食品メーカーがビーガン対応製品の開発に乗り出してきている。江崎グリコの「プッチンプリン」などロングセラーのお菓子が卵・乳不使用の製品を投入、大豆を使用した肉代替製品もラインアップが拡充している。市場は拡大しているが、今後消費者にはどのように広がっていくのか。メーカーに話を聞いた。

2020年3月16日から販売されている「植物生まれのプッチンプリン ファミリーパック」(希望小売価格200円:写真提供/江崎グリコ)
2020年3月16日から販売されている「植物生まれのプッチンプリン ファミリーパック」(希望小売価格200円:写真提供/江崎グリコ)

ビーガン人口が低い日本にも変化が

 20~30代のミレニアル世代など若者を中心に、環境への負荷の大きい肉食を避ける傾向が強まり、ビーガン(肉や魚、卵、乳製品などの動物性食品を食べない完全菜食主義者)が世界的に増えている。

 国土交通省観光庁の「飲食事業者等におけるベジタリアン・ヴィーガン対応ガイド 観光庁 参事官(外客受入担当)令和2年4月版」では、主要100カ国・地域におけるベジタリアンなどの人口は、欧米諸国を中心に毎年約1%近くの増加傾向にあり、2018年には約6.3億人に達したと紹介している。

観光庁の資料を基に編集部で作成
観光庁の資料を基に編集部で作成

 魚食への嗜好が強いせいか、日本ではビーガン人口は先進国の中でも非常に低いというデータもあるが、近年はビーガンを自認する人や、ビーガンに対応したメニューを提供する飲食店なども増えてきた。また、ロングセラーのお菓子に卵・乳不使用の製品が少しずつ増えたり、大豆を使用した肉代替商品がスーパーに並ぶようになったりと、ビーガンにも対応する製品の市場は拡大している。

売れた動物性原料不使用プッチンプリン

 その代表例が、22年に発売50周年を迎える江崎グリコのロングセラー商品「プッチンプリン」。開発に約3年をかけ、同ブランド初となる動物由来の原料を使用しない新商品を開発。20年3月16日から「植物生まれのプッチンプリン」として販売をスタートした。まだ取扱店は少ないものの反響は非常に大きく、20年度は販売計画の190%を達成。「どこに売っているのか」という取扱店舗に関する問い合わせも、他商品よりかなり多いという。

 江崎グリコ 乳業・洋生菓子マーケティング部の高橋柚衣氏は「発売してみて、予想以上に動物由来の原料不使用の食品市場の大きさを実感しています。厳密なビーガンだけでなく、もっと緩やかなプラントベースの志向も高まっており、この市場は今後、加速度的に広がるのでは」と話す。

パッケージは通常の「プッチンプリン」(写真左上の上、右上の下、左下の下、右下の左)と比べると、違いが分かりやすい「植物生まれのプッチンプリン」
パッケージは通常の「プッチンプリン」(写真左上の上、右上の下、左下の下、右下の左)と比べると、違いが分かりやすい「植物生まれのプッチンプリン」

 ロングセラー商品であり、カテゴリーシェアNo.1(※インテージSRIプリン市場18年10月~19年9月販売金額)として消費者に定着しているだけに、開発で苦心したのは味や食感。

 「開発当初は食物アレルギー『特定原材料およびそれに準ずるもの』27品目全てを使用しないプリンを想定しており、コクを補うための食材として、当時は『特定原材料およびそれに準ずるもの』に指定されていなかったアーモンドペーストを中心に検討していました(アーモンドを含む28品目になったのは19年9月から)。でも『ナッツの味が強すぎても、くどくなって食べ飽きてしまう』という課題が浮上し、風味が穏やかな豆乳をメーンに使用することしました。結果的に大豆・アーモンドを含むことになり、アレルギーフリーではなくなりましたが、既存のプッチンプリンのおいしさにより近づけることができました」(高橋氏)。

左列が通常のプッチンプリン。右列が植物生まれのプッチンプリン。比べると植物生まれのほうは少し柔らかく、甘さも控えめ。ただし単体で食べれば気づかない人も多そうだ。「プッチン」はどちらも問題なくできる
左列が通常のプッチンプリン。右列が植物生まれのプッチンプリン。比べると植物生まれのほうは少し柔らかく、甘さも控えめ。ただし単体で食べれば気づかない人も多そうだ。「プッチン」はどちらも問題なくできる

 原料を変えたことで、プリンの表面に離水作用(食品の外部に水分が出てしまうこと)が起こるという問題も発生した。離水が起こるとプリンが容器から流れやすくなり、傾けただけで中身が出てしまう。「やはり、爪をプッチンと折った瞬間、お皿に出るのがこの商品の醍醐味の1つでもあるので、そこはこだわりました」(高橋氏)

結果的に「ビーガン対応商品」に

 開発に際しては「みんなで一緒に同じものを食べられるようにしたい」という思いが強かったという。

 「卵や乳製品のアレルギーを気にしてプッチンプリンが食べられない方、食べるのを控えている方は少なくありません」(高橋氏)。アレルギーやライフスタイルになるべく左右されることなく、より多くの人にプッチンプリンを楽しんでもらいたいという。実際、「初めて子供がプッチンプリンを食べられた!」という喜びの声が非常に多く寄せられているとのこと。

江崎グリコの自動販売機(写真上)専用の「セブンティーンアイス」には現在、「サイダー」「温州みかん」(写真下)という2種類の食物アレルギー対応商品がある(商品ラインアップは自販機により異なり、一部取り扱いのない場合あり。また製造ラインでは乳成分を含む製品を製造している)(写真提供/江崎グリコ)
江崎グリコの自動販売機(写真上)専用の「セブンティーンアイス」には現在、「サイダー」「温州みかん」(写真下)という2種類の食物アレルギー対応商品がある(商品ラインアップは自販機により異なり、一部取り扱いのない場合あり。また製造ラインでは乳成分を含む製品を製造している)(写真提供/江崎グリコ)

 同社では、自動販売機専用の「セブンティーンアイス」の一部でも、乳成分を使用しない(製造ラインでは乳成分含む)商品の発売を18年5月28日から開始している。こちらも「友達と同じものを食べたいのに、自販機は全て乳成分入りのアイスばかり。1種類だけでも乳アレルギーの子供も食べられるアイスを作ってほしい」というユーザーの声に応えた商品。反響は予想以上に大きかったとのこと。

 他に21年で発売36年目のロングセラー商品「アイスの実」も、21年春発売のフルーツ系品種から乳成分を使用しない(製造ラインでは乳成分含む)商品を発売(※)。こちらは食物アレルギーあるいはビーガン対応で開発したものではなく、「素材本来の味わいを追求するブランドとして、フルーツが持つジューシーで濃厚なおいしさをより引き立てるため、乳成分不使用配合の検討を開始」(江崎グリコ アイスクリームマーケティング部 若生みず穂氏)したものが、結果的に「製品に含まれるアレルギー物質28品目から乳成分が削除」になったケースだ。

※「アイスの実 大人シリーズ」「スマイルプラス+アイスの実」では乳成分使用のラインナップを展開

 こうした、「結果的にビーガンの人も食べられる」商品は他社からも出ている。例えば、1912年にナビスコ(現在日本ではモンデリーズ・ジャパンが販売)が発売した「オレオ」シリーズは、20年から乳製品不使用になっている。

マルコメ「大豆のお肉」20年から拡大

 動物性原料不使用食品のもう1つの大きなトレンドが、大豆原料の肉代替食品だ。たんぱく質クライシスといった食糧問題や環境問題、SDGsなどの取り組みから、近年急速に注目度が高まり、家庭の食卓にも定着しつつある。

 マルコメは味噌づくりで培った大豆の知見を活用し、15年に湯戻しの手間が不要なレトルトタイプの「ダイズラボ 大豆のお肉」(以下「大豆のお肉」)シリーズを発売。以後ラインアップを拡充し続け、現在は「ダイズラボ 惣菜の素」が13種類、「ダイズラボ 大豆のお肉」12種類を展開している。

 アイテム数の増加は消費者の関心の高まりを反映しているが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う自粛生活で家庭内食が増えた20年はさらに市場が拡大。同社の20年の伸長率は計画比159.9%(※)と大きく伸び、21年も150%を見込んでいる。

※大豆のお肉シリーズのマルコメ出荷実績(20年1月-12月)

 小売りではターゲットにしていた精肉売り場にも順調に定着しつつあり、大手GMS(総合スーパー)で展開中の精肉パックは想定を上回る販売数で推移している。コロナ禍以前は、メディアに取り上げられても消費者がスーパーのどの売り場にあるのか分からずEC(ネット通販)に流れる傾向があったが、最近では小売りでもコーナー化が進んでおり、特に精肉売り場での取り扱いが増えている。

21年3月には、「LA BETTOLA da Ochiai」のオーナーシェフ、落合務氏の監修による味付きシリーズも発売。「大豆のお肉和風ブロック」「大豆のお肉洋風ミンチ」「大豆のお肉中華フィレ」(各80g、オープン価格:212円※編集部調べ)(写真提供/マルコメ)
21年3月には、「LA BETTOLA da Ochiai」のオーナーシェフ、落合務氏の監修による味付きシリーズも発売。「大豆のお肉和風ブロック」「大豆のお肉洋風ミンチ」「大豆のお肉中華フィレ」(各80g、オープン価格:212円※編集部調べ)(写真提供/マルコメ)

ビーガン対応、目的ではなく結果

 マルコメ マーケティング部 広報宣伝課の其田譲治氏は、「元来、農耕民族であった日本人にとって、動物由来ではない植物由来の食物は親和性が高い」と指摘。また「新型コロナ禍で日々の食事を通じた健康意識の高まり、ローリングストックする防災食としてのニーズの高まりなど、今後も続く要因もあり、大豆のお肉が伸びていく可能性、将来性につながるのではないかと捉えています」と話す。

 ただ、この製品ももともとはビーガンを意識したわけではない。「マルコメは、お肉は好きだけどカロリーや脂質が気になるというお客様、小麦アレルギーのお客様、グルテンフリーを求められるお客様など、健康に気を使われているお客様のニーズを満たすヘルスコンシャスな商品を追求すべく、脱脂大豆に余計な添加物を加えず、大豆の栄養価をそのまま取れる商品づくりを目指しています。その結果として、環境問題の解決にも貢献する商品となっているのが、マルコメの大豆製品なのです」(其田氏)と説明する。

 実際、欧米のビーガニズムの高まりが、そのまま日本に波及することはないのでは、という見方は強い。欧米の食に対するニーズには動物愛護や宗教上の理由以外にエコやサステナブルへの関心も作用しているが、日本人の食に対するニーズはおいしさやヘルシーさが大きな比重を占めている。エコやサステナブルといった価値観は日本人の琴線に触れにくく、食生活を大きく変える動機にはなり得ない、というのだ。日本では、欧米とは違う形で、ビーガン対応の食品という新市場が開拓されるかもしれない。

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