キリンビバレッジが独自素材「プラズマ乳酸菌」を配合した「キリン 午後の紅茶 ミルクティープラス」「キリン 生茶 ライフプラス 免疫アシスト」を2021年10月12日に全国で発売する。商品展開とともに免疫に関する啓発活動に力を入れ、ヘルスサイエンス戦略を強化する。
同社は年初にプラズマ乳酸菌入り飲料の年間販売目標を410万ケースとしていたが、上半期の累計販売数量が前年比5割増だったことから、年間販売目標を500万ケースに上方修正。健康への関心が高まる中、「免疫ケア」をキーワードに、「午後の紅茶」「生茶」という2つの人気ブランドでプラズマ乳酸菌商品を投入する。キリンビバレッジは2021年7月29日、キリンの独自素材「Lactococcus lactis strain Plasma(以下、プラズマ乳酸菌)」を配合した「キリン 午後の紅茶 ミルクティープラス」「キリン 生茶 ライフプラス 免疫アシスト」を発表。同10月12日より全国で発売する。紅茶と緑茶で免疫機能をうたった機能性食品は日本初だという。
機能性表示食品としては短期間で開発
キリン 午後の紅茶 ミルクティープラスにはプラズマ乳酸菌1000億個を配合。乳酸菌と聞くと酸味の強い味を想像しやすいが、茶葉の豊かな香りとミルクのまろやかなコクはそのままに、強すぎない甘さを特徴とし、ミルクティーそのものの味わいを邪魔していない。パッケージは機能感を付与しながらも、午後の紅茶ブランドのイメージを崩さない上品さを意識した。機能性飲料ながら老若男女が手に取りやすいデザインだ。
キリン 生茶 ライフプラス 免疫アシストにもプラズマ乳酸菌1000億個を配合。生茶葉のさわやかな甘味やうまみが生きたまろやかな緑茶の味わいになっているという。生茶は21年3月中旬に再生ペット樹脂を100%使用した「R100ペットボトル」を採用したが、新商品にも適用。パッケージデザインは、通常の生茶よりも淡いカラーを採用し、機能性表示食品であることが一目で分かるようにした。
午後の紅茶、生茶ともに20年6月から開発をスタート。通常の商品の標準開発期間は10~12カ月だが、機能性表示食品は20カ月以上かかることも多いといい、今回は短期間で商品化に至った。その背景には、同社のヘルスサイエンス戦略の強化方針がある。
「健康エントリー層」に幅広く訴求
キリングループは、長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」を掲げ、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV(Creating Shared Value)先進企業となる」ことを目指している。その中で、キリンビバレッジは「BtoC中心の国内飲料事業の柱としての役割を果たす必要がある」と堀口英樹社長。ただし、国内清涼飲料市場は20年を機に減少傾向へと転じると見込まれており、既存の飲料事業の継続だけでは成長の機会を逸する可能性があるという。
一方で健康飲料(特定保健用食品、機能性表示食品)は10~20年の間にプラス10%の成長を遂げており(食品マーケティング研究所調べ)、同社では「今後も成長は継続する」(堀口社長)とにらむ。よって今後は既存ブランドに新たな価値を付加しながら、ヘルスサイエンス領域での成長が果たせるよう、「健康エントリー層」に幅広くアプローチできる商品展開をしていく計画を立てている。
こうした判断には、新型コロナウイルス感染症拡大をきっかけとした健康飲料ニーズの変化も影響している。コロナ禍以前、各社から販売されている健康飲料は、「体脂肪を減らすのを助ける」「脂肪の吸収を抑える」などの成分を含む特定保健用食品や、「日常生活の疲労感を軽減するとされるクエン酸を機能性関与成分とする」「腸内環境の改善に役立つラクトトリペプチドを含む」といった効果をうたう機能性表示食品が多かった。
ただし、それら商品の伸びも近年は鈍化傾向だ。調査会社の富士経済(東京・中央)が21年4月に発表した「H・B(Health&Beauty)フーズの国内市場調査結果」によれば、12年に「R-1乳酸菌入り」ドリンクヨーグルトの飲用でインフルエンザ感染率が低減することがメディアで取り上げられて、市場は大幅に拡大したものの、17年以降はヨーグルトの伸びが頭打ちに。既存の健康飲料だけでは、市場拡大にブレーキがかかってきているという見方もあった。
しかし、20年の新型コロナウイルス感染症の拡大で、体調管理や免疫力向上の重要性が再認識され、需要は再び急増。そこに「キリン iMUSE」シリーズが機能性表示食品として初となる「健康な人の免疫機能の維持をサポート」を表示する商品を発売したことで、市場は再度拡大するとみられるようになったと富士経済の調査では指摘している。
さらに調査会社クロス・マーケティング(東京・新宿)のリポート「2021年1月 新型コロナウイルス生活影響度調査(食生活編)」によれば、コロナ禍以降、意識して取っている栄養成分は、乳酸菌、ビタミンC、食物繊維、たんぱく質、カルシウムが上位5位に入っており、「免疫力アップに効果的といわれる栄養成分」がより多くの人に意識されている。こうしたことからキリンビバレッジが健康エントリー層の拡大に期待をかけるのは順当と言えるだろう。
機能性の付加で紅茶市場全体も拡大
一方で、紅茶飲料市場において5割のシェアを持ち、20年には11.7億本を販売したという「午後の紅茶」と、20年に発売20周年を迎えた「生茶」にとっては、チャレンジでもある。すでに人気が確立されているブランドだからこそ「健康な人の免疫機能の維持をサポート」する機能性表示食品を投入することに、リスクがないとは言えない。
この点について、キリンビバレッジの執行役員マーケティング部長である山田雄一氏は「緑茶は特定保健用食品が投入されている領域でもあり、後発でも『免疫を維持する』という新たな付加価値によって十分競える」と自信を見せた。また「紅茶は機能性をうたう商品が立っていないマーケット。チャレンジにはなるが、紅茶市場そのものを拡大していくためにも、新しい価値の創造はトップブランドの使命と考えている」と説明した。
また、キリンホールディングスのヘルスサイエンス事業部部長兼R&D本部キリン中央研究所リサーチフェローの藤原大介氏は、「欧米に比べ、イミュニティ(免疫)の重要性が日本では浸透していないと考えている」と言及。コロナ禍でこれまで以上に健康に関心が高まる中、免疫に関して啓発していきたいの考えを示した。それがグループ全体として、売り上げを拡大するチャンスにつながるとも捉えているようだ。