秋田の名物駅弁、花善(秋田県大館市)の「鶏めし」が、フランスの国鉄駅構内で販売され始めた。2021年11月5日、JR東日本パリ事務所長とジェトロ(日本貿易振興機構)のパリ所長と並んで、花善の8代目社長、八木橋秀一氏がオープンのテープカットを行った。
場所はパリ・リヨン駅の構内だ。マルセイユ、ニース、リヨンなどや、ブルゴーニュの地方都市、スイス、イタリア、スペイン、モナコといった隣国を結ぶ高速鉄道TGVが発着し、パリ郊外線やメトロが接続するパリの主要駅だ。大きな時計台やネオバロック内装で歴史的建築物の高級レストラン「ル・トラン・ブルー」がある。日本でも知る人がいるだろう。
店名は「EKIBEN ToriMeshi Bento(エキベン・トリメシ・ベントー)」。日本語のままの命名である。フランス語にあえて訳してしまうと“チキンライスのタッパー詰め”。世代によっては“ご飯と鶏肉が詰められた軍隊の飯ごう”を彷彿(ほうふつ)させてしまう。何しろフランス語の弁当箱=他の場所で食べるための食事を入れる容器で、犬のお皿と同じ単語「ガメル(Gamelle)」 が使われるのだ。色とりどりのおかずが並び、胃のみならず目も舌も喜ぶベントーとそれは違う。実際、ベントーはフランス人にとって、目に新鮮で新しい味覚である。
それにパリでは既にベントーという言葉が市民権を持ち始めている。理由は日本食ブームもあるが、新型コロナウイルス感染症の拡大にも起因する。フランスはコロナ対策でレストランが長い間営業禁止だったが、テークアウト販売は許された。夜間外出禁止時もテークアウトの配達は許可されていた。レストランは生き残るためお皿に美しく載るはずの温かな料理をアルミホイルに包んだり、プラスチックや紙の容器に詰め込んだりしてテークアウト販売したが、ベントー屋にとってはまさに我がフィールド。冷めてもおいしい濃いめの味付け、水気を避けた料理……パリにある幾つものベントー屋が、コロナ禍前には想像できなかったような売り上げを記録した。
くしくも駅弁屋である花善は、19年で創業120年を迎えるに当たり18年にフランス現地法人SAS ParisHanazenを設立。19年7月にはパリ市のセーヌ川右岸に路面店「1899ToriMeshi」をオープンした。母体は1899年に秋田の大館駅の誕生と共に駅弁構内販売を始めた駅弁製造会社で、鶏めしは戦後に配給された米、ごぼう、砂糖、しょうゆと地鶏で原型が作られ、1947年に販売を開始した。
2011年の東日本大震災では2日間のみ休業、翌12年に八木橋秀一現社長が跡目を継いだ。世代を超えて愛され、JR東日本主催の駅弁コンクール「駅弁味の陣」では14~17年に連続受賞。過去の受賞駅弁から最高峰を選ぶ「チャンピオンズチャンピオン(10周年記念賞)」は21年10月、11月のネット投票でトップを独走している。テレビ番組やデパートの駅弁大賞も幾つか受賞している。
この記事は会員限定(無料)です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー