アサヒビールは、個々人が体質やその時の気分、シーンに合わせて酒やノンアルコールドリンクを自由に選ぶ飲み方「スマートドリンキング(スマドリ)」を推進している。その一環として、2021年3月に度数0.5%(微アルコール)のビールテイスト飲料「ビアリー」を発売。同製品の好調もあり、ビールテイスト飲料の同年前期の売り上げが約20%アップした。9月末には微アルコールのハイボールなどの新機軸商品も投入する。
ビールとの合わせ買いも多い
世界的にノンアルコール・ローアルコール飲料の市場が伸びている。健康志向や責任ある飲酒への意識の高まり、あえて飲まない「ソバーキュリアス」と呼ばれる人の増加といったトレンドを受けて、2015~19年のノンアルコール・ローアルコール飲料の世界販売数量は年平均で6.3%成長した(Global Data調べ)。
一方、国内の同カテゴリーの販売数量は09年以降、年平均10%と高成長率だったものの、味への物足りなさから12年をピークに下降、その後は横ばいを続けていた。しかし、20年からのコロナ禍での在宅時間の増加や健康意識の高まりから再度注目され、同年の販売数量は急上昇している(21年2月インテージSRI調べ。量販3業態。ビール類・RTDなど缶商品が対象)。
そんな中、アサヒビールは21年3月に首都圏甲信越でアルコール度数0.5%のビールテイスト飲料「ビアリー」を先行発売、6月末には全国発売した (関連記事「アサヒビール、2021年は生ジョッキ缶&微アルコールで勝負」)。飲みたいけれど体質的に飲めない人や、日中の気分転換に楽しみたい人、ソバーキュリアスなど様々な顧客のニーズを喚起した。
「これまでアルコールを飲まず、ノンアルコールも飲んだことのなかった、ノンアルコール・ローアルコールカテゴリー新規エントリー層の獲得比率は、チューハイ(の同カテゴリー製品)に比べて1.67倍と高い。初めてアルコールを買う人がビアリーに手を伸ばしやすいということが分かった」と、アサヒビールマーケティング本部長の松山一雄氏は話す。ほかのビールテイスト飲料と比べて20~30代のミレニアル世代から高い支持を集めているのもビアリーの特徴だ。手応えを感じた同社は、6月に一部地域で「ビアリー 香るクラフト」を追加。9月28日にはこちらも全国発売する。
同社によると、ビアリーとほかのアルコール飲料を併せて買うユーザーのうち、85.4%がビールを併せ買っていた。ビアリーは通常のビールと同じ製造方法で一度ビールを造った後にアルコール分だけを抜くという独特の製法でビールのような味わいを出している。これが評価されているという。
また、21年3~7月のアルコール度数1%未満のビールテイスト飲料市場は20年同期に比べ約20%伸長した。そのうち、ビアリーの売り上げに起因するのは約半分という。
松山氏は、「ビアリーの発売で市場自体が活性化したという事実は大変うれしいことだ」と語る。
ビアリー 香るクラフトの全国販売と同時期に、大阪の吹田工場では5億円規模の設備投資をし、ビール醸造後に低温蒸留でアルコール分をなるべく除去する蒸留施設を新設する。同施設での製造開始は12月予定で、微アルコール商品の製造能力が2倍になるという。
ビアリーは、個人消費者だけでなく、酒類提供停止に対応する飲食店からの需要も大きいという。取扱店は21年7月13日現在、全国で約5000店にのぼる。「日中、今までコーヒーを飲んでいたビジネスパーソンがビアリーに切り替えている」(アサヒビール)例も多く、夜だけでなく日中の需要も見込めることから、度重なる緊急事態宣言などで苦境にあえぐ飲食店が売り上げ貢献への期待を寄せているという。9月14日には「ビアリー小瓶」を発売し、業務用ニーズに応える。
ハイボールもスマドリ化
アサヒビールは今後、ビアリーで提示したスマートドリンキングの価値観を広め、ノンアルコール・ローアルコール市場の成長につなげる考えだ。
まずはスマートドリンキングを「自分ごと」として受け止めてもらえるよう、飲食店でのメニュー表をアルコール度数ごとに並べるように設計し、複数のアルコール度数帯から客が自分に適したものを自由に選べるようにすることを提案する。
製品ラインアップも拡充する。ビアリー 香るクラフトの全国販売と同じ21年9月28日にアルコール度数0.5%の“微アルコール”と3%の“ライト帯”(1~3.5%)のハイボールを発売する。缶入りのハイボール市場は右肩上がりで成長しているが、ほとんどがアルコール度数5%以上で飲めない人も多かった。加えて、コロナ禍での健康意識の高まりから飲める人でもあえて低アルコールを選ぶことが増えてきているため、微アル、ライト帯のハイボールの需要は十分見込めると判断した。
アサヒビールは、25年までにアルコール3.5%以下のノンアルコール・微アルコール・ライト帯の販売容量構成比を、同社アルコール製品全体の20%にすることを目標にしている。多様なアルコールの楽しみ方を提案するために、20年9月にマーケティング本部内に新価値創造推進本部を立ち上げ、スマドリの取り組みを主導してきた。同社は、“スマドリ社会”の実現を目指して他社との協働も視野に入れているという。
(写真提供/アサヒビール)
公開時、ビアリーおよびビアリー 香るクラフトの説明に間違いがありました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです[2021/8/5 18:40]