2020年度に続き、電動アシスト自転車の売上が堅調だが、欧米では車種の多様化も進み、日本以上に販売数が伸びている。その流れを受け、日本にも海外メーカーが上陸。スポーツタイプの電動アシスト自転車「e-BIKE」をはじめ、車種の多様化による市場拡大の兆しがある。
新型コロナウイルスの感染拡大で、緊急事態宣言の発令などが続いた2020年は、密にならない通勤手段、レジャーアイテムとして自転車への関心が高まった。経済産業省「生産動態統計」によれば、完成自転車の出荷金額は19年の732億9443万6000円から20年は770億878万8000円と増加している。
また、自転車産業振興協会「自転車国内販売動向調査 年間総括【2020年】」の調査対象※1の100店舗中、1店舗当たりの平均年間車種別新車販売台数構成比によれば、19年は一般自転車49.2%、スポーツ車22.5%、電動アシスト自転車10.1%だったのに対し、20年は一般自転車43.6%、スポーツ自転車24.1%、電動アシスト自転車12.0%に。休日のレジャーに使用するスポーツ自転車や、通勤用としても注目された電動アシスト自転車の売り上げが伸びた。
欧州はe-BIKE中心に市場拡大
自転車市場は日本だけでなく、自転車道やシェアサイクルなどの整備が進む欧州でも、コロナ禍以前より拡大している。例えば人口当たりの自転車保有台数が日本の0.54台を上回る0.9台(「自転車産業振興協会統計要覧(H29.6)」)の自転車大国ドイツでは、20年の出荷台数が前年比16.9%増の504万台、自転車市場規模は前年比61%増の64.4億ユーロ(約8372億円)となっている(「自転車産業振興協会 ドイツ自転車市況2020」)。
中でも販売シェアは電動自転車(日本での電動アシスト自転車とほぼ同義)が38.7%を占め、20年の販売台数は前年比43.3%増の195万台と、日本以上に電動アシスト自転車の人気が高まった。
日本では電動アシスト自転車といえば、買い物向けや通勤・通学、子乗せ自転車といった生活用自転車(シティーサイクル)が大部分を占める。一方、20年のドイツの電動自転車販売比率は、日本の生活用自転車に近い使われ方をしているシティー車が28.0%なのに対し、自転車旅などで使われるトレッキング車が35.5%、オフロードツーリングなどを楽しむe-MTBが30.0%を占めており、スポーツタイプの電動アシスト自転車、いわゆる「e-BIKE」の比率が高い。
30代以上に売れる高級e-BIKE
実は電動アシスト自転車自体は日本で誕生した※2。現在、日本ではこぎ出しから電気モーターのアシストが始まり、時速10キロメートルを超えるとアシスト力が徐々に低下し、時速24キロメートルでアシストが切れるシステムが採用されている。一方、欧州や北米では10年ごろからe-BIKEの人気が出始めたが、これらの地域で開発されたモデルは日本とは異なるシステムを採用していたため、日本への投入が遅れた。
その後、18年に自動車部品のメガサプライヤーであるドイツのBosch(ボッシュ)や、世界最大手の自転車コンポーネントメーカーである日本のシマノが、日本市場向けの電動アシストユニットを発売。これを機に海外メーカーの電動アシスト自転車の日本投入が始まり、徐々にではあるがe-BIKEの車種も増加している。
こうした海外メーカーがラインアップするのは、50万~100万円を超える高価格帯のe-BIKEが中心だ。スペシャライズド・ジャパンが21年1月に発表した「TURBO CREO SL」(19年12月より展開しているロードバイク型e-BIKE)の購入者向けアンケート調査(20年12月24日~2021年1月5日に実施)によれば、購入者層は30代が13.6%、40代が20.5%、50代が34.1%、60代が22.7%で、70代以上も6.8%存在する。使い方は「主にロングライドやグループライド(ペアライドを含む)などでご活用いただいている方が約5割」(スペシャライズド・ジャパン)で、既にロードバイクなどスポーツ自転車を趣味としている層に売れていることがうかがえる。
折り畳みe-BIKEが売れ始めた
一方で、「日本の道路・住環境やコロナ禍の生活スタイルに合ったe-BIKEが人気を得ている」と、台湾メーカー、BESV(ベスビー)の日本法人、BESV JAPANの沢山俊明代表取締役は言う。
「コロナ禍にあって、BESV JAPANで最も売り上げが伸びた車種は、折り畳みタイプのe-BIKE。家やオフィスで収納しやすいだけでなく、車にも積み込みやすいので、旅先などで密にならずに移動やサイクリングを楽しめる点が評価されている」(沢山氏)
また、沢山氏は「日本のe-BIKE市場には、性能・デザイン性に優れた手ごろな価格のモデルがまだまだ少ない」と指摘する。
BESV JAPANは日本で展開する海外e-BIKEメーカーの先駆け的存在で、17年から日本市場で子乗せ用おしゃれ街乗りモデルからマウンテンバイク(MTB)、ロードバイク、折り畳み式タイプまで幅広くe-BIKEのラインアップを展開してきた。現在は20万~30万円の価格帯のモデルを多く販売しているが、BESVの新ブランド「ヴォターニ」で、15万円以下の街乗りe-BIKEを20年に発売したところ、当初の予定台数を上回る人気となった。「現在の日本市場では、海外デザインを採用しながら比較的手ごろな価格帯のe-BIKEが少ないことも、売れた要因だろう」と沢山氏はみている。
50万円以上のe-BIKEは、これからスポーツとして自転車を楽しもうと考えるファミリー層や、アクティブな趣味を好むシニア層には高過ぎるだろう。少なくとも現在の日本市場で求められているのは、生活用の電動アシスト自転車と同等の10万~20万円前後のe-BIKEだと考えられる。なおかつ、日本製とは異なるデザイン性も求められている。
今後の市場拡大には、海外メーカーから手ごろな価格帯のe-BIKEがどれくらい投入されるかが鍵となりそうだ。