ホンダが四輪新車のオンライン販売に乗り出した。2021年10月4日に開設した専用オンラインストア「Honda ON(ホンダオン)」で、まずは新車のサブスクリプション(定額課金)サービスからスタート。スマートフォンからいつでも検討・契約できる。国内自動車メーカー初の取り組みで狙う購入者層とは。

ホンダが四輪新車オンラインストア「Honda ON(ホンダオン)」を2021年10月4日に開設。専用Webサイトで、いつでも検討・契約できる
ホンダが四輪新車オンラインストア「Honda ON(ホンダオン)」を2021年10月4日に開設。専用Webサイトで、いつでも検討・契約できる

スマホで選びそのままオンライン契約

 ホンダが四輪新車オンラインストア「Honda ON(ホンダオン)」を2021年10月4日に開設した。ホンダの乗用車を専用Webサイトで購入できる新しいインターネット販売方法だ。国内自動車メーカーとしては初の取り組みとなる。

 これに先駆け、ホンダコンサルティングから事業内容を変更する形で、四輪新車のオンライン販売事業、シェアードサービス事業、コンサルティング事業を柱とするホンダセールスオペレーションジャパン(埼玉県和光市)を21年4月1日に設立。新たな購入プロセスを提案することで、これまで接点を持ちにくかった新規顧客の獲得を狙う。

 ターゲットは若い世代を中心に、忙しくて来店の時間がない人、商談が苦手な人、購入時間を節約したい人、ネットで得られた情報を基に自分のペースでじっくり検討したい人などが考えられるが、特に「スマートフォンで手続きを完了したいユーザー」に向けて、スマホでクルマが選びやすい環境を構築することに注力している。ポイントは以下の4つ。

(1)選べる車種はコンパクトカー「フィット」、SUV「ヴェゼル」、小型ミニバン「フリード」、軽自動車「N-BOX」(※ただし11月8日現在、N-BOXは好評につき、Honda ONでの取り扱いを終了)
(2)プランは支払金額が分かりやすい、3年もしくは5年のサブスクリプションサービスに限定
(3)価格は、カーナビなどの基本的なオプション費用、自動車税、点検・車検・交換部品などのメンテナンス費用などをすべて含めた月額利用料で設定
(4)専用Webサイトから24時間申し込み可能。スマホでも見やすいユーザーインターフェース(UI)を用意

 例えば3年プランの場合、「N-BOX L(2WD)」で月額3万5410円(税込み、21年10月現在)。「ヴェゼルe:HEV X(2WD)」で月額5万500円(同、21年10月現在)。いずれもボーナス併用なしだ。

車種もプランもシンプルで買いやすく

 ホンダのオンライン販売開始の背景には、コロナ禍による市場環境の変化がある。同社の調査によれば、オンライン販売を希望する層は、19年11月の調査では2.5%だったのに対し、コロナ禍の21年2月の調査では4.3%に増加。検討もしくは契約にオンラインを活用したいと考える層も増えているという。

 すでに海外メーカーではEC(電子商取引)サイトでの自動車販売を行っているブランドがあるが、顧客が来店不要で契約できる場合でも、EC運営会社や金融会社、自動車販売会社(自動車メーカーから仕入れて販売)など、複数の会社が関わるため手続きが複雑だったり、どの会社がどの部分を担当するのか見えにくかったりもする。Honda ONでは仕入れから契約まで関連システムをホンダグループ内に一本化することで、コスト適正化を図り、価格を含め顧客サービスを向上できると同社は説明している。

 Honda ONの最大の特徴は、前述の通り車種もプランもシンプルであることだろう。

 契約時にはまず車種と仕様を厳選。フロアカーペットやドアバイザーなどの必須アイテムは標準パッケージに含まれている。また限定的ながらカーナビ(一部標準化)、ETC、ドライブレコーダーなど人気オプションは選択可能だ。

 月額利用料には、自動車税と自動車重量税、定期的に交換する消耗品代、点検費用などが含まれる。自動車保険は別途契約が必須。買い切りではなくサブスクリプションサービスのため、車両保険を併せた加入が条件で、Honda ONで見積もりも加入もできるようになっている。下取り車がある場合は、買い取り依頼も行える。

 契約の際には、事前審査に申し込み、審査が通ればクレジットカードで申込金3万円を支払う。その後、届いた書類を返送し、契約者の住民票の用意と車庫の確保ができれば手続きは完了。最短約1カ月で、希望したディーラーでクルマを受け取れるという。このディーラーが、その後のメンテナンスなどのアフターサービスを担当することになる。

ホンダの中でも人気の4車種をHonda ONのプラン対象にした(11月8日現在、N-BOXは好評につき、Honda ONでの取り扱いを終了)
ホンダの中でも人気の4車種をHonda ONのプラン対象にした(11月8日現在、N-BOXは好評につき、Honda ONでの取り扱いを終了)

販売店にもインセンティブがある

 ユニークなのは、いつでも中途解約が可能なこと。もちろん、中途解約金が必要となるが、その時点での車両の査定を行うことで、査定額が中途解約金を含めた費用を上回れば、ユーザーに返金する。

 これは人気車、人気仕様を中心に展開している恩恵だ。契約期間終了時には30万円までの傷などの損傷分は免除となるため、小傷による追加の精算金が必要となる可能性も低い。契約期間終了後は買い取りや、契約延長で同じクルマに乗り続けることも可能だが、新車へ乗り換える、あるいは所有をやめることもできる。このように柔軟な対応で契約のハードルを下げているのだ。

 税金やメンテナンスを含む諸々の費用を組み入れたサブスクリプションサービスにしながら、自動車保険はユーザー個々の契約とした点については、個人により合ったプランを用意するためと説明している。クルマの用途や使用する人、乗車歴によって、必要な保険や契約条件は異なるからだ。ただ、クルマを所有していた人は、保険の等級を引き継げるメリットがあるのだが、若年層や初めてクルマを購入する層の場合、保険料の負担が大きくなるというデメリットにもなり得る。

 クルマをホンダディーラーで受け取るのは、販売店、顧客ともに相互に接点が持てるというメリットがある。所有期間の定期点検を同じディーラーで行うのだが、納車時の説明などのサービスは店頭販売時と変わらないという。これはメーカー主体のオンライン販売ならではのシステムでもあり、顧客満足度にもつながるだろう。またディーラー側は定期点検の費用が売り上げになるほか、顧客がHonda ONを利用して契約した場合でも新車に対するインセンティブなどが受けられる。

試乗機会はレンタカーやカーシェア

 現時点の契約形態はサブスクのみで、車種も4つに限定されているが、今後は車種の拡大はもちろんのこと、販売プランも取り入れたい考えだ。また短期利用など、今までと異なるサービスも検討中という。販売エリアについては、スタート時点では、東京地区の84拠点のみだが、22年以降は順次エリアの拡大を予定している。

 近年では新車購入時のディーラー来店回数と商談時間は、大幅に縮小傾向にあり、高額な買い物ながらできるだけ簡潔に購入したいと考える顧客が多い現状が販売店などから漏れ聞こえてくる。そのため、価格面で納得できれば、商談を省けるオンラインで購入を検討する人も増えるかもしれない。

 ただし、顧客と店舗の結びつきが薄れ、リピート客の確保につがらない可能性もある。また顧客側は、クルマ選びのプロから直接情報を得る機会が減り、情報の偏りや誤解などが生じる懸念もある。

 Honda ONでは試乗機会としてホンダのレンタカー・カーシェアサービスである「EveryGo」を提案しているものの、費用が自己負担な上、身近に希望する車種があるとも限らないなど課題もある。とはいえ、国内の新車販売は減少傾向にあるため、接点を拡大し少しでも新車販売の機会につなげたいのだろう。地方では都内ほど販売店がないため、重宝される可能性も秘めている。

 このサービスが将来につながるかは、Honda ON利用者の反響にかかっているとも言える。トヨタのサブスクサービス「KINTO」も評価が様々ある中で、ホンダならではの魅力とサービスがどれだけ用意できるかが重要だろう。

現時点の契約形態はサブスクのみで、車種も4つに限定。今後の車種拡大、販売プラン拡大に期待がかかる
現時点の契約形態はサブスクのみで、車種も4つに限定。今後の車種拡大、販売プラン拡大に期待がかかる
4
この記事をいいね!する