キリンホールディングスとファンケルによる化粧品カテゴリーでの共同開発商品が誕生した。「白麹(こうじ)ステロール」を配合した「ビューティブーケ」のリニューアル商品だ。活用したのは、キリンで一度商品化を見送られ、“眠れる技術”となった成分。それがなぜ商品化されたのか。キリンとファンケルの開発担当者に聞いた。
製品共同開発などの相乗効果への期待
キリンホールディングス(以下、キリン)がファンケルと資本業務提携をしてから約2年。2021年10月7日、キリンにとっては異例とも言える「化粧品」での共同開発商品が登場した。共同研究開発原料「白麹ステロール」を配合した、「ビューティブーケ」のリニューアル商品だ。
ビューティブーケはファンケルの「大人の女性」に向けたブランドで、従来品は60代以降のマチュア世代がメインターゲットだった。今回のリニューアルで50代後半からのスキンケアに変更し、全7品目・10品種(税込み価格は1595~5280円)を通信販売と直営店舗で発売した。
キリンとファンケルの資本業務提携については、当初から製品共同開発などの相乗効果への注目度が高く、すでに「キリン×ファンケル BASE(ベース)ピーチ&ザクロ」(20年8月発売で現在は終売)をはじめとする飲料や、ファンケルの体内効率設計と、キリンのプラズマ乳酸菌の素材を生かした機能性表示食品「免疫サポート」(20年12月発売)といった健康系の商品が誕生。両社の特長を生かした商品として、EC(電子商取引)サイトなどでユーザーから高い評価を得ている。
それだけに、初の化粧品への評価も気になるところだ。
技術的、マーケ的に一度商品化を断念
白麹ステロールには、ファンケルとの資本業務提携前からキリンが研究し、一度は商品化のチャンスを逃した「14-DHE(14-デヒドロエルゴステロール)」が活用されているという。11年の入社以来、研究を担当してきたキリンホールディングス R&D本部キリン中央研究所の杉原圭彦氏は「キリンでは美容の受け皿がないので(商品化は)難しいのではないかと思うこともあった」と振り返る。
キリンは「ビールづくりを原点」に飲み物を中心とした「食領域」、医薬品を中心とした「医領域」、疾病予防や身体ケアを目指す「ヘルスサイエンス領域」の3領域で事業を展開。これら事業とともに研究開発を行っている。 R&D本部は主に食領域とヘルスサイエンス領域の研究開発を担う。
「以前からキリンには自由な風土があり、素材研究後、商品にマッチさせていくような、アカデミックな研究も多く見受けられた。13年ごろから社内の技術展示会『シーズニーズフォーラム』で披露し、議論する機会を得たことで、アイデアを具現化しやすい、商品開発に近い研究が進められるようになった」(杉原氏)
14-DHEは、長寿国日本の食に目を向けたことで発見した。
「皮膚は炎症が起きることで肌荒れにつながり、老化の要因となる。一方、日本人は世界的に見て長寿だが、これは日本伝統の味噌や甘酒などの麹を使った発酵食品に、炎症を抑え、老化を防ぐような成分があるのではないかと考え、 過度な炎症を抑える免疫研究としてスタートした」(杉原氏)。その際、医薬ではなく、食品領域での研究を進めたいと考えた杉原氏は、「美肌という観点で研究を進めた」という。その後14-DHEは白麹から最も多く取れることが分かった。
原料としての量産技術策定も進み、15年には30~50歳未満の健常女性計68人を被験者に、14-DHEをサプリメントとして1日0.2ミリグラム、12週間経口摂取してもらう試験を実施し、「肌質改善(美肌)効果が認められた」(杉原氏)という。
成果を基に17年には2件の学会発表を実施し、優秀演題賞を受賞。14-DHEに関する論文2報と特許5件も出願。もはや商品化は目の前かと思いきや、そう甘くはなかった。
当初飲料での発売を考えたが、「技術的なハードルにぶつかった」と杉原氏。14-DHEは脂溶性で水には溶けにくいため、飲料中に安定して溶かし込むことが難しかった。それならグループ企業の協和発酵バイオ(東京・千代田)で美容サプリメントとして商品化すれば……と思うが、そうもいかなかった。「治験をサプリメントで行ったのは当然その狙いもあったが、協和発酵バイオのサプリメント事業において、16年ごろから美容の優先順位が低下した。14-DHE、つまり白麹ステロールは30代、40代をターゲットに美容で訴求することを考えていたため、協和発酵バイオの得意とする層とは言えなくなってしまった」(杉原氏)
アウトプット先をなくした14-DHEの研究はペンディングに。追い打ちをかけるように、杉原氏は論文執筆中に、飲料開発の研究所に異動となる。
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