名古屋市西区の日本茶カフェ「mirume(みるめ)深緑茶房」がコロナ禍のさなかに始めた新サービス「朝ボトル」が好評だ。店頭のカウンターでボトル入りの緑茶を受け取り、飲み終えたらそのまま返すだけという単純なものだが、このサービスをきっかけに固定客が付き、売り上げが倍増したという。

「朝ボトル」の提供は午前8~10時の2時間のみ。出勤前にボトルを受け取り、会社帰りに返却するという利用スタイルを想定している
「朝ボトル」の提供は午前8~10時の2時間のみ。出勤前にボトルを受け取り、会社帰りに返却するという利用スタイルを想定している

 2021年5月1日に名古屋市西区の那古野にオープンしたmirume深緑茶房(以下mirume)は、急須で提供する緑茶に加えて、緑茶に合うスイーツなども販売する日本茶カフェだ。もともとは「深緑茶房 名古屋カフェ」として近鉄名古屋駅から徒歩4分という好立地に店を構えていたが、コロナ禍による売り上げの激減で、固定費を削減するために駅からやや離れた現在の場所に移転した。

mirume深緑茶房の店舗。店名の「mirume」は「若い芽」を意味する静岡の方言だが、現在では日本茶業界の用語となっている
mirume深緑茶房の店舗。店名の「mirume」は「若い芽」を意味する静岡の方言だが、現在では日本茶業界の用語となっている

 mirumeが提供する「朝ボトル」は、300ミリリットルのガラス製ボトルに入った水出し緑茶。ボトルに茶葉が入っているのがポイントで、水を注ぎ足すことで3煎目までおいしく飲めるという。価格は1本300円(税込み、以下同)だが、3回分(900ミリリットル)と考えれば、350ミリリットルの日本茶缶を120円で買うのと大差ない。

 水を注ぎ足すと味が薄くなってしまうようにも思うが、mirumeの松本壮真店長は「業界でいう“煎が利く”伊勢茶を使っているので、3煎目でも十分に楽しめる」と説明する。

mirumeが使用しているボトルには、コップに注いだときに茶葉が入らないよう注口部分(蓋の裏)にフィルターが付いている
mirumeが使用しているボトルには、コップに注いだときに茶葉が入らないよう注口部分(蓋の裏)にフィルターが付いている

売り上げ倍増の理由は常連客の“ついで買い”

 「毎朝20本ほど用意しているが、常連客がいるので午前10時前に完売する」と松本店長。店舗は名古屋の中心地からは少し離れた場所にあるのだが、近くには約30店舗が軒を連ねる円頓寺(えんどうじ)商店街があり、近隣の住民や出勤前の会社員が買いに来るのだそうだ。

 1本300円のボトルを20本販売したとしても1日の売り上げは6000円程度にしかならない。ところがmirumeでは、以前の3分の1まで落ち込んでいた売り上げが、店舗移転から3カ月ほどでコロナ禍前の1.8倍にまで跳ね上がった。その理由は、「朝ボトル」を目当てに来店した利用者の“ついで買い”だ。

 mirumeでは緑茶を提供する以外に、「お茶請け」として「手作りお菓子(250円)」や、緑茶との相性を考慮した「ペアリングチーズケーキ(400円)」「和ピクルス(500円)」「レア・ドライフルーツ(500円)」なども販売している。「『朝ボトル』だけを買いに来る人は少ない」と松本店長。

店内で販売する「ペアリングチーズケーキ」も人気商品の1つ。mirumeでは、これらお茶請けの通販も展開している
店内で販売する「ペアリングチーズケーキ」も人気商品の1つ。mirumeでは、これら「お茶請け」の通販も展開している

 また「朝ボトル」は別の意味でも売り上げに貢献している。1つは店頭にカウンターを出すことの宣伝効果だ。店先に設置されたカウンターは商店街で目を引くし、販売の際には店内に並ぶ「お茶請け」の情報も提供できる。このカウンターがmirumeの認知向上と売り上げのV字回復に一役買ったと言っていい。

 もうひとつはボトルを返却するというシステムが、購入と返却、1日2回の来店機会をつくっていることだ。利用者の来店機会が増えれば、店内の商品を購入する機会も増えるのは自明だろう。

 なおボトルの返却は、店頭のカウンターに開けられた穴に挿すだけでいい。茶葉が残っていても構わないとの方針は、「洗って返す」という手間が利用者の負担にならないように配慮してのものだ。

 mirumeが「朝ボトル」に使用しているボトルは、HARIO(東京・中央)の「フィルターインボトル」(1980円)という商品だ。ボトルを返却しない利用者が出てくると売り上げ的には大打撃だが、利用者から保証金を預かるようなことはしていない。「そうしたシステムを導入すると、朝、気軽にお茶を買っていくときの障害になる。性善説でやっています」と松本店長は笑う。実際、営業を始めてからこれまで、返却されていないボトルは数本程度とのことだ。「(mirumeというブランドを)信頼してもらうには、こちらも信頼するしかない。信頼は最高のブランディング」(松本店長)

緑茶ボトルの店頭販売が茶葉を届けるサービスに

 固定客が付いた「朝ボトル」だが、利用者の中には同じ会社に勤めている人たちが各自で購入していたり、同僚の分をまとめて買っていく人がいることも分かってきたという。

 そこでmirumeでは、一定数以上の注文があれば毎朝、オフィスに「朝ボトル」を届けるサービスも手掛けるようになった。ところが、このサービスは「想定外の方向に発展した」と松本店長。「mirumeからボトルを購入するので、茶葉だけ届けてほしい」という声が出はじめたのだ。もちろん、茶葉を販売するだけでもmirumeとしては十分に利益を出せる。店舗スタッフがボトルを洗う作業もなくなるので、この申し出を断る理由はない。「緑茶ボトルの店頭販売が、毎朝、茶葉を届けるサービスに発展した」(松本店長)

 松本店長によれば、今後は名古屋駅周辺の宿泊施設やレンタカーなどのサービスとの法人契約を検討しているとのこと。茶葉を届けてしまうと店内の商品を買ってもらえなくなるが、「本数が出るようになれば『朝ボトル』だけでも事業の柱になり得る」と松本店長はみる。

(写真提供/mirume深緑茶房)

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