弁当などの中食事業を展開する「塚田農場プラス」が2021年9月14日、新業態のタルタルソース専門店「ツカダファーム タルタルファクトリー」(以下、「タルタルファクトリー」)をオープンした。長引くコロナ禍で弁当市場の競争が激化する中、タルタルソースに着眼した理由など、塚田農場プラスの森尾太一社長に聞いた。

ポップアップストア「ツカダファーム タルタルファクトリー」(JR 大宮駅構内、2階中央改札・南改札内)は2022年3月31日までの出店予定
ポップアップストア「ツカダファーム タルタルファクトリー」(JR 大宮駅構内、2階中央改札・南改札内)は2022年3月31日までの出店予定

お弁当ではなくタルタルソース専門店

 「塚田農場プラス」は「塚田農場」を運営するエー・ピーホールディングスのグループ会社。かつては「おべんとラボ」という名で同社の宅配弁当事業を担っていたが、2014年7月に法人化し、15年7月に「塚田農場プラス」を設立した。現在、品川駅構内のエキュート品川 サウス店など、エキナカを中心に7店舗を展開。法人向け宅配弁当事業との両輪で、展開している。

 「タルタルソースをおうちで楽しく自由に」をコンセプトとする「タルタルファクトリー」がオープンしたのは、エキュート大宮のテークアウト用フードが集まったエリア「food theater」ゾーン。エキュート大宮に出店したのは都内のハブ駅とそん色ない乗降客数で、フードの売上高もトップクラスであることが大きいという。JR東日本の発表によれば、20年度の1日の駅別乗車人員は、品川駅が約22万人(前年比41.5%減)に対し、大宮駅は約19万人(前年比26.7%減)。コロナ禍での生活様式の変化や外出自粛などの影響を受けてかなり減ってはいるものの、1日の駅別乗車人員ベスト6位と7位の大型駅なのは間違いない。

 「品川駅は出張客、旅行客も多く利用するが、大宮駅は乗り換えによる在住者がより多く利用しており、デパ地下感覚で通勤帰りに買い物をする人が多い」(塚田農場プラスの森尾太一社長)

 タルタルファクトリーの店舗の中央には、スイーツ店のようにカラフルな容器に入ったタルタルソースが華やかに8種類並んでいる。その両側を固めているのは、タルタルソースと相性のいいフライや唐揚げなどのお総菜、そして「Inter BEE(国際放送機器展)」の「ロケ弁グランプリ」をはじめ、様々な弁当大賞・弁当グランプリで受賞歴を持つ弁当の数々だ。

店舗中央には、8種類のカラフルなタルタルソースが並んでいる。サイズは50g入り(160円、税込み、以下同)と100g入り(300円)の2種類
店舗中央には、8種類のカラフルなタルタルソースが並んでいる。サイズは50g入り(160円、税込み、以下同)と100g入り(300円)の2種類
全種類入りの「50g 8種全部味くらべ」(1200円)。ほかに8種類の味から選ぶ「50g 3種味くらべ」(450円)、「50g 6種味くらべ」(900円)、「100g 2種味くらべ」(580円)などがある
全種類入りの「50g 8種全部味くらべ」(1200円)。ほかに8種類の味から選ぶ「50g 3種味くらべ」(450円)、「50g 6種味くらべ」(900円)、「100g 2種味くらべ」(580円)などがある
タルタルソースを使ったお弁当やお総菜パックなどを提供
タルタルソースを使ったお弁当やお総菜パックなどを提供

「別売りして」という声がきっかけ

 同社では現在、二十数種類の弁当を販売しているが、おべんとラボとしてスタートした当時からの一番人気は「絶品!塚だまタルタル若鶏のチキン南蛮弁当」だ。特にタルタルソースのファンが多く、タルタルソース目当てでリピートする人や、「タルタルソースだけ別売りしてほしい」という声も当初からかなりあった。このため「タルタルソースをキラーコンテンツとした商品や業態は、以前から検討していた」(森尾社長)という。

「Inter BEE ロケ弁グランプリ」「総菜・べんとうグランプリ」金賞受賞など、人気が高い「絶品!塚だまタルタル若鶏のチキン南蛮弁当」(860円)
「Inter BEE ロケ弁グランプリ」「総菜・べんとうグランプリ」金賞受賞など、人気が高い「絶品!塚だまタルタル若鶏のチキン南蛮弁当」(860円)

 単純に商品としてタルタルソースだけを作ってスーパーの棚に並べることも考えた。だがタルタルソース自体は万人受けするソースであっても、用途は限定的であり、家庭に常備されて日常的に使われている定番調味料とはいえない。また他社のタルタルソースと同じ棚に並べられ、勝負をしても厳しいと考えた。

タルタルソースだけを売るのではない

 そこでタルタルソースそのものを訴求するのではなく、新たな使い方や楽しみ方、タルタルソースの体験価値を含めた訴求が必要と考えた。プレーンのタルタルソースの味をしっかり作り込んでいるため、アレンジしてもおいしいものができると確信しており、商品開発ではあまり苦労しなかった。むしろ新しい使用シーンを創造する売り方が、課題となった。

 商品開発と並行でコンセプトメークをしながらチャンスをうかがっていたところ、コロナ禍で、売り上げの約半分を占めていた法人向け宅配弁当の需要が激減。そこで新たな挑戦を決意した。

 様々なデベロッパーに「タルタルソースの新業態を温めている」という話をする中で、JRグループが新しい味に出合う場所として展開する「コレもう食べた?」という、全国のスイーツ店や総菜店などが期間限定で出店する催事場への参加オファーが舞い込んだ。そこで「コレもう食べた? 高円寺」で2週間出店。併せて50人ほどのモニター調査を行い、そこで出た意見をエキュート大宮店に反映させた。

 主なターゲットは、食に関する感度がある程度高い主婦層。エキナカの立地なのでスーパーよりも単価が少し高いからだ。食卓を手軽かつ豪華に彩りたいファミリー層や、共働きで料理を担う女性、あるいは自炊はしていてもあまり手をかけたくない単身者にも、既製品にひと味加えられるタルタルソースはニーズがあると見ている。

タルタルの味変体験セットを販売

 とはいえまだ、「タルタルソースは揚げ物以外にもいろいろ使える」という感覚を持っている顧客は少ない。アレンジを提案するリーフレットも用意しているが、それを実行してもらって浸透させるには時間がかかる。そこで、スピーディーに新しい使用シーンをイメージしてもらうために販売を開始したのが、1つの総菜に、相性のいい2種類のタルタルソースを付けた「味くらべ」パックだ。「ある意味やや強制的に(笑)、タルタルの味変を体験してもらうのが狙い」(森尾社長)

「タルタル2種味くらべ 若鶏のチキン南蛮5個入り」(540円)は、「プレーン」「岩下の新生姜」のタルタルソース入り
「タルタル2種味くらべ 若鶏のチキン南蛮5個入り」(540円)は、「プレーン」「岩下の新生姜」のタルタルソース入り
各総菜に、相性のいいタルタルソース2種が表示され、セットで購入できる
各総菜に、相性のいいタルタルソース2種が表示され、セットで購入できる
タルタルソース8種の紹介(表は同社プレスリリースを基に編集部で作成)
タルタルソース8種の紹介(表は同社プレスリリースを基に編集部で作成)
様々なアレンジを提案するリーフレットを店頭に置いている(画像はリーフレットより一部抜粋)
様々なアレンジを提案するリーフレットを店頭に置いている(画像はリーフレットより一部抜粋)

 こうした戦略が功を奏し、オープン当初は弁当や総菜の売れ行きのほうがよかったが、日がたつにつれタルタルソースを単体で求める客が増えてきているという。タルタルソースは50g各種(税込み160円)、100g 各種(同300円)、50g 3種味くらべ(同450円)、50g 6種味くらべ(同900円)、50g 8種全部味くらべ(同1200円)、100g 2種味くらべ(同580円)で販売しており、最初は50gを1パックだけを買い求める客が多かった。しかし21年9月末時点では50gの3種類パックが人気で、味は「プレーン」「明太子」「バジルトマト」が売れているという。

 マーケティングではロケ弁での人気の高さに期待を寄せる。「タレントにもいまだにSNSでも取り上げていただいており、タルタルの新しい味が出たと知ってもらえれば、テレビなどにも露出しやすいのではないか。そこから火が付けば少しずつ認知が広められ、多店舗展開にもプラスに働くのではないかと考えている」(森尾社長)

中食で塚田農場を思い出してほしい

 これまでの塚田農場プラスの業態は販売のみで、商品は工場のある東京都江東区の新木場から搬送しており、23区内、それもコンビニやスーパーなどではなく、ターミナル駅や新幹線の駅などにしか出店していなかった。しかし「タルタルファクトリー」はキッチン併設なので、小さくても駅ビルがあり、デパ地下のような食品ゾーンがある立地であれば、郊外でも出店できる。

 「そういう意味では今回の業態にしたことで、出店できるロケーションが広がるのではないかと考えている。エキュート大宮店がうまくいけば、出店可能な駅や駅ビルは、10カ所ほどイメージできている」(森尾社長)

 本業である塚田農場は20年4月、他店に先駆けて全店休業を決断し、長期にわたり休業状態が続いた。営業自粛を解除しても、客足や売り上げが元に戻るには時間がかかると森尾社長は見ている。

 「9割5分の店を閉めていても、中食事業で塚田農場を毎日必ず誰かに思い出してもらえるように、われわれもグループ会社の1つとして支えていけるところはしっかり支えていければと思っている。今後は1つでも多くのデベロッパーさんに求められるブランドに育てていくことが、当面の目標だ」(森尾社長)

(写真撮影/桑原恵美子)

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