コーセーはコロナ禍で下がった接客水準を向上させるため、接客のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進する。Zoomを使う従来型のオンライン接客で課題だった、複数ツールを併用する煩雑さを改善。オンラインショップとのID連携で、店頭・EC問わず購買行動を可視化する。最上位ブランド「コスメデコルテ」から導入する。

コーセーが導入する新たなオンライン接客サービス「DECORTÉ Personal Beauty Concierge(コスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュ)」。独自に開発したシステムを用いている
コーセーが導入する新たなオンライン接客サービス「DECORTÉ Personal Beauty Concierge(コスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュ)」。独自に開発したシステムを用いている

カスタマージャーニーを一元化

 コーセーが導入したのは「DECORTÉ Personal Beauty Concierge(コスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュ)」。同社が独自に開発したシステム「WEB-BC SYSTEM」を用いたオンライン接客サービスだ。2021年9月16日にサービスを開始、当面はiOS限定で提供する。

 コスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュの特徴は、ビューティーコンサルタント(BC)と呼ばれる美容部員によるカウンセリングの予約から実際のカウンセリング、商品購入までのシステムを一元化したことだ。

 顧客は、自身のスマートフォンでコスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュのサイトにアクセスし、スキンケアや肌の悩みについて事前のアンケートに回答。自分の好きなBCのスケジュールを予約する。

 当日はビデオ通話で顧客とBCをつなぎ、BCがスキンケアのアドバイスやメーク商品の選び方、メークのテクニックなどを約30分間、カウンセリングする。カウンセリングで薦めた商品やアドバイスなどは顧客のマイページにある「デジタルカルテ」に記録。顧客は後で確認したり、商品を購入したりできる。

 利用するにはコーセーのオンラインショップのアカウント「KOSE ID」が必要。コーセーとしては、カウンセリングの内容などをKOSE IDとひも付けることで、カウンセリング後の購買行動なども把握できるのが利点だ。

 コロナ禍で店頭接客の短時間化や非接触が余儀なくされる中、化粧品メーカー各社がオンライン接客を取り入れているが、それらの多くはビデオ会議ツール「Zoom」などを利用したもの。ブランドサイト内の予約システムやECサイトと連係できないため、接客から商品購入までのカスタマージャーニーが一元化できないという課題があった。コスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュによって、一連の過程を連携させることで、顧客のストレスを軽減し、購買意欲を維持したまま商品へ誘導、データも活用しやすくする。

コスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュのベースとなるWEB-BC SYSTEMは、IDやパーソナルカルテの管理、肌分析/肌診断機能などを備える。フルHDかつ60FPSの映像で、発色や質感の再現性を高めることも目指した
コスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュのベースとなるWEB-BC SYSTEMは、IDやパーソナルカルテの管理、肌分析/肌診断機能などを備える。フルHDかつ60FPSの映像で、発色や質感の再現性を高めることも目指した
KOSE IDでログイン。好みのBCの空き状況を確認してカウンセリングを予約する
KOSE IDでログイン。好みのBCの空き状況を確認してカウンセリングを予約する
事前アンケートでスキンケア習慣、肌やメークに関する悩みを把握
事前アンケートでスキンケア習慣、肌やメークに関する悩みを把握
カウンセリング終了後はデジタルカルテでカウンセリング中に薦められた商品を確認。リンクで商品ページに移動できる
カウンセリング終了後はデジタルカルテでカウンセリング中に薦められた商品を確認。リンクで商品ページに移動できる

標準化により他ブランド転用も簡単

 WEB-BC SYSTEMは、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)など外部のクラウドサービスを利用して構築した共通インフラに、ID管理やデジタルカルテ、メークのシミュレーターといった機能をAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)で接続している。各種機能をほぼ内製化することで、1年足らずで実用にこぎ着けた。

 目指したのは、全ての事業部やブランドが共通で利用できる標準化されたプラットフォームだ。情報統括部 グループマネージャーの進藤広輔氏によると、「1~2カ月もあれば、ブランドごとの仕様に設計してサービス提供できる」。将来的にはコスメデコルテ以外のコーセーブランドでの展開も視野に入れる。海外法人への導入、パッケージ化による他社への販売も構想中だという。

 メークのシミュレーターは台湾パーフェクト社のARメークアプリ「YouCam メイク」を採用した。顧客がカメラに自分の顔を写すと、その映像にリアルタイムでメークをのせて表示できるというもの。元は一般消費者向けのアプリとして提供していたが、企業からの引き合いもあり、法人向けにカスタマイズした「コンサルテーションモード」を提供している。コスメデコルテは17年から店舗にこれを導入しており、今後、必要に応じてオンラインにも導入できるようにした。

美容部員の働き方の多様化も後押し

 そもそも、コーセーがWEB-BC SYSTEMの開発に着手したのは、前述の通りコロナ禍において店頭での十分な接客ができなくなったから。コスメデコルテはコーセーの最上位ブランドでもあり、特に店頭でのきめ細かいカウンセリングをブランドのコアバリューとしていた。DXによって、BCの接客水準を、コロナ禍以前を超えるレベルにまで引き上げようと、新サービス提供へ踏み切った。

 コスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュでは、30分間のビデオ通話によるカウンセリングのほか、KOSE IDの登録や予約なしでも利用できるチャットカウンセリングも用意している。自身の肌の調子をBAに見てもらいながら、具体的なアドバイスが受けられるビデオカウンセリングがこのサービスの肝ではあるが、よりカジュアルなチャットは利用を促しやすい。試しにチャットを使ってもらい、興味を抱いた顧客をビデオカウンセリングに誘導する。

 新サービスの導入にあたっては、各店舗から自薦・他薦を問わずBCを募集。合格者にWEB-BC SYSTEM専門の研修を実施した。サービス開始時は東日本と西日本合わせて15人が担当、その後31人に増員し、以降も段階的に増員する予定だ。セレクティブブランド事業部 事業戦略推進課 課長の命尾泰造氏は、「BCの新たなチャレンジとして門戸を開くため、百貨店、専門店だけでなくドラッグストアからも(BCを)採用した」と語る。

 BCの年齢は21~46歳で、31人のうち6人は育児中のため時短勤務になる。現状は、ブースを設けた東京と大阪の拠点に出勤するが、ゆくゆくは在宅勤務も視野に入れる。

 「化粧品業界は販売員の雇用を通じて女性の社会進出に大きく貢献してきたが、介護や子育てなどで働き続けることが困難な人もいる。例えば、紹介する商品を限定したりチャットのみのシフトを組んだりすることで在宅でも働ける環境を広げたい」(命尾氏)

当面は、東日本ユニット、西日本ユニットのサービス拠点に設けたブースから接客する
当面は、東日本ユニット、西日本ユニットのサービス拠点に設けたブースから接客する

 BCに対する評価方法にもオンライン接客ならではの要素を加えた。これまでは商品の売り上げで判断していたが、WEB-BC SYSTEMではカウンセリング後に利用者が答える満足度アンケートの内容も加味する。売上金額だけでなく、いかにブランドの世界観を伝えそれに共感してもらえたか、利用者の悩みに寄り添った対応ができたかなどを評価基準に加えることで、BCが強みを発揮しやすくなる。

 セレクティブブランド事業部 事業戦略推進課の三木理恵氏は、「将来的には独立するBCも出てくるかもしれない。(WEB-BC SYSTEMの)研修中に夢が広がったと話してくれるBCもいて、活躍の場が広がることにつながればうれしい」と話す。

 利用者にとっての体験価値向上だけでなく、化粧品メーカーの「最大のインフラ」(命尾氏)であるBCの労働環境改善も可能にするコスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュ。利便性と汎用性の高さでウィズコロナ時代のオンライン接客の新たなスタンダードとなるかもしれない。

(写真提供/コーセー)

■変更履歴
記事公開時、メークシミュレーターを「オンラインでも実装した」としていましたが、今後使用可能な機能として導入したのみで実装はしていませんでした。また、サービス導入の目的などに一部誤りがありました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2021/10/11 13:00]
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