パナソニックは2021年11月5日に京都・二条城でライトアップイベント「ワントゥーテン 二条城夜会」をスタートした。それに先がけて、同社は11月4日、光によって人の心理や動きを変える「アフォーダンスライティング」の実証実験をプレスに向けて公開した。
「アフォーダンスライティング」とは、光に動きや明暗、色などの変化を加えることで、照明による空間のにぎわい感を演出しながら、人の心理や行動に働きかける照明演出手法のこと。光を動的にコントロールすることで人の動きを誘導する「回遊」や、その場にとどまらせる「滞留」などの効果を発揮するという。
パナソニックが以前行った実験では、人の歩行速度に合わせて進行方向に光が流れる「回遊」の演出で、「光の動く方向に歩きたい」「楽しい」「興味がある」などの項目が一般的な屋外照明よりも高く評価された。また、ゆったりと明るくなったり暗くなったりを繰り返す「滞留」の演出では、「飽きない」「とどまりたい」「心地よい」などの項目が高く評価された。これらの結果、各演出で狙う効果について優位性を確認できたという。
パナソニック ライティング事業部 プロフェッショナル ライティング ビジネスユニット 屋外・調光事業推進部 部長の横井裕氏は、「今回の実証実験では30台以上の器具を導入し、狙った方向へ人を動かす『誘導』の実験を行っている」と語る。
「二股に分かれた道を右側の狭い通路に進んでもらうために、通常はサインや音声誘導を行うが、今回はアフォーダンスライティングの力によって人を誘導するような演出を施している」(横井氏)
今回実証実験を行ったのは「ワントゥーテン 二条城夜会」という“ハレ”の場だが、横井氏は「本来は街のインフラとして活用いただけることを意図している」と語る。
街路灯や公園灯など街のインフラとして利用されている照明は、明るさも色も固定された動きのない光だ。しかし、この効果が実証されれば、光によって人を「回遊」させたり、特定の場所に「滞留」させたり、迷わないように「誘導」したりできるようになる。
街路照明販売事業の30%以上に
同社のアフォーダンスライティング事業では、導入する施設や場所、ライティングの目的に応じて設計からデザイン、導入まで含めたトータルサービスを提供する。
最近は地域経済の活性化や都市型産業の育成、地域コミュニティーの再構築、新たな事業や雇用の創出を目指した官民連携によるまちづくりや、特定公園施設を整備する公募設置管理制度(Park-PFI)など、官民連携事業を促す法整備が進められている。
こうした開発計画では参画する民間施設の収益性が求められるだけでなく、“にぎわい感”を演出したり、来訪者が迷わずにさまざまな施設を訪れたりしやすくなる「回遊性」、滞在時間を長くする「滞留性」などを高める空間設計が重要になる。
現在実証実験を進めているアフォーダンスライティングは、人の心理に働きかけることでこうした作用を生み出すとしており、その効果が今回の実証実験によってさらに明らかになる見込みだ。
同社は25年度までに、アフォーダンスライティング関連事業の製品販売構成比を街路灯照明販売事業の30%以上にまで引き上げたいとしている。
「ご自身の街の風景の中で、そのような照明が増えたらどうなるのかというのを想像しながら体感いただけたらと考えている」と横井氏は語っていた。
今回のアフォーダンスライティングの実証実験は、「回遊」においては少し遊び心がうかがえた。また「誘導」については、シンプルで分かりやすい光の誘導路をつくり出すことで、迷わずに進める印象を受けた。さまざまな照明器具やプログラムを組み合わせれば、演出を抑えた生活に密着したライティングだけでなく、イベントで使うような派手なライティングでもこのアフォーダンスライティングが威力を発揮しそうだ。
アフォーダンスライティングが実際にどのような明かりでどんな効果を生み出すのかは、体感しないと理解しにくい面もあるだろう。ただ今回の実験では、今後の再開発や官民連携のまちづくりといった大型プロジェクトを中心に導入が進みそうな予感を抱かせてくれた。
(写真撮影/安蔵靖志)