なぜ、人間は失敗と向き合うことを避けたがるのか。「それは、短期的な結果に思考が偏りがちだから」と指摘するのは、学びデザインの荒木博行社長。VUCA(ブーカ)とも呼ばれる不確実な時代、失敗を成長につなげる発想の転換が不可欠になる。「失敗から学べる人」の条件とは何か。2021年10月に『世界「失敗」製品図鑑』を上梓(じょうし)した荒木氏に、その要諦を聞いた。

荒木 博行 氏
学びデザイン代表取締役社長
住友商事、グロービス(経営大学院副研究科長)を経て、学びデザインを設立。フライヤーやNewsPicks、NOKIOOなどスタートアップ企業のアドバイザーとして関わるほか、絵本ナビの社外監査役、武蔵野大学で教員なども務める。著書に『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)、『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』シリーズ(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』(日経BP)など多数。Voicy「荒木博行のbook cafe」毎朝放送中。

持ち球が5球要る時代

――企業に失敗はつきものですが、失敗から学べる教訓があるのも、また事実です。

 2021年10月に『世界「失敗」製品図鑑』を刊行しました。グーグルやフェイスブック(現メタ)、ソニー、トヨタなど、グローバル企業の「失敗」事例を分析した本で、大きな狙いとしては、失敗したからこそ得られた学びを共有しようというものがあります。

 例えば、アマゾン・ドット・コムが14年に発売したスマートフォン「Fire Phone(ファイアフォン)」です。カメラで撮影した商品や、音声認識させた音楽や映像を特定し、ウェブページに飛んで瞬時に購入できる機能を備えていました。アマゾンの「世界をすべてショールーム化する」という野望が詰まった、私たちの買い物体験を一変させ得る画期的な製品だったと思います。

 しかし、アマゾンが大きな期待を持って送り出したファイアフォンへのユーザーの反応はいまひとつで、発売から1年ほどで生産中止となってしまいました。これはアマゾンの狙いと、ユーザーがスマホに求めるものとの間にズレがあったためだと思います。

 ユーザーがスマホに求めていたのは、まずは電池の持ち時間や通信料の改善であって、買い物が多少便利になったからといってそこまで魅力的には映らなかったのでしょう。アマゾンは自社の描く輝かしいビジョンに目が行き過ぎて、ユーザー視点への注意がおろそかになっていたと言えます。

 とはいえ、アマゾンはその後すぐにAIアシスタント「Alexa(アレクサ)」を搭載した「Amazon Echo(アマゾンエコー)」を発表します。エコーのその後の成功は言うまでもありません。ファイアフォンとエコーの間に因果関係は描けませんが、失敗にくじけず次々と新規事業を打ち出す姿勢はさすがアマゾンといったところでしょう。

 こうした「失敗」事例からは、規模は違えど私たちが日々向かう仕事にも生かせる教訓や知恵が多く見いだせるはずです。

『世界「失敗」製品図鑑 「攻めた失敗」20例でわかる成功への近道』(日経BP刊)
『世界「失敗」製品図鑑 「攻めた失敗」20例でわかる成功への近道』(日経BP刊)

――では、「失敗」をテーマにした本を出版した理由を教えてください。

 我々の歴史って、失敗を積み重ねてきた歴史だと言い換えることができると思うんです。

 失敗とは何かと言うと、本書にも引用させていただいた畑村洋太郎先生(東京大学名誉教授)の言葉を借りれば、「人間が関わって行うひとつの行為が、はじめに定めた目標を達成できないこと」。すなわち、従前の予想通りにはいかず、想定外の結果に終わった状態のことを指します。

 翻って、今ほど先行きが予想できない時代もありません。新型コロナウイルス感染症の拡大が端的な例ですが、それまで世界がこんなに変わることを予測できた人はほぼいなかったと思います。いわゆるVUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代ともいわれますが、数カ月先の状況がどう変わっているかを正確に言い当てられる人はまずいないでしょう。

 外部環境とは予測できないものであり、それを前提として事業を展開しようと考えた場合、やはり色々な領域にアンテナを張っておくしかないわけです。

 その際、一つの事業計画を練りに練って、一球入魂で資源を投入する方法も、本当に賢い人なら可能かもしれません。でも、やっぱり先が読めない中ではリスクも高く、怖い。万が一その事業計画が外れたら、前書で書いた『世界「倒産」図鑑』(日経BP)行きです。

 それを避けるには、やはり事業の持ち球は5つぐらいあった方がいい。5球投げて、そのうちの1球ぐらいが当たる、そんな世界に我々は生きていると思います。不確実な時代、どんなに頭の切れる人でも、すべてを予想することは不可能です。その中で、会社を継続して成長させていくには、事業を分散することが大事だと思います。

 ただし、5球投げて1球だけ成功するということは、他の4球は失敗なんです。それも、認めなくてはいけない。だから、我々が生きるということは、失敗と常に隣り合わせだということだし、失敗と共に生きていく覚悟が必要だと思います。

――事業を永続するためには、失敗とどう向き合うかは大切な課題になるわけですね。

 ところが、言うは易く、行うは難しで、これが簡単ではありません。「失敗は避けるべきものである」「失敗は表にすべきものではない」など、失敗に対しては組織にも社会にも色々な圧力がかかってきます。

 そうした見えない圧が、失敗と向き合うことを遠ざけてきました。しかし、それでは我々は永遠に失敗から学べないし、失敗に対して賢くなれないでしょう。

大切なのは、時間軸を変えてみること

――「失敗は恥ずべきもの」という雰囲気はなぜ生まれるのでしょうか?

 理由はいくつかあると思いますが、一つは、失敗をどの時間軸で捉えるかという問題があります。

 例えば、本書で紹介した製品・サービスの「失敗」は、私が勝手にそう宣言していますが、当事者からすれば、はなはだ失礼な話だと思うんです(笑)。

 なぜなら、その時間軸を伸ばした途端に、成功の一部であるという話に変わっていくケースも少なくないわけです。実際、本で紹介した多くの事例が、その失敗を糧として、次の製品や事業の成功につながっています。つまり、物事をどの時間軸で捉えるかということが大切なのだと思います。

――失敗も長期の時間軸で見ると、成長の一つの経験や過程になるわけですね。

 そうなんです。一方で、物事を短期で見れば見るほど、失敗だけがフォーカスされがちです。これが、失敗から目をそむけさせる大きな理由になっています。

 例えば、子供が野球の試合で、自分のエラーのせいで負けたとします。長期的には、そうした経験は貴重だし、その失敗を乗り越えていくことが成長につながります。やがて、その子供が試合で勝った時の糧になる可能性がありますから。

 ところが、短期的にその試合だけで子供を評価すると、エラーをしてとても迷惑をかけた選手、という話で終わってしまいます。雰囲気もよくないし、当然誰もそれについて語らなくなるわけですよね。誰もそんな目には遭いたくないですから、短期志向は、失敗と向き合うことを遠ざけていきます。

――ビジネスの世界では、短期的な結果を求める傾向が強まっているようにも感じます。

 それはあると思います。上場企業なら四半期ごとに業績を問われますし、1カ月単位とか、もっと短いスパンで決められたKPI(重要業績評価指標)が達成できているかチェックしている企業は少なくないでしょう。それらを達成しようとすると、当然「失敗しないように」というプレッシャーが組織全体にかかってきます。

 もちろん、短期志向のマネジメントがダメだという話ではなくて、やはりバランスが大事になってくるのだろうと思います。

“失敗”当事者の目に何が映っていたか、想像する

――マネージャーの意識の問題だということですね。

 経営者は、常に長期視点で事業を俯瞰(ふかん)し、失敗した際にそれをどう総括するか、という視点を持つ必要があります。それが、大きな失敗だったとしても「当時は、とても苦しかったけれど、それは現在にこんなふうにつながっている」と振り返られるかどうかです。

 好例が、本書にも登場したファーストリテイリングの柳井正会長兼社長です。『世界「失敗」製品図鑑』では、ファーストリテイリングの野菜事業「SKIP(スキップ)」も取り上げていますが、のちの「ジーユー」ブランド成功につながる、本書でも印象的な失敗事例になっています。

 さて、柳井さんは過去に『一勝九敗』(新潮社)という本を出されました。この本では9敗していることをとても誇らしげに語っています。よく、過去は変えられないと言いますけど、実は自分がその失敗をどう解釈し、どのようなストーリーを語るかで、過去は変えられるんです。

 ただ、だからといって何でも思いっきり失敗していいかと言うと、そうではありません(笑)。ビジネスとしてやる以上は成功のために必要なことをしっかり押さえることも大事です。

――失敗にとらわれ過ぎている人は、少し客観的に見てみることが大事なんですね。

 この本で僕が試みたのは、まさに俯瞰、「メタ」な視点で過去の挑戦を再検証したということなんです。時間軸を長くとることもそうですし、事業を個別ではなくて、会社全体の視点で見直したから、一つの物語として事例を紹介できた面はあります。

 ただし、現在から過去を評価しようとすると、絶対に「後出しじゃんけん」になるんですよ。結果を知った上で、プロセスを見ていくわけですから、いかようにも批評できる。ですから、「ずるい」というそしりからは絶対に免れないんです。僕自身は、それを受け入れた上で、紹介する以上はできるだけ当事者の目線に立つ努力を忘れないように努めました。

 本書で取り上げた事例すべてについて言えますが、「もし、自分がこの渦中に当事者だったら、どう判断したか」と考えると、本当に意思決定は難しくなるんです。世紀の大失敗とみんな言ってるけど、本当に当時、より良い判断ができた人はいるの?という気持ちになります。(笑)

 でも、失敗から学ぶというのは、そうやって当時の立場や目線から、何が映っていたか、そしてどんな選択肢が取り得たのかを想像することだと思うんです。

(構成/ライター・蛯谷敏)


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