サントリービールは2021年8月25日、「ザ・プレミアム・モルツ」のマーケティング戦略説明会を実施した。説明会では、缶ビールのカテゴリーで若年層を中心に新規層が流入し、売り上げが好調なことを発表。顧客をさらに獲得すべく、「ザ・プレミアム・モルツ」ブランドの派生商品を4カ月連続で発売する。
なじみの薄かった若年層が増加
サントリービールが「ザ・プレミアム・モルツ」シリーズの缶ビール商品を積極投入する。2021年7月20日発売の数量限定商品「ザ・プレミアム・モルツ〈香る〉エール サファイアホップの恵み」を皮切りに、「ザ・プレミアム・モルツ〈香る〉エール 秋の芳醇」「ザ・プレミアム・モルツ ダイヤモンドホップの恵み」「ザ・プレミアム・モルツ〈黒〉」という4種類の派生商品を、4カ月連続で発売。期間・数量限定で販売する予定だ。
「ザ・プレミアム・モルツ」シリーズには、「ザ・プレミアム・モルツ」(プレモル)、「ザ・プレミアム・モルツ〈香る〉エール」と通年販売の機軸商品があるが、短いスパンでの派生商品も複数展開する。
その理由を、サントリービールマーケティング本部プレミアム戦略部長の水谷俊彦氏は「いろんな味のビールを飲みたいニーズが増えている。その気持ちに応えたい」と語る。
水谷氏によると「(これまでは)決まった銘柄を飲む方も多かった」が、最近は傾向が変化しつつあるようだ。全国消費者パネル調査会社インテージによると、21年1~7月にかけて「ビール類の商品を4、5種類以上併飲する人」は前年比171%、「期間限定発売のビール商品の購入率」は同129%となった(5万440人に調査)。さまざまな味を楽しむ人が増える傾向にある。
また、同じくインテージ調べでは、21年1~7月にかけて「ザ・プレミアム・モルツ」シリーズの購入者数は、20代が前年比108%、30代が109%。これまで同シリーズになじみが薄かった若年層が増えている。この要因を、水谷氏は「コロナ禍の長期化」と「21年春に行ったリマーケティング」だと分析する。
「コロナ禍で在宅時間が増え、お金を使う機会も若干減っている。そこで、『(少し高い値段を払っても)おいしいプレモルを買ってみよう』となっているのではないか」(水谷氏)。希望小売価格は提示されていないものの、「ザ・プレミアム・モルツ」は大手コンビニ3社で、350ミリリットル235~236円(税別)で販売されている(8月29日、編集部調べ)。
コロナ禍でのライフスタイルの変化に加え、20年10月の酒税改正で、ビールにかかる酒税が軽減された。350ミリリットル1缶当たりの酒税は77円から70円になり、これもビールカテゴリーの好調を後押しする結果となった。
そんな中、「ザ・プレミアム・モルツ」は、21年の春に、若年層を中心とした新規層にアプローチするためのリマーケティングを実施した。ここで言うリマーケティングとは、広告を見るなどして自社商品に関心を持ったユーザーに対して改めてアプローチすること。
「(リマーケティング前まで若年層には)高級なビールだと思われていたところもあり、実際の値段以上に手を出しづらいと思われていた」と水谷氏。そこでコンセプトを「日常のちょっとした贅沢(ぜいたく)」に変え、これまでよりも親近感のある広告を打った。
テレビCMの起用タレントも矢沢永吉に代え、新たに小栗旬と柴咲コウを起用。「ザ・プレミアム・モルツ」が若年層にとって、身近に感じられる工夫を施した。「新規のお客様、それから20~30代の若手のお客様で、広告が非常に効果を上げている」と水谷氏も手応えを感じている。
限定商品がブランド認知拡大に貢献
コロナ禍での巣ごもり需要、若年層など新規層を意識した宣伝、酒税改正などの影響もあり、サントリービールの缶ビールの販売動向は好調だ。21年1~8月における缶ビールカテゴリーの出荷数量は、前年比132%となっている。
「ザ・プレミアム・モルツ」ブランドの限定商品もその勢いを後押しする。「(それぞれの限定商品は)お客様が『ザ・プレミアム・モルツ』というブランドに興味を持っていただける入り口として、力がついてきている分野だ。(限定商品のクオリティーに)納得して、また次の商品を求めるユーザーは多い」(水谷氏)。限定商品を最適なタイミングで断続的に発売することで、各商品が「ザ・プレミアム・モルツ」ブランド全体の認知拡大や同シリーズの別の商品の購入促進につながるのだ。
また、通年販売の「ザ・プレミアム・モルツ〈香る〉エール」が、「ザ・プレミアム・モルツ」のブランド商品だと浸透したことも大きいという。
もともと「〈香る〉エール」は、「ザ・プレミアム・モルツ」のブランド商品としてでなく、単独で市場への浸透を狙っていたそうだ。ただ、フルーティで軽やかに飲める味に定評はあったものの、ニッチな商品と思われることもあった。
そこで、20年より「『〈香る〉エール』が『ザ・プレミアム・モルツ』ブランドであることを積極的に情報発信した」と水谷氏。店頭で両商品を並べて販売したり、テレビCM内に一緒に露出させるなど、セットで訴求するようにした。その結果、「〈香る〉エール」単体の20~30代の購入者数は、21年1~7月において、前年比115%となった(インテージが5万440人に調査した結果)。
「『〈香る〉エール』を飲用する20、30代の方が『ザ・プレミアム・モルツ』にもトライしていただけたのかな」と水谷氏も推測するように、「〈香る〉エール」の顧客が増えたぶん、「ザ・プレミアム・モルツ」への流入も大きくなる。「〈香る〉エール」のパッケージや味に惹かれたユーザーが、興味を示してから初めて『ザ・プレミアム・モルツ』シリーズの一つだと気づくパターンは多いのだとか。このように、「ザ・プレミアム・モルツ」ブランドの個々の商品を売り出すことが、ブランド全体の販促にもつながると言える。
カニバリゼーションをどう防ぐのか
21年には計8種類の限定商品を発売する予定。各限定商品が「ザ・プレミアム・モルツ」ブランド全体の認知向上や、派生商品の購買促進につながるメリットは大きい。
ただし、限定商品を高頻度で出せば、カニバリゼーションも不可避となる。その対策は大きく2つあるという。1つは、各商品で使用するホップや麦芽などの素材を変えて、味わいに変化を加えること。もう1つは、味わいの違いを見た目からも認識してもらえるよう、ネーミングやパッケージデザインをかぶらないように工夫することだ。
「(各商品の販売間隔が)1カ月という間隔が短いかどうかは、今年やってみて考えたい。機軸商品のプレモルと香るエールが、どう影響を受けたか、その後どれほどお買い上げいただいたかということを検証して、来年のスケジュールや品目を考えていく予定だ」(水谷氏)
コロナ禍の長期化をはじめとした影響で、売れ行きが好調な缶のビールカテゴリー。ニーズの変化をくみ取ったサントリーの戦略が成功するか注目だ。
(写真提供/サントリービール)