世界最大級の国際インテリア見本市、フランスのメゾン・エ・オブジェが再開した。四半世紀にわたり毎年2回、1月と9月にパリ郊外のヴィルパント見本市会場で開かれていたが、コロナ禍で2020年1月を終えた後の2期を見送っていた。1年以上もの間、主催者のみならず世界のインテリア業界の多くの人々が、待ちに待ったリアルでの再開催である。去る9月9日木曜日に始まり、週末をまたいで13日月曜日に終了。成功に終わったといわれる再開メゾン・エ・オブジェ5日間の統計数字が、同週に発表された。
出展者数1476(国内ブランド758、国外ブランドは718)、48の国・地域から参加、ビジター数4万8641人。ちょうど2年前、コロナ騒ぎが始まる以前の2019年9月の出展者数が2762、その61%がフランス国外のブランドで、69の国・地域の参加。ビジター数は7万6862人。全体の数字を過去と比較する限り、この再開にはまだコロナ禍の影響が色濃く残っていることがうかがえる。
しかし今回参加した多くの出展者、バイヤーたちが、この再開第1回が成功であるという意識を共有している。そして次回22年1月への期待をさらに大きくしているのだ。
なぜか? またメゾン・エ・オブジェの主催社SAFIが、リスクを伴うと思われながらも今回のリアルでの再開を決めた理由、そして出展者が今までの約半分と分かってもなお、開催を前向きに進めた理由は何なのか?
リアルでの見本市を不可能にしていた1年以上の間に、メゾン・エ・オブジェの主催者が何を行ってきていたかを知るとそれが理解できる。メゾン・エ・オブジェ上級幹部のエレナ・パヴロヴィック氏に、再開に至るまでの話を聞いた。
「20年1月のメゾン・エ・オブジェ以来、フランス政府により新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐため5000人以上が集まるイベントの禁止令が敷かれ、私たちのような巨大な見本市を開くのは不可能となりました。その間、私たちは他の多くの見本市同様、デジタルプラットフォームを発展させました。21年の1月から3月にはデジタル・デイズと銘打った、休むことなく続くデジタル見本市も開いています。そこでイベントを週に8回展開し、毎週何千人ものデザイナーやデコレーター、ライフスタイルアーティストたちとオンラインで絶え間なくつながり、インテリアの話題を様々に広げました。それは1月27日から3月19日の間に73の国・地域から38万4174という数のネットアクセスを記録しました。そうしながら、私たちは出展者やバイヤーたちとつながり続け、頻繁に意見交換を行っていたのです」
「政府が5000人以上の集会禁止を解除した21年5月末に、私たちが迷うことなく9月の見本市再開を決めることができた理由は、このたくさんのネット上でのディスカッションにあります。誰もが(出展者、バイヤー、ジャーナリスト、インフルエンサーが)、本物をその目で見て、触れ、そしてそれらを前に会話を交わすことが大切であり、何より不可欠であると考えていることが、私たちは十分理解できていたのです。再開にちゅうちょはありませんでした」
商品を知ることだけではない。リアルな見本市には新たな出合いがあり、交流があり、出展者は競合を知ることができ、トレンドを感じ、市場を把握することができる。オンラインショップが今、重要にはなってはいるが、困難なタスクがまだまだ残るのと似ている部分もある。メゾン・エ・オブジェの調査では、オンラインショップを行っている小売業者の収益は、総売り上げの20%にも満たないという数字もある。
では今回は、様々な支障があったとしても出展を成功させようと試みた、本気度の高い出展者が多いのだろうか?
「そうとも言えますが、出展したくともコロナ禍でこの2年の間世界がストップしたことにより、商品を製造するための原材料不足が起こり、定番商品も新製品も作れないというメーカーが少なくありません。またコロナ禍の影響による国際海上輸送に必須のコンテナの世界的な不足と、コンテナ運賃の高騰で輸送コストが大幅な値上がりしたことで、以前のように商品運輸が簡単ではなくなり参加を断念している国外のメーカーもたくさんあります。まだまだ現時点ではコロナ禍による困難はありますが、そんな彼らの多くも次回22年1月のメゾン・エ・オブジェには参加できるよう、できる限りの努力をすると言っています。既に次回に向けてのプロジェクトも進んでいます。例えば、フランス文科省の後援付きで、1つの国を指定し、その国の才能を感じさせる若いデザイナーを6、7人選出する、インテリア界に影響力の強いライジング・タレント賞がメゾン・エ・オブジェにはあるのですが、過去のイタリア、レバノン、中国、米国に続いて21年はフランス、そして次回1月は日本に決まったところです。日本からの出展者、バイヤーが再び戻ってきてくれることを願って!」
コロナ禍がまだ収まらない今回の開催に当たって、以前と違うどんな処置をしたのだろうか?
「政府の指示に従い衛生パスは必須。外国から来られた方の、その国の発行したパスのQRコードが読み取れない場合があるので、15分で結果の出る抗体検査テントを入り口に設置しました。もちろんホール内はマスク着用です。アルコールジェルを至る所に設置。出展者たちもおのおののスタンドの入り口にジェルを置いていました。そしてホール内のスタンドのレイアウトでは歩くスペースをぐっと広げました。人々が肩を触れながらすれ違ったり、人の渋滞になることを防ぐためです」
ちなみに特設された抗体検査テントで検査を受ける人はあまり見受けなかった。ここまでやって来て入場寸前に陽性か陰性のサプライズを待つ人は少ない。QRコードは検査日時から72時間有効であり、見本市はパリから1時間弱の所にあるので、外国人のみならずパリを経由するフランス人も、陰性証明が必要な人々は会場に到着する前にどこかで既に済ませている。しかし万が一のために会場入り口にそれが設置されているのは出展者にとってもビジターにとっても、またスタッフたちにとっても安心なことだった。
また歩くスペースの拡大は、ゆったりと落ち着いたエレガントな見本市という印象を与える良い副作用もあった。各出展スタンドが尊重された感じで、見本市にアップグレード感を漂わせた。ちなみに通常は8ホールを使うが、今回は6ホールのみ使用であった。
日本からのメゾン・エ・オブジェの出展は通常約50社はあるというが今回は6社のみ。その1社が東京都港区に拠点を置く前掛け専門製造会社エニシングだ。00年創業で日本の伝統的な前掛けの文化を継承しつつ、新しいデザインや可能性を追求して国内のみならず欧州進出も狙ってきた。ロックダウン前に行われた20年1月のメゾン・エ・オブジェが初参加で、今回が2回目となる。このエニシングの社長、西村和弘氏は、以下のように語ってくれた。
「友人の伊藤バインダリー(メモパッド製造、東京・墨田)の代表から、メゾン・エ・オブジェが世界の展示会の中で最もお薦めだと聞き、それまで毎年ロンドンに出展していたのですが20年1月にこちらに切り替えました。東京のギフトショーにも毎年出展しており、緊急事態宣言中の3月も参加。そこで全体の来場数が少なかったにもかかわらず弊社は過去最高の売り上げを記録。このような環境下だからこそバイヤーは本気なのでしょう。その熱を感じ今回のメゾン・エ・オブジェも良い結果が生まれるのではと参加を決めました。弊社のアドバイザーでありメルシー(マレ地区にあるパリのセレクトショップで、ここに来ればインテリアやファツションの世界の流行が一目で分かるといわれる)の創業者の一人でもあるパリ在住ジャン=リュック・コロナ氏からも、18カ月も待たされたバイヤーたちの購入意欲は高いだろうと勧められました。デジタルは参加していませんでしたが、メゾン・エ・オブジェのスタッフたちとはつながり続け情報収集をしていました」
結果、20年1月との比較で売り上げは約3倍、スタンドへの人の入りは60~70%増、前回の受注は約20件で、今回は約60件にもなったという。この数字も、再開したメゾン・エ・オブジェが成功したといわれるゆえんだ。
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