eスポーツチーム「REJECT」がアパレルブランドを立ち上げた。ファッションブランド「ALMOSTBLACK(オールモストブラック)」の中嶋峻太氏がディレクターを務め、選手が着るユニホームやTシャツなどを応援グッズとして販売するファンビジネスを超えた新事業として展開する。eスポーツチームとファッションブランドとのコラボレーションではなく、デザイナーを独自ブランドに迎えての本格参入はeスポーツ分野でもレアなケース。その狙いを、同チームの甲山翔也オーナーと中嶋氏に聞いた。

eスポーツチーム「REJECT」は中嶋峻太氏(一番左)をディレクターに迎え、アパレルブランドを立ち上げた
eスポーツチーム「REJECT」は中嶋峻太氏(一番左)をディレクターに迎え、アパレルブランドを立ち上げた

 REJECTは2018年発足のプロeスポーツチーム。シューティングゲームを活動の場とし、現在は『PUBG: Battlegrounds』や『Call of Duty Mobile』『レインボーシックス シージ』『VALORANT』『IdentityV 第五人格』の6タイトル、7部門でチームを保有する。『PUBG MOBILE』部門は、同タイトルで国内最多となる6回の世界大会出場を果たすなど、モバイルシューティングゲームでは日本トップの実績を誇る。

 一方の中嶋峻太氏は、国内外のデザイナーズブランドでキャリアを積んだ後、川瀬正輝氏とともに「ポストジャポニズム」をコンセプトに掲げたメンズファッションブランド「ALMOSTBLACK」を始動。国内外のコレクションに出展するほか、フットボールブランドの「UMBRO(アンブロ)」や抽象画家の白髪一雄氏、富士子氏夫妻など、アートやスポーツ分野とのコラボなどにも積極的に取り組んできた。

REJECTオーナーの甲山翔也(左)と中嶋峻太氏(右)
REJECTオーナーの甲山翔也(左)と中嶋峻太氏(右)

 今回のプロジェクトは両者の関心がタイミング良く一致したことによるものだ。REJECTの甲山翔也オーナーがアパレルブランドの立ち上げを以前から考えいた一方、中嶋氏はカルチャーとしてのeスポーツに引かれるものを感じていたという。

 「eスポーツチームはさまざまなグッズを出しています。ただどうしてもファングッズの域を出ていない。もっと質にもこだわった本格的な商品を出したいと思っていました」と甲山氏。

 中嶋氏は「eスポーツは今、市場としてどんどん大きくなっています。私自身、いろいろなゲームをプレーしてきましたが、今、ゲームをやっていない人はいないんじゃないかとすら思います。そこから強い人がプロになった。こうしたカルチャーとしてのeスポーツに魅力を感じていたんです。ただ、eスポーツやゲーム業界で本格的にアパレルブランド展開をしている例は国内にはまだない。自分が最初に挑戦したいという思いがありました」と話す。

選手用と一般用でデザインは2パターン

 REJECTが立ち上げたアパレルブランドのラインアップは、モッズコート(2万9700円)、ショートブルゾン(2万4200円)、6ポケットカーゴパンツ(1万7600円)、ユーティリティシャツ(1万6500円)、Tシャツ(6930円)の5アイテム。「今回は、REJECTも大会に参加している『PUBG』のイメージや自分の好みからミリタリーテイストを取り入れました」(中嶋氏)

 選手用と一般販売用とでデザインや機能は分けている。選手が着用するモッズコートには、ミリタリーウエアやモータスポーツのつなぎなどと同じように、面ファスナーでワッペンを着脱ができるようにしている。選手の名前やスポンサーネームをワッペンにすることで、所属選手やスポンサーの入れ替わりに対応できるようにする工夫だ。

選手用のモデルは面ファスナーで選手名やスポンサー名を着脱できるようになっている
選手用のモデルは面ファスナーで選手名やスポンサー名を着脱できるようになっている

 一般販売用のモデルには、この面ファスナーがない。基本デザインは同じながら、選手が着るモデルには特別感を持たせる狙いもある。将来的には選手用モデルのレプリカを販売する可能性があるものの、「簡単には手に入らないスペシャルアイテムとしての価値は持たせたい」と中嶋氏は言う。

 また、全体的にシンプルなデザインにしているのは、eスポーツブランドとして「強い者が勝つ」というeスポーツの本質を服に反映したいとの思いから。シーズンごとにモデルを入れ替えるのではなく、通年で販売する定番モデルとして展開する。

eスポーツの既存の概念を覆す

 甲山氏がアパレルにこだわるのは、eスポーツプレーヤーやチームスタッフが常にかっこよくありたいという思いがあるからだ。アパレルブランドを立ち上げるにあたり、多くの人たちに着てもらうことよりも、まずは自分たちが着たいかどうかを考えた。

 「自分たちが着る服を買うときに、妥協することはありえない。だから、今回のアパレルブランドでも、基本的には自分たちが着たい、買いたいと思うものを作っています。実際、選手はこの服を着て大会の会場に入ることになるし、スタッフはこの服を着て作業することになります。自分たちが納得したいいものならば、一般にも売れるという考え方です」(甲山氏)

 この「かっこよさ」については、企画の段階から甲山氏と中嶋氏の間でも議論があったようだ。中嶋氏がREJECTのアパレルブランドを立ち上げるにあたり、まず確認したのは、eスポーツのファッションには何らかの規定があるのかということだったという。それというのも、既存のeスポーツチームはチームロゴやスポンサーロゴをあしらったジャージーやTシャツが主流だからだ。

 「最初は選手が試合の際に着用するユニホームをデザインするのだと思っていました。だから、真っ先にeスポーツ選手のユニホームはジャージーやTシャツである必要があるかを確認したんです。甲山さんからは特に規定はないということだったので、だったら既存のデザインの概念を壊したいと思いました」。それがモッズコートやショートブルゾン、スタッフらの腕に巻く太めの腕章といったデザインにつながっていった。「eスポーツチームのウエアとしては改革的かもしれない。でも革新的なことをできるのは、REJECTがトップチームだから。実力が伴っていないと奇をてらったように思われることも、トップチームがやれば他のチームが追随しやすくなるのではないか」と中嶋氏は話す。

価格はALMOSTBLACKの3分の1

 今後、REJECTの選手が会場に入場する時や控えている時はこの服を着る。スタッフも同じくだ。eスポーツの現場にいる選手やスタッフが着ていることが周知されれば、ファンの目には特別なものとして目に映るだろう。

選手やスタッフはこの服を着て活動する
選手やスタッフはこの服を着て活動する

 これはチーム運営にもプラスに働くはずだ。eスポーツはまだゲームタイトルの人気が先行しており、他のプロスポーツと比べるとチームや選手個々のファンが少ないと言える。魅力あるスター選手を育成したりチームとしてのカラーを打ち出したりして、固定ファンを獲得することは課題の1つになっている。

 今回のREJECTのアパレル展開は、REJECTのカラーの打ち出しとしては十分効果があり、ファンがREJECTを応援する要素の1つになると考えられる。幸いREJECTは、発足以来参加部門の数は減っておらず、主要メンバーの入れ替えも少ないので、固定ファンが付きやすい状況だ。

 価格面も、若い世代が多いeスポーツファンが手に取れる設定になっている。甲山氏は、中嶋氏にデザインの良さだけでなく、素材の良さ、そしてなにより価格を抑えての販売も要望した。例えば、伊勢丹新宿店メンズ館などでも販売しているALMOSTBLACKのTシャツは2万円程度。これに対してREJECTのTシャツは7000円弱と3分の1程度だ。

 それでも、「既存のALMOSTBLACKのファンにも納得してもらえる品質だという自信がある」と中嶋氏。ALMOSTBLACKの商品には手が出なかった中嶋氏のファンや、eスポーツと接点がなくてもファッションには関心があるといった層にも響きそうだ。それでいて別ブランドであることから、ALMOSTBLACKとの差別化も図れる。

 実際、REJECTのブランド立ち上げ発表会には、eスポーツやゲーム関連のメディアだけでなく、アパレル、ファッション関係のメディアも多く駆けつけていた。REJECTのアパレルブランド展開に期待を持っているという表れだろう。REJECTのアパレル参入は、eスポーツファン、『PUBG MOBILE』ファンではなく、REJECTというeスポーツチームの認知やファン拡大の突破口になるかもしれない。

胸元には黒地に黒い糸で、REJECTの創業地の座標を刺しゅうした。「最近は(所在地や創業地を)明かさない企業や団体も多いが、強いチームだからこそオープンにする」という中嶋氏の思いから
胸元には黒地に黒い糸で、REJECTの創業地の座標を刺しゅうした。「最近は(所在地や創業地を)明かさない企業や団体も多いが、強いチームだからこそオープンにする」という中嶋氏の思いから
シンプルな一般販売モデルにも、ワンポイントとして「REJECT」のロゴをあしらっている
シンプルな一般販売モデルにも、ワンポイントとして「REJECT」のロゴをあしらっている

(写真/岡安学、平野亜矢、写真提供/REJECT)

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