「東京ゲームショウ2021 オンライン」(TGS2021 ONLINE)は、番組配信を中心としたオンラインと、幕張メッセでのリアル会場展示を並行して開催した、いわばハイブリッド方式のイベントとなった。長年ゲームショウを取材しているゲームライターがその意義を振り返る。本稿は野安ゆきお。「2年ぶりにリアル展示があったからこその新鮮な驚きを感じた半面、オンライン主体の反省点も見えてきた」と言う。

2年ぶりに現場取材が可能に。各社の意気込みを肌で感じられたのはうれしい限り(写真/志田彩香)
2年ぶりに現場取材が可能に。各社の意気込みを肌で感じられたのはうれしい限り(写真/志田彩香)
[画像のクリックで拡大表示]

 2021年9月30日~10月3日に開催されたTGS2021 ONLINE。オンライン会場を中心に据えつつ、幕張メッセで小規模ながらオフライン会場でのリアル展示が行われたことを、まずは心から喜びたい。

 今、ゲームユーザーの間では興味の“タコツボ化”が起きつつある。コロナ禍で、自宅で過ごす時間が長くなった。20年9月の「東京ゲームショウ2020 オンライン」(TGS2020 ONLINE)は完全オンラインイベントになった。TGSは会場を訪れ、さまざまなメーカーのブースを歩き回るだけでも幅広いゲームタイトルに出合うことができる貴重な場だ。それが失われた今、ゲームファンの多くはネットを介して好きなメーカーの情報をチェックするようになっている。いざプレーしてみれば面白く、ハマるかもしれないゲームがあっても、それが興味の範囲外のメーカーから発表されていれば気づくチャンスは少ない。興味はあるのに、それが閉じて広がらない。これが興味のタコツボ化である。

 しかし21年、TGS2021 ONLINEではオフライン会場でのリアル展示が復活した。残念ながら、入場はメディアとインフルエンサーに限定されたものの、現場でお目当てのメーカーのブースをまずは体験し、その後、ふと目にとまったブースに立ち寄って新しい発見をすることが可能になった。出合いの場としての東京ゲームショウが復活したのである。

来場はメディアとインフルエンサーに限られたものの、出合いの場としての東京ゲームショウが戻ってきた(写真/野安ゆきお)
来場はメディアとインフルエンサーに限られたものの、出合いの場としての東京ゲームショウが戻ってきた(写真/野安ゆきお)
[画像のクリックで拡大表示]

 そんな視点で見るならば、TGS2021 ONLINEで最も話題をさらったのは家具メーカー・イケアのブースだったと言えるだろう。5000円を切る破格の安さのゲーミングチェアをはじめ、安価にゲームプレー空間をつくるための家具を複数展示。取材陣の多くが、取材目的のゲームタイトルを一通り試遊した後、イケアブースに立ち寄り、その価格設定に驚いたり、実際に触れてみたりしていた。

 そんな驚きがあっただけでも、TGS2021 ONLINEで小規模ながらリアル展示が行われた価値はあったと筆者は考えている。22年はぜひとも一般入場者が来場できるイベントとして復活し、たくさんの出合いと驚きが生まれる場になることを期待したい。

イケアブースは、破格の安さのゲーミング家具をひと目見ようと人が集まった。完全オンライン開催だったら、おそらく注目されることはなかったはず(写真/志田彩香)
イケアブースは、破格の安さのゲーミング家具をひと目見ようと人が集まった。完全オンライン開催だったら、おそらく注目されることはなかったはず(写真/志田彩香)
[画像のクリックで拡大表示]

オンラインで“安全運転”タイトル主体に

 では、TGS2021 ONLINEの内容はどうだったのか。会期中に発表された新作ゲームタイトルは、全体的に“安全運転”なものが多かったと評価できそうだ。各社ともに、シリーズ物の続編など、すでに知られているタイトルを大きく打ち出していた。

 これは、TGS2021 ONLINEがオンラインでの情報発信が中心となるイベントであり、各社とも番組を熱心にチェックするユーザーの期待に応えられるよう、すでに知られているタイトルを中心にしたラインアップにしたためだろう。裏を返せば、斬新な新規タイトルを出展しても注目してもらえない可能性が高いとみて、冒険的なタイトルの出展を回避したのかもしれない。

 また、20年が完全オンライン開催だったためか、TGS2021 ONLINEに20年発売のタイトルを出展するメーカーもあった。本来ならば、20年に大々的にアピールするはずだったタイトルであり、コロナ禍による“失われた1年”を取り戻そうとするかのようにも見えた。

 既知のタイトルやシリーズ作が主体の出展となっていたため、情報面でやや物足りない面があったことは否めない。だが同時に、21年以降のゲーム業界が面白いものになりそうだという期待を感じさせるものでもある。一般入場者が来場できるイベントが再開されれば、誰も注目していなかったタイトルがひっそりと出展され、それが話題になっていくダイナミズムが戻ってくる。

 もし新型コロナウイルス感染症の流行がある程度収束し、TGS2022でオフライン会場が本格的に復活できれば、2年にわたって各社が密かに開発し、好評のタイミングを探っていた「いざプレーすれば楽しめる新規タイトル」が一気に放出されるのではないかと期待している。

キッズ向けのアピールは不足気味

 完全オンラインになったTGS2020 ONLINEを経て、小規模とはいえコロナ禍下でのオフライン展示を復活させたTGS2021 ONLINE。ハイブリッド最初の年の結果としては評価したい。ただ、最後にちょっとだけ、苦言も呈しておこう。それは、TGS2021 ONLINEにキッズ向けのコンテンツが少なかったことだ。

 世界にはさまざまなゲームイベント、ゲーム展示会があるが、TGSほど幅広い入場者が訪れるものは稀有(けう)である。小さな子供を連れたファミリー層が当たり前のように訪れることは、かねてよりTGSの特徴の1つだった。

 このため、例年はキッズ向けの企画が充実していた。中学生以下とその同伴保護者だけが入場できるエリア「ファミリーゲームパーク」が設けられ、未就学児を含むキッズたちがきらきらした目でいろいろなゲームに夢中になっている光景を見ることができた。キッズだけのeスポーツ大会やゲーム実況体験会、キッズのためのゲームプログラミング教室なども行われ、キッズたちを心から楽しませていた。

東京ゲームショウ定番の「ファミリーゲームパーク」ではキッズたちがゲームを心から楽しんでいた(写真/野安ゆきお)
東京ゲームショウ定番の「ファミリーゲームパーク」ではキッズたちがゲームを心から楽しんでいた(写真/野安ゆきお)
[画像のクリックで拡大表示]

 しかし、TGS2021 ONLINEはオンライン主体ということもあって、キッズ層へのアピールが大きく不足していたように思う。ここは各社が相乗りで「キッズ向けの情報だけを配信する公式番組」のようなものを、もっとつくるべきだったのではないだろうか。

 次世代のファンが生まれない市場に未来はない。22年以降のTGSの反省材料にしてほしいところだ。