スキンケアブランド「SK-II」を展開するP&Gプレステージと東京都渋谷区、女性起業家コミュニティー「meeTalk」を運営するmeetalk(ミートーク、東京・渋谷)による女性起業家の支援プログラムが2021年7月21日に始まり、8月26日に終了した。SK-IIがどのような価値を見いだして、プログラムを展開したのか、話を聞いた。
21年夏のプログラム終了で反響
スキンケアブランド「SK-II」を展開するP&Gプレステージと東京都渋谷区、女性活躍支援を手掛けるmeetalk(ミートーク、東京・渋谷)が、女性起業家の支援で連携協定を締結し、2021年7月21日から8月26日まで約1カ月間、セミナーなどのプログラムを行った。
今回の取り組みは、SK-IIが女性活躍のために拠出する資金50万ドル(約5500万円)を利用したもの。新型コロナウイルス感染症の流行で経営に影響を受けている女性事業主を対象に、セミナーなどを実施した。1オン1のプログラム含め、全50のプログラムに延べ500人以上が参加し、大きな反響があったという。今後も3者は女性起業家の支援で連携していく予定だ。
世界各国に支援先がある中で、SK-IIはなぜ渋谷区、ミートークと提携協定を結んだのか。どのような価値を見いだして、プログラムを展開したのか。SK-II オリンピックゲームプログラムリーダーのデルフィン・バティン氏、SK-II グローバル ブランドコミュニケーションズ シニアディレクターのシューチー・フー氏へのインタビューと、プログラム内容、参加者の声から振り返る。
オリンピック延期で日本での支援に
今回の資金である50万ドルは、フィルムスタジオ「SK-II STUDIO」で公開されている映像1再生につき1ドルを支援活動に拠出する取り組みで集めた「#CHANGEDESTINY資金」を活用。現代の女性が直面している様々なプレッシャーに立ち向かう映像作品の発表は21年3月から始まり、全ての映像作品を合計すると、全世界ですでに10億回を超える再生回数を記録している。
資金の活用についてはSK-II内で十分議論を重ねた。特に新型コロナウイルス感染症の流行を背景に、女性起業家の支援のニーズについて詳細に調査したとバティン氏は振り返る。その中で日本の女性起業家に着目したのは、「多様な課題があると分かったから」(バティン氏)。
新型コロナの流行で世界の女性経営者の87%が悪影響を受けたとされる(MasterCard Index of Women Entrepreneurs〔MIWE〕2020)が、それに加え、日本では東京2020オリンピックの開催延期が追い打ちをかけたという。1年後に開催はされたものの、緊急事態宣言下の東京では、厳しい状況が続いている。
さらにもともと日本には、女性が起業しづらい環境もある。「Entrepreneurship at a Glance 2016, OECD Publishing, Paris.」によれば、日本の女性就業者のうち個人事業主の占める割合はG7諸国の中で最も低い4.4%。これはOECD(経済協力開発機構)加盟国の平均を大きく下回る。また女性就業者の22%が自分でビジネスをしたいという意欲を示しているが、自営業者の割合は女性就業者のわずか5.3%にとどまる。
こうしたデータから、SK-IIは日本の女性起業家、中でもオリンピック延期で影響を受けた小規模の女性起業家、女性事業主を支援することにしたという。
金銭的支援より「装備」得る場の提供
1カ月間行われたセミナーなどのプログラムは、「学ぶ」「つながる」「発信する」という3つのアプローチで行った。具体的にはデジタル・ソーシャルメディアプラットフォームの構築やデジタル活用スキルの習得(フェイスブック ジャパンや米グーグルなどが協力)、ビジネス上のネットワークへの接続の支援、バーチャルシティー「SK-II CITY」などSK-IIのプラットフォームを通じたブランド体験発信機会の提供などだ。
バティン氏は「重要なのは、ただ支援するのではなく、自分たちの力で苦境を脱すること」と強調。そのために必要なSNS活用法など、デジタル活用を含めたビジネスにおける装備を身に付けられるように場を設けたのだという。
「支援対象とする中小ビジネスを手掛ける女性起業家の多くは、実店舗をメインに展開していたが、デジタルのスキルを身に付ければチャネルを増やせる」とバティン氏。
また「メンターに出会える場を設けることも重要と考えた」(バティン氏)といい、その一つとして21年7月21日に開催されたキックオフ&オンラインラウンドテーブル・イベントでは女性起業家トークセッションが行われた。参加した女性起業家たちからは、「客観的側面から自分の事業を見直す機会になった。また大変なのは自分だけじゃないと思える心強さを感じられた」「男性(経営者)よりも横でつながる機会が少ないため、今回のような機会は非常にありがたかった」「1人で仕事をしているが、相談役や話ができる人を見つけることに対するハードルが少し下がりありがたかった」といった声が聞かれた。
コロナ禍はきっかけだが目的ではない
前述した資金の名称にも掲げられた「#CHANGEDESTINY」は「#CHANGEDESTINY ~運命を、変えよう。」として、SK-IIが16年から掲げるブランドテーマに由来する。このテーマに沿ってこれまでにも様々なキャンペーンを展開してきた。その中の一つが、前述のとおりSK-II STUDIO設立だ(関連記事「池江選手の「運命」を是枝監督が撮る SK-IIスタジオ設立の狙い」)。
今回の支援もさることながら、数々のキャンペーンを通し、長期的にメッセージを伝え、ブランドの価値を向上していくことになると想定できるが、では今回の「日本の東京・渋谷区を拠点にした女性起業家支援」が、SK-IIブランドにもたらす価値はなにか。
バティン氏は、「コマーシャルメッセージではない。KPI(重要業績評価指標)は、売り上げに寄与するかどうかではなく、どれだけ本当に女性起業家のビジネスに貢献できるか。われわれのビジネスというよりは、社会をポジティブに導くための活動と考えている」と言う。
「#CHANGEDESTINYは6年前に始まったもので、単発のキャンペーンではなく、SK-IIが40年間の歴史の中で培ってきた信念を受け継いでいる。SK-IIは当初、化粧品としての価値を打ち出していたが、やがて『3カ月、半年、1年と使い続けるうちに肌だけでなく、人生が変わった』というエピソードが届くようになった。その過程でわれわれの目的は、製品の開発、提供にとどまらない、様々なコミュニティーや人生のサポートにあるのではないかと気づいた」(バティン氏)
また、フー氏は、こうした活動はなかなか結果が出ないため、ブランドとしてもサポートの妥当性を説くのは難しいと前置きしたうえで、その価値を以下のように説明した。
「新型コロナのパンデミックがきっかけとして大きいことは間違いない。しかし、6年間活動してきており、これは単発のキャンペーンでも今起きている新型コロナ禍のための処方箋でもなく、ジャーニーだと考えている。すなわち、SK-IIというブランドがなぜ存在するかという根幹にも関わるところであり、女性がいかに困難に打ち勝っていくかを示すことが真の目的だ」(フー氏)。活動を認知してもらうことが、ブランドの価値向上につながると考えている。
産官連携はスキルセット取り込む意味も
では、なぜ渋谷区やミートークと組んだのか。バティン氏は「渋谷区は女性起業家やスタートアップにとって、リーディングシティーの一つと認識している。こうした支援にたけている自治体であるため、コラボしていくことでわれわれが得られることも多いと期待している」と回答。
フー氏もまた、渋谷区自体が起業家支援システムを持っていることを挙げ、「この活動は長期的でなければならない。よってパートナーは重要だ。渋谷区、ミートークと組むことで、彼らが持っている女性起業家支援に対するスキルセットを取り込み、インパクトのある活動の一助となると考えている」と渋谷区が行っている支援システムへの期待感をのぞかせた。
バティン氏、フー氏はいずれも「今後もいろいろなパートナーとともに女性をサポートする活動を仕掛けたい」と口をそろえる。今回の活動での経験を今後も生かしていく考えを明かした。
(写真提供/P&Gプレステージ)