eスポーツが社会に定着していく中、チーム運営や大会スポンサーなど、さまざまな形で企業がeスポーツへの関わりを深めている。キリングループも参入。リアルなサッカーに続き、eスポーツでもサッカーe日本代表のパートナーを務める。キリンの狙いを担当者に聞いた。

キリンビバレッジが協賛した「e国際親善試合 KIRIN iMUSE CUP」
キリンビバレッジが協賛した「e国際親善試合 KIRIN iMUSE CUP」

 日本サッカー協会(JFA)は「e国際親善試合 KIRIN iMUSE CUP(キリン イミュ一ズ カップ)」を2021年6月18日に開催、その模様を6月24日にオンラインで公開した。使用したゲームは、米エレクトロニック・アーツのサッカーゲーム『FIFA 21』。「FIFA 21 グローバルシリーズ 公式ランキング」の東アジア・プレイステーション部門で日本上位3人の選手がe日本代表として選出され、マレーシア代表と対戦した。

 「KIRIN iMUSE CUP」とあるように、この大会を特別協賛したのが、キリンビバレッジだ。加えてキリングループとして、e日本代表にも協賛している。飲料メーカーでは「RedBull」や「モンスターエナジー」などのエナジードリンクメーカーがいち早くeスポーツに参入。その後、日本コカ・コーラなどもeスポーツ大会を協賛しており、既に珍しいわけではない。ただ、キリングループがe日本代表に協賛したのには、同グループならではの視点があった。

サッカーは1978年からサポート

 キリングループはサッカーファンであれば誰もが知っているサッカー日本代表を支える企業の1つだ。サッカー黎明(れいめい)期ともいえる1978年からサッカー日本代表のパートナーを務めており、日本男子代表、日本女子代表、フットサル日本代表、ビーチサッカー日本代表と支援対象を広げてきた。そこにeスポーツ・サッカーのe日本代表を加えるのは自然の流れだったという。

 キリンホールディングスブランド戦略部の山口浩樹氏によると、「キリングループは、Jリーグが発足する以前から日本代表を支援してきた。日本代表を応援する、さらにその選手を応援する人たちを応援するのはもはや使命だと考えてきた」という。

キリンビバレッジはe国際親善試合 KIRIN iMUSE CUPに特別協賛し、「キリン iMUSEレモン」「キリン iMUSE 水」「キリン iMUSE ヨーグルトテイスト」を「サッカー日本代表公式機能性表示食品」としてサッカーe日本代表に提供した
キリンビバレッジはe国際親善試合 KIRIN iMUSE CUPに特別協賛し、「キリン iMUSEレモン」「キリン iMUSE 水」「キリン iMUSE ヨーグルトテイスト」を「サッカー日本代表公式機能性表示食品」としてサッカーe日本代表に提供した

 ただ、eスポーツはそれ自体の話題性は高いものの、競技タイトルごとのファンとなると細分化し、その数はまだまだ小さいのが実情だ。それでもe日本代表を支援するのは、人気が定着する前からパートナーとしてサッカーを支えてきた経験と自負があるからだ。

 「企業として日本代表を支えるのは、ファンの規模が大きいからではない。黎明期から支えることがキリングループとしてサッカーに向き合う姿勢だったからだ。長期にわたってサッカー日本代表を支援してきたことは、信頼性や継続性といった意味で、企業への好意にもつながっていると思う。フィジカルスポーツのサッカーとeスポーツのサッカーではファン層も違うだろうが、そうした姿勢は同じ。今後はeスポーツ・サッカーを知らないサッカーファンにもアピールし、その知名度を高めていきたい。そこでeスポーツ・サッカーといえばキリンと言ってもらえるようにしたい」と意気込みを語る。

 eスポーツに参入した企業の中には、話題性や注目度に着目するあまり、その効果がすぐに出ないと手を引くケースも少なくない。キリングループの場合は、日本代表を支援することによる広告効果や企業への好意度向上を狙うだけでなく、理念があってのことと言えそうだ。

若者、健康というアプローチ軸

 その上で、企業としてのプロモーションやマーケティングに生かす戦略ももちろんある。1つは、新たな顧客層、主に若年層とのタッチポイントの創造だ。

 フィジカルスポーツとしてのサッカーは、この40年ほどで日本における人気スポーツとして定着する一方、ファンの高年齢化も顕著になってきた。例えば、Jリーグの2019年の調査によると、J1からJ3まで全55クラブのホームゲーム来場者の平均年齢は42.8歳。前年より0.9歳上がっている。かたやeスポーツは、若年層、Z世代のファンが多い。「キリングループとしても、従来のやり方ではリーチしにくい層」(山口氏)であり、e日本代表への支援を機にタッチポイントをつくっていきたいと考えている。

 もう1つは、同社の健康関連食品の認知度向上だ。キリングループというと、酒類やドリンク類のイメージが強いが、キリンビバレッジや小岩井乳業(東京・中野)といったグループ企業を中心に、健康食品、健康飲料にも注力している。今回、大会名にも含まれる「iMUSE」は、キリングループの独自素材「プラズマ乳酸菌」「KW乳酸菌」を使用した食品や飲料のブランド。「フィジカルサッカーを含む日本代表には水分補給という観点でドリンクなどを提供してきた。eスポーツ・サッカーのe日本代表とは、目という新しい切り口でも連携したい」と山口氏は話す。

キリンホールディングスとして「iMUSE eye KW 乳酸菌」を「サッカーe日本代表公式機能性表示食品」として、e日本代表選手に提供
キリンホールディングスとして「iMUSE eye KW 乳酸菌」を「サッカーe日本代表公式機能性表示食品」として、e日本代表選手に提供

 具体的には、目の疲労感を軽減する効果がある機能性表示食品「iMUSE eye KW 乳酸菌」をe日本代表に提供。eスポーツは長時間ディスプレーを見続けるなど、目を酷使する競技であるため、目をケアする商品は親和性が高い。「今までだとパソコン作業で目が疲れた場合などのシーンを想定していたが、eスポーツで別の文脈ができる。これなら若い世代にも響きやすい。若者と健康というと一見遠いイメージがあるが、コロナ禍などもあり、若者の間でも確実に健康意識の高まりがあると思う」(山口氏)

 こうしてeスポーツを入り口に、若年層にキリンのiMUSEを知ってもらい、将来的にはキリングループおよびその商品群への認知や親近感を高めてもらうのが理想だ。今は若いeスポーツファンが成長し、いずれアルコールをたしなむようになったとき、同グループへの親近感からキリンビールのアルコール飲料を選ぶ可能性もあるからだ。

 そこまではまだまだ長い道としつつも、山口氏は「同じサッカーというカテゴリーにありながら、フィジカルスポーツのサッカーとeスポーツのサッカーはファン同士がお互いをよく分かっているとは限らない。そこで、日本代表というくくりでサッカー全般を支援しているキリングループが双方をつなぎ合わせる役割も担っていきたい」と今後の取り組みを語る。「JFAと相談の上だが」との前置きの後、「キリングループが運営するサッカー応援用のTwitterアカウントは40万人以上のフォロワーがいる。またキリンチャレンジカップのようなフィジカルサッカーの大会も協賛している。これらを通じて、e日本代表を紹介する機会を設けられたら」といったアイデアを語った。

 サッカーというカテゴリーにおいて、フィジカルスポーツとeスポーツを結びつけることで、サッカーは若い世代を取り込み、eスポーツは一般にその知名度を上げられる。これは、リーグ運営者などからもしばしば指摘されることだ(関連記事「eスポーツ運営に挑むJリーグ クラブにとっての新ビジネスを拓く」)。現在のサッカーの発展の一端を支えてきたキリングループがe日本代表の支援にも回ることで、スポンサー側からもこうした取り組みが進むことに期待したい。

(編集/平野亜矢)