2021年7月1日、東京・代々木上原のフレンチレストラン「sio(しお)」は、鳥羽周作シェフがレシピを監修した「ふつうのマヨネーズ」のD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)での販売を開始した。挑発的とも受け取れるネーミングがSNSで話題になり、好調に売れている。

鳥羽周作シェフがレシピを監修した「ふつうのマヨネーズ」
鳥羽周作シェフがレシピを監修した「ふつうのマヨネーズ」

エンゲージメントの高いファンに向けたD2C

 sioが専用サイトで販売している「ふつうのマヨネーズ」は、120グラム入りの瓶が3つセットで3800円(税込み、以下同)。穀物酢の代わりにワインビネガーを使うなど厳選した原料で作られており、塩味と酸味を抑えた自然な甘味が特徴だ。

 「ミシュランガイド東京」の2020年版、2021年版に2年連続で1つ星を獲得したsioのシェフが理想とするマヨネーズとあって、「ひと塗りするだけで“食材”が“料理”に変わる」と鳥羽周作シェフは胸を張る。

フレンチレストランsioの鳥羽周作シェフ
フレンチレストランsioの鳥羽周作シェフ

 「ふつうのマヨネーズ」の価格を100グラム当たりに換算すると約1056円。同89円のキユーピーマヨネーズ(450グラム、参考小売価格402円)の12倍近くになる。にもかかわらず販売は好調で、2021年7月7日と14日の2日間限定で用意した「ふつうのマヨネーズのふつうじゃないコース」(各20席、2750円)も受け付け開始初日に予約がいっぱいになった。

「ふつうのマヨネーズのふつうじゃないコース」は全5品。最初の1皿はスプーンに盛られただけのマヨネーズが提供される
「ふつうのマヨネーズのふつうじゃないコース」は全5品。最初の1皿はスプーンに盛られただけのマヨネーズが提供される

 「このマヨネーズはめちゃくちゃ売れる」と鳥羽シェフが言い切れるのは、マヨネーズのおいしさもさることながら、家庭でおいしい料理を作りたいという人が増えていることを知っているからだ。

 鳥羽シェフのTwitterアカウントには約7万9000人のフォロワーがいるが、「その中にはスパイスカレーの自作に挑戦したという人や、プロが使う本格的な調理器具をそろえたいという人がたくさんいる」と鳥羽シェフは言う。「ふつうのマヨネーズ」は、まずフォロワーに食べてもらい、そこから口コミを広げていく展開を狙っているのだ。

鳥羽シェフのTwitterには約7万9000人のフォロワーがいる。またInstagramアカウント「おうちでsio/鳥羽周作」にも約2万4000人のフォロワーがおり、2021年5月5日に開設したYouTubeチャンネル「鳥羽周作のシズるチャンネル」は、2カ月足らずで登録者数が4万5000人を突破した
鳥羽シェフのTwitterには約7万9000人のフォロワーがいる。またInstagramアカウント「おうちでsio/鳥羽周作」にも約2万4000人のフォロワーがおり、2021年5月5日に開設したYouTubeチャンネル「鳥羽周作のシズるチャンネル」は、2カ月足らずで登録者数が4万5000人を突破した

 鳥羽シェフは、フォロワーからの返信ツイートにきちんと目を通し、返信することでファンと密な関係を築いてきた。「僕が『おいしい』とツイートしたパスタはアマゾンですぐに売り切れた。それくらいフォロワーのエンゲージメントは高い」と鳥羽シェフ。販売方法としてD2Cを選んだのは、そうしたフォロワーのエンゲージメントの高さ故だ。

 価格的には一般受けするとは考えにくい商品だが、個人店の直販なら3800円のものが1万セットも売れれば十分にビジネスとして成り立つ。「『ふつうのマヨネーズ』は本当においしい。SNSを通して価値をきちんと伝えることができれば選ばれる」と、鳥羽シェフは自信を見せる。

鳥羽シェフがネーミングに込めた思い

 発売前からSNSで注目され、「気になる」「食べてみたい」といったツイートが相次いでいた「ふつうのマヨネーズ」。オンライン販売が始まるとすぐ、約38万人のフォロワーがいる菅本裕子(ゆうこす)氏、約8万6000人のハヤカワ五味氏などが「おいしい」と反応し、「『ふつう』と言うには高すぎる」とするアンチも巻き込んで「ふつうとは?」論争がTwitter上で巻き起こった。

 とはいえ、自身が監修したマヨネーズに「ふつうの」と付けたのは論争を狙ったからではない。「理想のマヨネーズができたと思っているが、だからといって『究極の』とか『至高の』とかいった名前を付けるのは違う」と鳥羽シェフ。「商品名に『ふつうの』と付いていれば、『ふつうじゃない』というツイートが返ってくるのは分かっている。そうしたツイートに僕が返信することで盛り上がればいい」(鳥羽シェフ)

7月1日の夜にはゆうこす氏がTwitterでふつうのマヨネーズを取り上げた
7月1日の夜にはゆうこす氏がTwitterでふつうのマヨネーズを取り上げた

 話題のマヨネーズを食べてみたいという人が現れ、「おいしい」と評判になれば、おのずと販売数は伸びていく。鳥羽シェフは「sioで販売している『贅沢(ぜいたく)弁当』は1万円以上するが(21年6月末で販売終了)、『おいしい』にお金を払う人はいる。かつて普通のアイスクリームに比べて格段に高いイメージのあったハーゲンダッツが今ではふつうに買われているのと同じ」と語る。

 鳥羽シェフが「ふつうのマヨネーズ」で目指したのは、マヨネーズ本来の味わいを持ち、高価でも“ふつうに”買ってもらえるマヨネーズだ。ハーゲンダッツのマヨネーズ版と言っていい。

(写真提供/sio)

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