SUBARU(スバル)がトヨタ自動車と共同開発したSUV(多目的スポーツ車)型の電気自動車(EV)「SOLTERRA(ソルテラ)」を2021年11月11日に世界初公開した。スバル初のグローバル展開EVとなるが、「販売台数はスバル車全体から見れば少ない」と慎重な姿勢を見せる。
スバルが公開した「ソルテラ」は、同社が初めてグローバルで展開するEV。22年年央までに日本、北米(米国・カナダ)、欧州、中国などに導入を開始する予定だ。
ソルテラはトヨタ自動車との共同開発で誕生した。「BRZ」(スバル)と「86」(トヨタ)というスポーツカーの2世代にわたる共同開発に続く、2車種目となる。新型スバルBRZ(21年7月29日発表)とトヨタ「GR86」(21年10月28日発売)ではスバルが開発を主導したが、新EVの開発は「トヨタZEVファクトリー」で行われ、スバルはトヨタ側にエンジニアとデザイナーを派遣する形となった。
スバルらしさ出したフロントデザイン
新EVのトヨタ版は「トヨタbZ4X」として、21年10月29日に日本仕様の詳細をトヨタが公表しており、ソルテラも日本仕様のスペックこそ公表しているが、機能面については限定的だ。ボディーサイズは全長4690×全幅1860×全高1650ミリメートルで、前輪駆動車と四輪駆動車(4WD)の2タイプを用意した。
フロア下に設置される駆動用リチウムイオン電池の容量は71.4kWh。充電性能は200VのAC充電器の最大出力が6.6kW、DC充電器の最大出力が最大150kW(※仕様および充電器の性能で異なるため)。モーター出力は駆動方式で異なり、前輪側にのみモーターを搭載する前輪駆動車は、最大出力150kWを発揮。前後それぞれにモーターを搭載する四輪駆動車 は、前後共に80kW出力ずつで、システムの最大出力は160kWとなる。
トヨタbZ4Xとの差別化の役割も果たすのが、ソルテラ専用のフロントデザインだ。既存のスバル車と共通性のあるヘキサゴン型のフロントグリルは、シームレスにすることでEVらしさを表現。スバルらしいCシェイプのシグネチャーライトを取り入れたヘッドランプには、スバル初となる複数プロジェクターによるロービームを採用している。またボディーカラーと内装色については、ソルテラ専用色も設定した。
とはいえ基本的な構造はトヨタbZ4Xと共有している。この点についてスバルは、両社の立場は対等で、技術者同士が切磋琢磨(せっさたくま)して開発を進めており、スバルらしさもしっかりと盛り込めたとする。
販売計画の台数は少ない
発表会に登壇したスバルの中村知美社長は、「他のスバル車から乗り換えても違和感はない。スバルらしさもしっかり表現できた」と話す。一方で、国内販売については慎重に取り組む姿勢も見せる。
「日本のEV市場はまだまだ小さい。ソルテラ導入に関しても大上段に構えてはおらず、現時点では明かせないが、販売計画は驚くような台数を予定していない。実際の販売台数もスバル車全体から見れば少ないだろう。EV導入時の販売拠点での対応で最も大きいのがサービスとなるが、全店舗に全ての機器を用意することは考えていない。例えば駆動バッテリーの積み下ろしをするような大きな設備の導入は、ディーラー側の大きな負担にもなるので、販売店本社の本社整備工場に限定するなど、ディーラーの規模や販売状況に合わせて進めていきたい」とした。
トヨタとの共同開発では差別化が課題になるが、「スバルとトヨタ、それぞれの顧客が各メーカーのクルマに求める価値が異なることは、しっかり理解している。もちろん、良いクルマを作ることを目指したのは両社に共通しているが、スバルとしては、これまで培ってきた安全性や走る楽しさ、4WDやSUVに求められる機能などを押さえたクルマに仕上げている。特に、主要市場である北米の顧客の、SUVに対する期待の大きさを踏まえたものになっている」とコメントした。
スバル持ち味、電動化で失われない
EVの導入は、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)社会の実現に向けたスバルの大切な一歩としながらも、EVに対する顧客の反応はまだまだ冷静だと見ているスバル。事実、国産EVのパイオニアである日産「リーフ」さえも、国内で売り上げを伸ばし続けているわけではない。ネックは価格面で、燃費と価格のバランスに優れるハイブリッドカーが、今もエコカーの主役なのだ。
スバルとトヨタの場合、全く新しいEVの開発費をシェアできた点も大きい。より明確な差別化を図るには、EV市場が成熟し、収益が上がるようにならないと難しいのが現状だろう。
特にこれまでスバルは、水平対向エンジンや4WDなど独自性の強い技術で支持を得てきたのも事実。その強みがEVで失われるのではないかという心配もある。だが、この点についてスバルの技術部は、モーターの強みを生かすことでスバルらしい走りは維持できるとしており、スバルらしさが電動化で失われることはないと明言する。電動化時代のスバル車像をつかみつつあることもうかがえた。
(画像提供/スバル)