2021年10月3日に閉幕した「東京ゲームショウ2021 オンライン」(TGS2021 ONLINE)はコロナ禍で2年連続のオンライン開催となったが、本年は幕張メッセにメディアとインフルエンサー限定でオフライン会場(リアルな展示会場)を設置、VR(仮想現実)会場を用意するなど新たな取り組みもあった。長年ゲームショウを取材しているゲームライターがその意義を振り返る。初回は岡安学。

メディアとインフルエンサー向けのオフライン会場もあったが、例年よりははるかに小規模だった(写真/志田彩香)
メディアとインフルエンサー向けのオフライン会場もあったが、例年よりははるかに小規模だった(写真/志田彩香)

 TGS2021 ONLINEが閉幕した。昨年のTGS2020 ONLINEに続き、本年も公式番組などの動画配信を中心としたオンライン開催となった。オンライン会場には351の企業・団体が出展。TGSのYouTube公式チャンネルやTwitter公式アカウント、ニコニコ、SteamのTGS特設ページなどのほか、中国向けにはDouYu、bilibili、Douyin、Xigua、Toutiao、HUYAといった動画メディア、欧米向けにはゲームメディアの「IGN」と連携し、出展社と主催者が46の公式番組を配信。一部の番組は、中国語の同時通訳付きや多言語字幕付きなども用意した結果、総視聴数は20年の3160万回を上回る3947万回になったという(期間:9月30日~10月11日)。

多くのメーカーが独自番組を強化

 筆者はオフライン会場を主に取材したため、公式番組などはほぼ視聴できていない。このため、個々の番組内容について触れることはやめておく。プログラムを見る限りでは、20年と違って空き時間がかなりあり、多くのパブリッシャーやデベロッパーが、TGS公式の動画番組の配信に価値を見いだせなかったように思われる。TGSの会期に各メーカーが独自に配信しているチャンネルはコンテンツの量も配信時間も長く、力の入れようの違いが見て取れた。

公式番組は日時ごとの番組表にのっとって配信された。仕事や学校がある平日の昼間は空き時間も
公式番組は日時ごとの番組表にのっとって配信された。仕事や学校がある平日の昼間は空き時間も

 さまざまなメーカーがブースを設けるオフラインでの開催の場合、来場者は会場を訪れ、ブースを回ることで、好きなタイトル、ゲームメーカーを追いかけているだけでは得られない情報を得ることができる。メーカーにとっても新規顧客に対するアピールの場としての価値がある。

 それに対して、オンラインの場合は、公式番組を4日間流しで見る人はそうそうおらず、好きなタイトルやメーカーの番組を選んで見ることになるだろう。幅広く情報を発信、収集できるオフラインのような価値を見いだしにくく、メーカーが個別のチャンネルに注力するのも仕方がないことだ。

 そういった意味で、今後、TGSは日時ごとの番組表にのっとって公式番組を配信する方式ではなく、各メーカーが配信する動画を横断的に検索できるポータル的な存在となり、各社の動画を周遊できる構成にするのも一つの道かもしれない。各社のチャンネルから視聴したい番組をチェックしておき、自分なりのタイムスケジュールを組める録画予約のような機能もあれば、さらに視聴もはかどることだろう。

VRや無料トライアルは及第点だが

 昨年のTGS2020 ONLINEとの違いと言えば、来場できない一般向けに、番組配信以外にもリモートから楽しめる企画を盛り込んだことだろう。

 「TOKYO GAME SHOW VR 2021」と題したバーチャル会場には、各メーカーのブースを用意。VRヘッドセット「Oculus Quest」のほか、パソコンやスマートフォンでも体験できるというものだ。

「TOKYO GAME SHOW VR 2021」。GAME FLOAT会場メインホールの様子
「TOKYO GAME SHOW VR 2021」。GAME FLOAT会場メインホールの様子

 仮想空間は環状の会場で、周遊することでさまざまなメーカーのブースに立ち寄れるのはいいアイデアだった。ブースの建物も立体的で、場所によっては階上に上れたり、宝探しができるなどのギミックもあった。初めての試みとしては及第点といえる。

 一方で物足りなかったのは各ブースのコンテンツが配信動画メインだったこと。オフライン会場にいるコンパニオンや説明員のように、ブースや出展タイトルの説明をしてくれるアバターがいれば、より参加感が増したと思う。展示されているキャラクターもほとんどがオブジェで動かなかったのも残念な点。動いていたキャラクターは、バンダイナムコゲームスのパックマンくらいだった。

 また、体験版の無料トライアルも新しい試み。TGSといえば、ゲームを試遊できることが楽しみの一つ。家にいながら、並ぶこともなく最新ゲームを試遊できるようになったことは喜ばしいことだ。ただ、今回の試遊タイトルの大半は発売済みのもの。今後発売予定のタイトルの先取りプレーができた従来のTGSとはイメージがまったく異なる。多くの人が期待していたのは、『スプラトゥーン2』が行った期間限定のお試しプレーのようなものだろう。体験版無料トライアルを導入したのは一歩前進だが、まだまだ改善の余地はある。

リアル復活で“ゲームショウ感”は期待以上

 上記を踏まえてTGS2021 ONLINEを総括してみよう。結論として、オンライン会場にはオンラインならではの機能を入れつつも、やはりオフライン会場を復活させたことを評価したい。

 規模は小さいながら、出展社はブースにそれぞれの趣向を凝らしており、TGSを開催しているという感覚は十分にあった。正直、開催前はパーティションで区切られた各社ブースに、モニター数台が置いてあり、そこで新作ゲームのプレーができる程度の寂しいものになることも覚悟していた。それが実際訪れてみると、小さいながらもそれは“東京ゲームショウ”だったのである。

 KONAMIブースは光るメーカーロゴの看板を掲げ、コンパニオンも配置。カプコンは『モンスターハンターライズ』の「オトモガルク」の実物大オブジェを用意した。セガ・アトラスブースの『LOST JUDGMENT 裁かれざる記憶』のコーナーは、八神探偵事務所を再現しており、どこも東京ゲームショウの雰囲気を醸し出していた。

『LOST JUDGMENT 裁かれざる記憶』の試遊コーナーは、ゲーム中の八神探偵事務所に模した作りだった(写真/酒井康治)
『LOST JUDGMENT 裁かれざる記憶』の試遊コーナーは、ゲーム中の八神探偵事務所に模した作りだった(写真/酒井康治)

 取材するメディアやインフルエンサーの数を絞っていたこともあり、どのブースも丁寧に対応し、試遊の時間もしっかり取ってくれた。試遊した後にはさまざまなノベルティーなどのグッズもいただけたが、これも数を絞った分、コストをかけられたのではないかと感じた。

 VRや体験版無料トライアルと並ぶ一般向け企画として、吉本興業所属のお笑い芸人とTGSブースを巡る「オンライン体験ツアー」も行っていたが、これもオフライン会場があってのこと。会場に行かなくても、会場の様子がよく分かり、芸人と一緒に回っている雰囲気が味わえるところも好評だったと聞く。来場こそできなかったものの、一般のゲームユーザーにとってもオフライン会場はTGSを楽しむ上で重要な要素なのだろう。

ゲーム好き芸人のマヂカルラブリーによる「オンライン体験ツアー」の様子(写真/志田彩香)
ゲーム好き芸人のマヂカルラブリーによる「オンライン体験ツアー」の様子(写真/志田彩香)

 会場では、出展社、来場者の多くが「やはりオフライン、リアルの会場でやるのは良い」と口をそろえており、そのことにはまったく異論はない。誰もが熱望するリアルでの開催がごく一部とはいえ、開催できたのは大きな成果と言える。

 初日の9月30日と2日目の10月1日に訪問した限りでは、来場したメディアやインフルエンサーの数が予想より少なかったように思うが、先述の通り、筆者自身、来場するまでは期待感が薄かったわけで、参加を見合わせたメディアやインフルエンサーもいたかもしれない。あるいは、2日目に勢力の大きい台風が関東地方に接近した影響もあるかもしれない。だが、もし来年もオンラインとオフラインのハイブリッド開催になった場合は、ぜひ今年の参加者の評判を参考に来場者が増えてくれることを期待したい。

 どのみちコロナ禍以前からTGSは過渡期にある。ゲームの見本市としてのもともとの立ち位置から昇華し、今では物販、コスプレ会場、eスポーツ観戦、ライブ観戦、子供に向けたファミリーコーナーと、ゲームに関わるあらゆることを包含する祭典になった。そして、それらはオフラインでこそ魅力を発するものなので、やはり本格開催は待ち遠しい。

 だからといって、オンラインを否定するものではない。遠方だったり多忙だったりしてオフライン会場に来場できない人にとって、オンラインの充実は朗報だ。来年以降、本格的にオフラインでTGSを開催可能になったとしても、これまで以上に充実したオンライン会場は必要となってくる。そういう意味で、今年の企画は及第点といえどもまだまだと言わざるを得ない。

 オンライン、オフライン両面で、参加する出展社にとっても、視聴し、体験するユーザーにとっても魅力あるイベントになることを、来年のTGSには期待したい。

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