キリンビバレッジは「キリン 生茶 ほうじ煎茶」を2021年9月14日にリニューアル発売した。20年9月に発売され、同年末まで年間販売目標を約6割上回るほど好調だった同商品を1年でリニューアルし、さらなる売り上げ増を狙う。好評な味をどう変えて、訴求するのか。

「キリン 生茶 ほうじ煎茶」525ミリリットルペットボトル。希望小売価格は140円(税別)
「キリン 生茶 ほうじ煎茶」525ミリリットルペットボトル。希望小売価格は140円(税別)

不満点の改善ではなくあくまでも挑戦

 キリンビバレッジが「キリン 生茶 ほうじ煎茶(以下、生茶ほうじ煎茶)」をリニューアル発売した。

 2020年9月発売の生茶ほうじ煎茶は、同社が発売した過去10年の新商品中、新発売月の売り上げ箱数1位となっており、20年9~12月までで年間販売目標比163%(193万箱)を達成した。20年のほうじ茶市場は、全体として前年比122%(インテージSRI+ほうじ茶カテゴリー2019年-2020年容量前年比)と拡大したが、これに一役買ったとも考えられる。

 オンラインで行われたリニューアルの発表会では、同社マーケティング部 ブランド担当ブランドマネージャーの植村昌史氏が、生茶ほうじ煎茶は「味覚評価が高く、購入者の92%がおいしいと評価(20年10月同社調べ)」していたと説明した。

 それを、発売から1年というタイミングで、パッケージだけでなく味もリニューアルしたというのだから驚きだ。だが、植村氏によれば、「不満点の改善ではなく、現在支持されている生茶 ほうじ煎茶の強み、独自性を高めていく狙いがある」とのこと。今回のリニューアルは、さらなる売り上げ増への挑戦とも取れる。

オンライン発表会に登壇したキリン マーケティング部 ブランド担当ブランドマネージャーの植村昌史氏
オンライン発表会に登壇したキリン マーケティング部 ブランド担当ブランドマネージャーの植村昌史氏

ブラッシュアップへ打ち手は11案

 商品開発研究所 飲料開発担当の鈴木梢主任によれば、今回のリニューアルはブラッシュアップであり、「新・“ひきたつ香り製法”」を採用したことがポイントとなる。この製法は、これまで使用していた茶葉・棒茶だけでなく、「細かくひいたほうじ茶粉」を加えて一緒に抽出することで、甘味と香りをより一層引き立たせるというもの。

 実際に飲んでみると、口に含んだ瞬間、香ばしさが広がるが、余韻は爽やかで香りが鼻からすっと抜けていく印象だった。

 鈴木主任は「高評価な今のおいしさを壊さずに、さらにおいしくするには、何をどう改良すべきかを慎重に考えた」という。チームで他社製品も含めて飲み比べ、ほうじ煎茶のおいしさ、他社との違いを改めて体感しながら議論を重ねた。その結果、生茶ほうじ煎茶の評価は「香ばしさがありながらも、爽やかな心地よい余韻」と結論付けた。

 その後、原料の製法やブレンド比率、抽出方法など可能性のある打ち手を11案見いだし、マーケティング部に提案。生茶ほうじ煎茶のおいしさについてさらに議論しながら、その中でもっともおいしさを引き出せる今回の製法を選んだ。

 「これまで緑茶の開発を中心に行ってきたが、ほうじ茶は、緑茶に比べると香りが強く、原料茶葉それぞれの個性が強いため、ほんの少しのブレンド比率の違いでも、特徴として出てくる香りが異なることがある。その点は苦労しながら試作をしていた。最後まで妥協せずに検討をしたことが、今回の結果につながった」と鈴木主任は説明した。

商品開発研究所 飲料開発担当の鈴木梢主任
商品開発研究所 飲料開発担当の鈴木梢主任

生茶ブランドをけん引できるように

生茶ほうじ煎茶の味わいを生かした、食事との相性の良さも訴求していくという。発表会ではスイートポテトとの相性の良さを体験。ほうじ煎茶のすっきりとした香ばしさが、スイートポテトの自然な甘味をより引き立てていた
生茶ほうじ煎茶の味わいを生かした、食事との相性の良さも訴求していくという。発表会ではスイートポテトとの相性の良さを体験。ほうじ煎茶のすっきりとした香ばしさが、スイートポテトの自然な甘味をより引き立てていた

 単に味わいを追求するだけではリニューアルの価値は消費者に届かない。消費者向けコミュニケーションでは「“新しいおいしさのほうじ茶の登場”を改めて訴求することで、お客様との接点のさらなる拡大と無糖茶・ほうじ茶市場の活性化を目指す」(植村氏)という。

 生茶ほうじ煎茶が伸びると、「キリン 生茶」とのカニバリ(共食い)で売り上げ構成比が変わっていくことも考えられるが、植村氏によれば現時点では、生茶ブランド全体における構成比は、生茶の方が圧倒的に大きいという。「どのような製品を発売しても、同じブランドである限りカニバリは必ず発生する。むしろ生茶ほうじ煎茶の場合は、従来のほうじ茶にはない新しさや爽やかな余韻という独自性を有しているので、同ブランドでのカニバリ以上に、他カテゴリーや他ほうじ茶商品からの流入を期待できると考えている」(植村氏)

 またこれからの季節は、ホット市場にも注力していく。「ほうじ茶はホット市場においても十分な需要がある。自動販売機ではホットの商品として280ミリリットルのペットボトルを発売しており、コンビニエンスストアにおいても今後展開の可能性を検討していきたい」(植村氏)

 新たなコミュニケーション戦略としては、InstagramやFacebookなどのSNSも活用していきたいと考えているという。これまでの方向から大きく変えることはないが、投稿回数を増やし、「ほうじ茶に、生。」の訴求につながる、「生の価値」をより伝える内容を増やす考えだ。

 リニューアル自体は、一見すると分かりにくいかもしれないが、現状維持にとどまらない挑戦の姿勢は伝わってくる。生茶ブランドの成長をけん引する「ブランド第2の柱」として、ほうじ茶カテゴリー売り上げ1位となれるか。

「キリン 生茶 ほうじ煎茶」280ミリリットル・ペットボトル(希望小売価格税抜き110円)はホット市場での販売増を担う商品となる
「キリン 生茶 ほうじ煎茶」280ミリリットル・ペットボトル(希望小売価格税抜き110円)はホット市場での販売増を担う商品となる

(画像提供/キリンビバレッジ)

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