナブルな施策に、2年ほど前から取り組み始めた。その背景には、ファッションが社会の価値観やトレンドに影響を受けやすいという特性がある。

 「これまでは見た目やデザインなどのファッション性だけで、洋服を購買する人が多かった。それが今ではだんだんと、ブランドの理念や、(洋服の購買を通して)どういう社会を実現していきたいのかといった考え方も加味されてるようになってきている」(岩月氏)

 トレンドカラーについても「LGBT(性的少数者)が流行った年はレインボーが、環境やSDGsの問題が出てきた最近はグリーンが流行している」と岩月氏。商品自体の魅力だけでなく、ブランドの世界観や理念も含めて消費者に訴求していく時代になりつつあるそうだ。

 スピンズを展開するヒューマンフォーラムとしては、18年に新ブランド「森」をローンチ。店内にはリメイクスタジオを設置して、洋服やブランケット、生地などをその場でリメイクした商品を販売。顧客に不用品を再利用する過程を見てもらうことで、より環境に優しいサステナブルな価値観を訴求している。

 転換期を迎えているアパレル業界。世の中の流れを考慮しつつ、アパレルのイメージを良くしたいという岩月氏らの考えが、無人古着販売店をはじめとした新しい事業につながっている。

(写真提供/ヒューマンフォーラム)