徳島大学発のベンチャー企業グリラスが2021年9月29日、粉末コオロギを使用したカレーとパンを発売した。自社ブランド「C. TRIA(シートリア)」の商品としてこれまでクッキーやクランチを販売していたが、主食・主菜に拡大。飢餓問題と食品ロスの解消への取り組みを強化する。

コオロギ商品を展開するグリラス
コオロギ商品を展開するグリラス
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コオロギパウダー入りカレーの味は…

 カレーは、宝食品と共同で開発した。「トマト」(税込み690円)、「グリーンカレー」(同780円)、「イカスミ」(同870円)の3種類をそろえる。コオロギの香ばしさやうま味が「トマトの酸味・ココナツのまろやかさ・イカスミのコクの深み」を引き立てるという。

 トマトカレーの封を切ると、赤みがかった茶色のルーに、代替肉の大豆ミートが具材として入っている。味は酸味と甘味が強く、癖のあるコオロギの苦味や香ばしさは感じない。コオロギパウダー入りという前情報があっても、コクのあるおいしいトマトカレーに感じた。

宝食品と共同で開発された、コオロギパウダー入りのレトルトカレー。配送料は全国一律無料
宝食品と共同で開発された、コオロギパウダー入りのレトルトカレー。配送料は全国一律無料
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 パンは、「くるみチーズ」「高菜フランス」「ごぼうフランス」など6種類。各種1個ずつ入った6個セットで、税込み2490円だ。焼成済みなので、温め直せばいつでも焼きたてのおいしさを堪能できるという。いずれも自社ECサイトで販売する。

パンフォーユーと連携して開発された冷凍パン。配送料は800~1500円。1カ月以上、冷凍保存ができる
パンフォーユーと連携して開発された冷凍パン。配送料は800~1500円。1カ月以上、冷凍保存ができる
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コオロギに着目した3つの理由

 原材料となるコオロギ育成から、製品開発・販売までを行うグリラスは、19年5月に設立。会社としての歴史は浅いものの、1992年から徳島大学でコオロギ研究を行い、その結果をもとに活動の幅を広げている。

 2020年3月には、良品計画が展開する無印良品と業務提携し、ヒット作となった「コオロギせんべい」の原材料を提供。同年5月には、トヨタグループのジェイテクトと業務提携し、コオロギの自動飼育システム実用化を推進。大量生産を実現した。21年6月には自社ブランドのシートリアを設立し、クッキーとチョコクランチを販売。今回の新商品は、主食・主菜としては初のコオロギ商品となる。

 同社はコオロギを通して、「世界的な動物性タンパク質の不足」と「日本を含む先進国で問題視されているフードロス」の解決を目指す。サステナブルな社会の実現のために、コオロギが必要だと考えている。

 コオロギに注力するのは、「高タンパク」「育成するのに環境負荷が低い」「餌の制限が少ない」という、コオロギの3つの特性があるからだ。

 コオロギは全体の60%ほどがタンパク質で構成されており、ほかの家畜に比べてタンパク質含有量が高い。そのうえ、牛や豚・鶏などに比べて、同量のタンパク質を生成するのに必要な餌や水の量が圧倒的に少なく、環境負荷を抑えて育成することができるという。さらにコオロギは雑食性で餌の制限が少ないため、他に食用されている昆虫の中でも飼育が簡単だそうだ。

家畜に比べてコオロギは、育成に必要な餌や水の量、排出する温暖化ガスの量が少ない(出所/グリラスのWebサイト)
家畜に比べてコオロギは、育成に必要な餌や水の量、排出する温暖化ガスの量が少ない(出所/グリラスのWebサイト)
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コオロギは雑食で、他の食用の昆虫に比べて育成しやすい(出所/グラリスのWebサイト)
コオロギは雑食で、他の食用の昆虫に比べて育成しやすい(出所/グリラスのWebサイト)
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 柔軟に飼育できるコオロギの特性を生かし、グリラスはフードロス問題解消にもコオロギを使用している。フスマ(小麦の生産過程で出る農業残さ)や、農作物を絞ったり削ったりと加工した際に発生する加工残さをコオロギの餌に利用。21年夏頃からは、食品廃棄物だけでコオロギの養殖を可能にした。

 さらに、コオロギのフンも農作物を育てる飼料へと変換する。「コオロギの餌」を食品廃棄物でまかない、「コオロギのフン」を農作物の飼料に利用することで、コオロギを通した循環型の生産体制の構築を実現する。

コオロギだからこそ実現できた循環型の生産体制
コオロギだからこそ実現できた循環型の生産体制(出所/グリラスのWebサイト)
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 今後、世界では急激な人口増(直近30年で20億人ほど増加)にともない、深刻な動物性タンパク質の不足が懸念されている。一方、世界の先進国を中心に年間約13億トンの食品ロスも排出されている。グリラスの渡邉崇人社長は、この相反した問題に、コオロギを通して取り組んでいくと意気込む。

 「我々のミッションは、環境に優しいタンパク質を供給し、かつ食品ロスを解消することです。コオロギによって持続可能なフードサイクルを構築して、すべての人に良質なタンパク質を届けることを我々実現してきたい」(渡邉社長)

グリラス代表取締役の渡邉崇人氏
グリラスの渡邉崇人社長
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 フードロスや環境負荷の軽減、タンパク質不足の解消など、グリラスが開発したコオロギ食品が多くの人に食されるほど、サステナブルな社会が実現されていくわけだ。

国内全体の食品ロス10%削減を目指して

 ただし、こうしたサステナブルな社会に貢献する食品は、コオロギ商品に限らず消費者に浸透しづらい面がある。

 主な要因としては、「手間がかかるため高価格」「商品のストーリーや付加価値が伝わりづらい」「一企業の活動や発言では社会への影響力が小さい」ことだと渡邉社長は分析する。

 こうした課題を乗り越えるため、21年9月29日に渡邉社長を代表に据えた「サーキュラーフード推進ワーキングチーム」が発足した。サーキュラーフードとは、グリラスが展開するコオロギ商品のように、食品廃棄物を主要原料として、環境負荷の低減を目指して生産された食材や食品を指す。ワーキングチームには、サーキュラーフードを製造・販売するスタートアップなどが参加している。

 参加企業からは「個々の企業でできることは非常に限られている」という声が多くあがった。業種の垣根を超えて、業界全体で情報や技術を共有できるメリットは参加企業にとって大きい。

 食品廃棄物を利用した商品を製造・販売するスタートアップが提携すれば、数多くのサーキュラーフードが市場に流通する。そうすれば、自然と消費者に商品ストーリーや付加価値も浸透し、手にとってもらいやすくなる。販売量が増えれば大ロット生産へ移行でき、製品の値段も下がる。チームがうまく機能すれば、全体として好循環となるわけだ。

 ワーキングチームでの大きな目標としては、40年までに、年間253万トン(19年に日本国内で発生した約2531万トンの食糧廃棄物等の1割分)の食品ロスの活用・循環を掲げた。ちなみに、今回シートリアから発売した新商品の食品ロス削減量は、パン1個あたり約10グラム、カレーは味により異なるが14~72グラムだ。

 自社での研究活動とワーキングチームでの取り組みで、世界的な食料不足とフードロス問題解決に力を入れていくグリラス。目標は大きいが、着実な第一歩を踏み出した。

(写真提供/グリラス)