失敗を一つの経験と捉え、成功につながる過程だと位置づけるだけで、その評価は180度変わる。だが、実際にそれを目の前にすると、人は必要以上に恐れ、萎縮し、「犯人探し」に終始してしまいがちだ。「失敗した時に大事なのは、人でなく『構造』に着目すること」と指摘するのは、学びデザインの荒木博行社長。ネットフリックスの事例から浮かび上がる、失敗から学ぶためのコツとは何か。2021年10月に『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)を上梓(じょうし)した荒木氏に話を聞いた。
<前編はこちら>
学びデザイン代表取締役社長
人ではなく「構造」に着目する
――荒木さんの著書『世界「失敗」製品図鑑』では、グーグルやアマゾン・ドット・コム、フェイスブック(現メタ)、アップル、さらには任天堂、ファーストリテイリングなどの「失敗」事例から、日常的なビジネスの現場でも応用できる教訓を引き出しています。失敗から学ぶためのコツはありますか?
僕が「失敗」事例を書く際に、必ずやっていたことは、当時の判断に合理性を見いだすことでした。結果的に失敗してしまうんだけど、成功に向けた考え方に筋が通っているか、判断に納得性があるかを調べました。
なぜなら、合理性を見いだせなかったら、書けないんです。辻つまがあわないから。そうなると、どうしても意思決定者の非難や否定になってしまうんです。だから、自分もその状況だったら、同じ判断をしていたかもしれないと思えない限り、書けませんでした。
反対に、当事者の考えやロジックに共感できたら、その先にどんな失敗のワナが待ち受けていたのだろうという問いが自然に浮かんできました。すると、「こうやると、こうなっちゃうのか」といった感じで共感の連鎖が次々と得られるようになります。もちろん、僕なんかはそれぞれの事例に登場する当事者とは比較にならないほど小さい存在ですけれど。(笑)
もうひとつ、失敗から学ぶ上で大切なのは、人ではなくて「構造」に着目することです。例えば、今の会社で新規事業を始めたとします。ところが、わずか1年で撤退したという話になった時、「お前何やってんだ」といって人に責任が転嫁されてしまうと、学びにはなりません。そうではなくて、そもそも事業が撤退せざるを得なかった構造を解き明かすという視点を持つべきなんだと思います。
たまたま率いていたのはその人だったけど、田中さんでも鈴木さんでも同じ結果になりえたはず。だから、固有名詞を取り去った上で、事業の構造を解き明かし、それを回避する対策を考えようとなれば、話が具体的になっていくわけですね。
いわゆる、抽象思考と呼ばれる方法ですが、構造で捉えることで、初めて失敗を理解できるし、学びになっていくんです。
その例で言えば、本書で取り上げたネットフリックスの話はすごく面白いと思います。ネットフリックスがちょうど、主力事業をDVDレンタルからストリーミング配信に移行しようというタイミングで、DVDレンタルといった従来事業を「クイックスター」という会社を立ち上げて移管しようとしていたんです。ところが、事業が始まる前に頓挫して、結果的には何もできずに会社を畳むことになってしまいます。
かなり“痛い”失敗例だし、普通の会社ならば黒歴史で終わるんですけれど、ネットフリックスの場合はそうではなかったんですね。創業者であるリード・ヘイスティングス氏らは、なぜ失敗したのかについて真摯に向き合い、社内での対話を通じて、意思決定プロセスに問題があったことを見いだします。そして、ヘイスティングス氏は社内で自分があまりにも尊大になりすぎていたことを理解し、その反省に立って、自社の行動規範の中に「反対意見を募る」という項目を組み込みます。
おそらく、「自分はそんなに偉そうだった?」「誰も何も物を言えない空気だったの?」みたいな議論があって、異論反論を挟むプロセスを意思決定の中に入れることを自ら決めるわけです。この失敗とそこからの学びがセットであることが、今日のネットフリックスの強さにつながっている面はあると思います。
――確かに、普通は失敗には目を背けたくなりますよね。
冷静に考えたら、しんどい話だと思います。会社を潰すほどの大失敗をしているわけですから。普通なら、当事者も含めて絶対に振り返りたくない話ですよね。それでも、ネットフリックスの経営陣は、長い時間軸でこの失敗を捉えたんでしょう。この経験が次の成功につながるという考えがあったと思います。
「勝利の方程式」の定期点検
――そのような、失敗から学べる組織とそうでない組織の違いはどこにあるのですか?
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