オリオンビールは2021年7月20日にチューハイブランド「WATTA」の新商品を発売。同日に新商品戦略発表会を行った。6月29日に早瀬京鋳氏が社長を退任したばかりだが、全国展開を見据え、今後どのように販売を拡大していくのか、担当者に話を聞いた。
オリオンビール(沖縄県豊見城市)は2021年7月20日、同社のチューハイ「WATTA」の新商品「ちゅらWATTA ボタニカルライチ」と「ちゅらWATTA ボタニカルマスカット」を発売した。21年4月6日に首都圏(1都6県、コンビニは1都3県)で販売を開始した「WATTAリラックスシークヮーサー」「WATTAパッションフルーツ」「WATTA雪塩シークヮーサー」、6月中旬に発売した「natura WATTA(ナチュラ ワッタ)レモンサワー」に続く新商品だ。
限定品でファン獲得、前年比168%と好調
WATTAは、沖縄県内で19年5月から展開している同社初のチューハイブランド。「ワッター(沖縄の方言で“私たちの”の意)自慢の沖縄の恵み、魅力的な素材を、おいしく楽しく割ったお酒」という商品特徴を分かりやすく伝えようと命名した。沖縄県産素材を使い、沖縄ならではのチューハイ開発を目指している。
同社によれば、19年のブランド開始以来、売り上げは順調に推移。パッケージデザインを大きく変えるなどリニューアルした20年5月から1年間の出荷データは、前年比168%と大きく伸ばし、「1年間で750万本を売り上げた」(同社マーケティング本部ブランドマネージャー福井マリア氏)という。
売り上げに貢献しているのが、固定ファンの存在ではないかと福井氏は説明する。「ブランド誕生以来、認知率は沖縄県内で約7割。リピート率は6割を超えている」(福井氏)。県内の有力ブランドと比べてもそん色ない存在になりつつあるという。
固定ファンをひき付けるのが、限定商品の存在だ。宮古島のハイビスカスから抽出したハーブエキス「Beni」を展開するグランディール(那覇市)との「WATTA ハイビスカス&シトラス」や、沖縄県民のファストフード店として知られるレストランチェーンを展開するエイアンドダブリュ沖縄(沖縄県浦添市)との「WATTAエンダーオレンジ」など、沖縄の企業とのコラボ商品が特に好調で、通年販売となった「WATTAパッションフルーツ」も数量限定版が早々に完売したことを受けて、再販した人気商品だ。
高アルコール終売の決断が話題に
これまで沖縄県内で販売していたWATTAブランドだが、高アルコール度数商品「WATTA STRONG(ワッタストロング)」の販売終了を報じた20年4月のニュースで、全国的な話題を呼んだ。アルコール度数9%の「WATTA STRONG」として通年品の「フルーツシークヮーサーミックス」「ドライシークヮーサー」、限定品の「パッションフルーツ」の計3種を販売していたが、20年1月までにすべての商品の生産を終了した。
高アルコール飲料については、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の松本俊彦・薬物依存研究部部長が依存症などの観点から19年12月に警鐘を鳴らし、社会的にも注目されたが、同社ではそれ以前から沖縄県の社会課題としてアルコール依存症などと向き合う必要があると考えていたという。
沖縄県が実施した「適正飲酒推進調査事業(平成28年3月)」の報告によると、県民の飲酒頻度は全国と比較し少ないものの、飲酒者の割合は男女ともに高く、また1回の酒量が多かった。さらにアルコール性肝疾患による年齢階級別死亡率は男女ともにワースト1位で、世界保健機関(WHO)が作成した「AUDIT(アルコール使用障害同定テスト)スコア」の調査では、「依存症疑い」(AUDITの15点以上)となった男性は約14%で、全国の約2.6倍(全国は5.3%)、女性は4.5%で全国の約7.5倍(全国0.6%)と高い結果になっていた。
大手ではアサヒビールが7月から缶ビールや缶チューハイに含まれるアルコール量を缶容器に「グラム」で記載すると発表。「オリオンビールも表示を開始しているが、これは沖縄の長年の課題だったアルコール依存症に、沖縄企業である弊社が取り組む必要があると考えてきたことも大きい。WATTAに限らずオリオンビールとして、高アルコール飲料は今後も販売しない」(同社マーケティング本部のコミュニケーション担当の原国秀年氏)という。
なお高アルコールチューハイは今も人気カテゴリーなだけに、その影響は大きそうだが、むしろ終売後のほうが売れ行きは伸びている。
体によさそうなチューハイとして展開
新商品である「ちゅらWATTAボタニカルライチ」「ちゅらWATTAボタニカルマスカット」もアルコール度数は標準的な5~6%のみで、さらにハーブ由来の素材を用いて展開。沖縄出身のイラストレーターpokke104(池城由紀乃)が手掛けたパッケージデザインは、ハーブや植物、果実のイラストを配しボタニカルなイメージを演出。使っている素材はもちろん、味も沖縄県内のバーテンダーと共同開発するなど、沖縄にこだわった。「まるでバーで飲むカクテルようなご褒美感あるチューハイ」というコンセプトを含めた商品の世界観を、沖縄の方言で「きれいなこと・美しいこと」を意味する「ちゅら」を入れて示している。
「ターゲットは20~40歳くらいの女性。食中というよりはリラックスできる時間帯に飲む人が多いのではないか。ボタニカルライチに使用しているハイビスカスの花言葉は『新しい恋』、ボタニカルマスカットに使用しているバタフライピーの花言葉は『小さな恋』。新型コロナウイルス感染症の影響で沖縄に足を運ぶことが難しい中、沖縄に『恋い焦がれている』方も多いかと思うが、沖縄の恵みを自宅で感じてもらえれば」と福井氏は話した。
同社のビール製品はアサヒビールの販路を通じで販売されているが、RTD(レディ・トゥ・ドリンク:開栓してすぐに飲めるようにパッケージされたドリンク)商品はオリオンビール独自で展開する。商品によって販売企業が異なるが、ローソンなどのコンビニエンスストアでも入手できるようになりそうだ。
売り上げ目標本数は公表していないが、「21年5月から22年4月までで、県内外合わせ、ブランド全体で前年比3倍程度(の伸び)を計画している。オリオンビール唯一の女性を意識した商品として売り出し、主に30代女性に売れているが、男女の構成比で見ると男性が4割、女性が6割。男女問わず好意的に飲まれていると考えると、ライフスタイルに合わせた飲み方をしてもらいやすい商品として、幅広く売れていくのではないか」と福井氏は期待を込めた。
経営体制に左右されず健康に取り組む
オリオンビールではこの数年、経営体制の変化が続いている。19年3月に野村ホールディングスと米投資ファンドのカーライルグループが約570億円でオリオン株の92.75%を取得し、7月には米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)出身の早瀬京鋳氏が社長に就任。経営刷新が進められ、WATTAの高アルコール製品終売時には早瀬氏の手腕が評価された。だが、21年6月29日に早瀬氏が急きょ、退任を発表。社長は当面空席で、取締役兼専務執行役員CMO(最高マーケティング責任者)の吹田龍平太氏が副社長、取締役兼常務執行役員CFO(最高財務責任者)の亀田浩氏が専務に昇任している。
ただ、高アルコール商品終売を含む健康への取り組みは、前社長就任前から進められてきたことだと原国氏は説明。「オリオングループは、CHO(Chief Health Officer、健康管理最高責任者)を設け、健康経営プロジェクトチームが主軸となって健康経営活動に取り組んでいる。WATTAは高アルコール終売で話題になり、当時の社長がメディアでクローズアップされたが、社長交代によって方針が変わることはない」(原国氏)。
WATTA自体は低アルコールをあえてセールスポイントにする予定はなく、沖縄にこだわった商品であること、沖縄をもり立てる商品であることをメインに打ち出していくという。一方で「“沖縄の”というフレーズがなくても(チューハイと言えば)『WATTA』ブランドだから選ぶ、という存在にしていければ」と原国氏は抱負を語った。