推定1兆円といわれる巨大経済圏を成した『鬼滅の刃』。その成功の要因は、コンテンツ業界でも重要性が高まっている「LTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)」にあった。2021年10月に新著『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』を上梓(じょうし)したエンタメ社会学者の中山淳雄氏が解説する。
(『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』第2章の一部を抜粋・再構成したものです)
『鬼滅の刃』に見るライフタイム志向
デジタル化でデータ収集が可能となり、ユーザーとコンテンツの関係が明確に「進化」した点がある。それはユーザーの行動が数字としてトラッキングされ、アーカイブとしてずっと残されるということだ。
このデジタルの最大の利点(かつ時に欠点となる)を捉え、ビジネスに生かそうとする概念がある。それは「LTV(ライフタイムバリュー=顧客生涯価値)」である。あるユーザーが、ユーザーとしての寿命(ライフ)の期間にどのくらいのバリューを実感し、お金を払うかという概念である。
10人のユーザーがそのサービスを使い始めて即9人がやめたとしても、残った1人が1カ月後に1万円を払えば、1万円÷10人=1000円/人が1人当たりのLTVとなる。そうなるとこのサービスは1人当たり1000円の広告費をかけて集めても、収支としてはとんとんになるという話になる。10人が誰もやめることのないサービスで、1カ月後に全員が1000円払ったとしてもLTVは同じになる。
つまり「いかに今のユーザーが長く使ってくれるか(継続率)」×「いかに続けたユーザーが高く消費してくれるか(収益性)」の掛け算で、サービスの経済圏の大きさが決まる。気にすべきは継続率と収益性である。
このLTV志向は本書(『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』)を貫くテーマの1つである。コンテンツの提供者とユーザーは「商品を購入する」という1点の関係性ではない。ユーザーのログが捕捉可能となり、これまでの購入履歴や広告のクリックで興味の幅を捕捉しながら、何カ月ぶりに来店したのかなどのデータが抽出され、それがデータベースとして分析可能になった中で、いかに「関係性の中でLTVとしての消費継続を『してもらい続けるか』」を考える時代に入っている。
『鬼滅』とLTVの関係は?
ライフタイム志向を実践している事例として、2020年に最も象徴的な動きをしたのが『鬼滅の刃』である。下のグラフは鬼滅のファンの規模を可視化した図である。あえて自分からツイートするつぶやき数はファンの「濃さ」を表す1つの指標になる。19年3月まではほとんど底に張り付いた状態(毎日数百件程度)だが、19年4月からのアニメ放送・配信で人気を博す。アニメ放送が終了する19年9月で11万5000件/日とアニメ作品としては十分に成功した数字だろう。
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